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女の子として見てよ

「入って」

二階に連れてこられるなり、俺は朱莉の部屋の前に立たされた。

そして朱莉は自分の部屋のカギを開け、俺を中に入るように促す。


「・・・入って」

圧がすごい。


決して声を荒げているというわけでもないのに、とてもじゃないが朱莉に逆らえない雰囲気だ。

俺はおそるおそる中に入り、そのまま背後を振り向いた。

朱莉はゆっくり中に入ってくると、後ろ手で扉を閉めてしまう。


がちゃん。

カギの音だ。

どうも内鍵を掛けられたらしく、本格的に焦燥感が増してくる。


「ちょ、ちょっと待って、怒ってるわけじゃないよね・・・?」

あまりに朱莉の圧が強いので、俺はまさか彼女の地雷を何か踏んでしまったのではないかと恐れをなしていた。


「・・・怒ってないわよ、今はね」

「い、今は⁈」


今はってことは、今後は怒る可能性があるのかよ⁈

まさかの宣告に俺は震えあがったが、朱莉はどこかもじもじとしたまま俺の方へ向かってくる。


「こ、この後の俺の行動で怒るかもしれないってこと・・・?」

俺が戦々恐々としたまま尋ねると、朱莉はつんとしたままうなずいた。


「まあ、そうなるかしらね。だから、怒らせないのが賢明なんじゃないかしら?」

「ひえっ・・・」


彼女は軽々と言っているが、俺は恐ろしくて動けたもんじゃない。


「お兄ちゃん、ベッドのそばまで行って」

朱莉から命令が飛んだ。


窓辺から夕暮れの日差しが差し込んできている。

逆らえるわけがない、俺はぎこちなくなりながらも足を運んだ。


ベッドの側に立つ。

朱莉はそんな俺をじっと見つめていたが、次の瞬間ものすごい勢いで俺の方向へ飛び掛かって来た。


「う、うわあああ⁈」

あまりに突然のことだったので俺は受け身も取れず、そのままベッドに背中から倒れ込んだ。

後ろがベッドだからよかったものの、もし床だったらと思うと血の気が引く。


しかし俺が青ざめていたのも束の間、俺の顔は一瞬で真っ赤になっただろう。

「お兄ちゃん、逃げないでよ?」


朱莉が俺にのしかかっていたのである。

というか、これはもはや押し倒されていると言えばいいのだろうか。


朱莉は両手を俺の顔の側について、左右どちらにも逃げられないようにしている。

俺の顔の目の前には朱莉の顔がある。


「ちょ、ちょっと・・・近すぎないかな・・・?」

できるだけなだめるように言ってみると、朱莉は鼻を鳴らしてさらに近付いてきた。


「そう。そう言うならもっと近づいてあげる」

「わわわ・・・!」


普段から朱莉は何かのスイッチが入ると止まらないタイプだが、ここまで大胆な行動に出るとは思っていなかった。

彼女の鼻先と俺の鼻先が触れあっている。


「・・・ねえ、お兄ちゃん。私からのあの秘密の紙、読んだ?」

そう聞かれ、一階で目にしていた例の紙のことを思いだす。


「あ、ああ、そうだな・・・読んだ・・・」

「・・・てことは、その中身ももう分かってるんでしょ?」

「・・・そう、だな」


あの紙の中に書かれていたこと、それは朱莉が俺のことを好きであるということ。

文章にしてまで渡してきたのだから、決して冗談などではない感情だ。


「・・・ねえ、お兄ちゃん。私の好きって気持ちが、どんな好きか分かってる?」

「・・・それは・・・」


「今まで私、お兄ちゃんに何度も好きって言ってきた。でも、お兄ちゃんはそのたびに私のそれを兄妹愛か何かと思って来たんでしょ。そうじゃなきゃ、あんなに平然としていられないでしょ?」


真剣な目で問われ、俺は今までのことを振り返った。

そう言われてしまうとそうだ。


俺は確かに朱莉に何度もアピールされていたようなのだ。

しかしそのすべてを、俺は朱莉からの家族愛のサインか何かだと思ってきてしまった。

だが、今こんな格好になっているということは、つまりは。


「お兄ちゃん、好き。いいえ、凛斗、あなたが好き。お兄ちゃんじゃなくて、一人の男の子として好きなの」

朱莉の言葉に、俺は思わず息をのんだ。


彼女と出会って何年経つか、もう数えきれないくらいの年数を共にしてきたが、彼女から名前で呼ばれたことはなかったはずだった。

だが今朱莉はあえて、俺をお兄ちゃんではなく下の名前で呼んだ。


「・・・凛斗は、家族全員を愛してるわよね。そのことは私もよく分かってる。だけど、一個だけ聞いてもいい?」

「・・・う、うん」


うるんだ朱莉の瞳を見ては、断ることなどできるわけがなかった。

朱莉は意を決したように息を整え、俺の目を見つめて尋ねてきた。


「ねえ、私のことを一人の女の子として見ることはできない?」

そんなことを言われ、俺は息を忘れた。

朱莉を、一人の女の子として見る・・・。


それはつまり、家族愛ではなく恋愛として彼女を捉えてくれという告白に他ならない。

「どうなの・・・?」

朱莉はさらに顔を寄せてきた。


もう、鼻先が触れあうだけでは済まない距離になりそうだ。




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