スグルの母、現る
病院に到着してから、陸斗は緊急で処置を受けた。
そして病院に到着したのが早かったことと、応急処置が適切だったおかげで、これといった後遺症もなく回復することができた。
陸斗はまだ病室の中に隔離されているが、命に別条がないと言うことを意志から聞かされた時は安堵から立っていられなくなりそうだった。
「凛斗! 陸斗は⁈」
そして廊下の向こうから響いてきた声の方に顔を向けると、そこにはスグルと朱莉がいた。
走って来たのだろうか、二人ともかなり息が切れているように見える。
だがともかく陸斗は無事だ、それを伝えてやろうと思った。
「ああ、無事だよ、陸斗なら助かった。スグルが適切な処置をしてくれたからだよ、ありがとう!」
俺は感謝からスグルを抱きしめた。
だがそれからすぐに慌てて離れる。
「わっ、ごめん! しまった! つい感極まって・・・!」
俺は慌てて弁明したが、スグルは一切責めてくるようなことはなかった。
「ううん、全然いいんだよ。むしろボクも同じような気持ちさ。陸斗が助かってよかった。本当に・・・」
スグルは安どのため息を吐いて、張り詰めていた肩を落とした。
スグルがこれほどまでに大きな反応を見せたのは新鮮な気もするので、スグルも相当に陸斗のことを案じていたのだろう。
そして朱莉も泣きそうな顔をして安心していた。
「よかったわ、ほんと、一時はどうなることかと思っていたの・・・」
そりゃ朱莉からすれば気が気ではなかっただろう。
俺だって死ぬほど焦ったのだから、朱莉だって同じように動揺が止まらなかったはずだ。
「でもこれでひとまずは助かったね・・・。陸斗が元気になったら、会わせてもらおう」
そうして俺たちは陸斗が回復するのを待ち合いで待機し、ようやく面会を許された。
「陸斗!」
部屋の中に真っ先に飛び込んでいったのはスグルだった。
俺たちも早く顔を合わせたいのは山々だったが、この時のスグルの俊敏さは群を抜いていた。
陸斗はベッドの上に座っており、すっかりじんましんなども引いているようだった。
「スグルくん! ありがとう! ぼくたすかったよ!」
陸斗はスグルに応急処置をしてもらったことを覚えているらしく、感謝を述べた。
そして近寄って来たスグルを抱きしめた。
「ああ、陸斗・・・」
抱きしめられたスグルは感動したように震えて、さらに強く陸斗を抱きしめ返した。
その光景を見て、スグルからしても陸斗からしても、互いはかけがえのない友人になっているのだろうなと感じた。
スグルは昔から一人で過ごしてきたわけで、陸斗は貴重なゲームや遊びの仲間だ。
陸斗も同様に、同じような目線で遊んでくれる相手としてスグルを大切に思っているだろう。
「スグルがお家にいてくれて、ほんとうによかった!」
そう言われ、スグルはまばたきを繰り返した。
言葉が意外だったのか、それとも胸に思った以上に響いたのか。
どちらにせよ、スグルは陸斗を抱きしめたまま動かなかった。
「ボクも、凛斗たちの家にいるのが大好きだよ・・・」
どこか切ない声だった。
スグルははたして両親にメールをしたのだろうか。
真相は分からないものの、スグルの様子からしてきっとまだ気にしているのだろう。
「まあだけど、とにかく、陸斗が助かってよかったな。スグルが適切な治療をしてくれたおかげだよ」
「・・・ありがとう」
俺からも感謝を述べると、どこか照れくさそうにスグルは微笑んだ。
コンコン。
一瞬は何の音か分からなかった。
しかしすぐにその音が扉のノック音なのだと気が付く。
「は、はい、どういたしましたか?」
お医者さんがやって来たのだろうかと思い返事をすると、そこにやって来たのは白衣をまとった美しい女性だった。
おそらくは医者なのだろうが、その美しさに圧倒されてしまう。
「・・・アレ?」
そう、そして何より俺が気になったのは、その容姿が誰かに似ている事だった。
「スグル・・・?」
俺は思わずスグルの方を振り返った。
そう、部屋に入って来た女医はスグルが大人になったような見た目をしていたのだ。
すらっと背が高く、この世の全てを圧倒するかのような美貌。
そしてスグルも驚いたように目を見開き、すぐに立ち上がった。
「か、母さん・・・!」
俺の予想は当たっていたようだった。
この女医さんはスグルのお母さん。
確かにスグルの両親は医者だと聞いていたが、ここまでそっくりだとは思わなかった。
「ええ、スグル。久しぶりね。まさかこんなところで再会するとは思わなかったわ」
ゆったりと落ち着きのある大人びた喋り方。
ハキハキとハイトーンなスグルの声とはまた対照的に感じられる。
「か、母さんがボクに何の用なの?」
そして何よりスグルは恐れをなしているようだった。
もともと両親とそこまでのかかわりを持っていないからだろうか、スグルからお母さんに対しての声掛けにはどうしようもないぎこちなさがある。
しかしスグルのお母さんはまっすぐに部屋に入ってくると、そのまま陸斗を見下ろした。
「この子なんだけどね、あなたが応急処置をしたのかしら?」
「・・・そ、そうだけど」
スグルのお母さんは、陸斗をスグルが手当てしたのかということを気にしていた。
なんだか妙に満足げな目つきで陸斗を見つめているので、陸斗自身も少しおろおろしている。
「そう・・・」
スグルのお母さんはすっと陸斗の元から離れると、スグルの目の前に立った。
圧倒的なスタイルから繰り出される威圧感というものはとんでもなくて、スグルとスグルのお母さんが見つめ合っている様子はもはや一枚の絵画のようだった。
「あのね、スグル」
「・・・な、なに」
あのスグルが緊張しているようだった。
怖いもの知らず、恐れ知らずと言ってもいいようなスグルが、自らの母に対しては怯んでいる。
俺がその光景に唖然としていると、間髪入れずにスグルの母が動いた。
一体何をするものかと目を逸らせずにいたが、彼女が選んだのは意外な行動だった。
「ごめんなさいね、スグル・・・」
そう、スグルのお母さんはスグルのことをゆっくりと抱きしめたのだ。
まるで壊れ物を扱うかのような優しい手つきで、今までのことを全て謝るかのように。
「え・・・」
この行動にはスグルもあっけにとられてしまったようで、目を丸くしたまま母の肩越しに病室の壁を見ることしかできなくなっている。
しかしすぐに続けてスグルの母は話し出した。
「スグル、あなたはこの子を家族だと思ったんでしょう?」
その一言に、さらに大きくスグルの瞳孔が開いた。
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