まさかまさかのツイスターゲーム・後
「えっと、次は左足を赤の・・・」
心臓のうるささに余裕をなくしている俺に対して、朱莉はますます面白そうに笑うようになってきている。
しかも朱莉の左足はぴったりと俺の左足に沿うように動かされた。
おかげで完全に背中に乗られているような状況だ。
「あ、あの、ちょっと、流石にこれは・・・」
「ふふふ、ずいぶんと顔が赤いようだけれど・・・?」
微笑ましそうに言われ、俺はなんだか情けなさすら覚えた。
妹に手のひらで転がされている感覚は、なんとも言えない恥ずかしさがある。
「ねえお兄ちゃん、こういう時はドキドキするのね。意外と現金な部分があるのねぇ」
何かを確かめるように言われて、俺はうなずくにうなずけない。
というか、この状況で焦らないヤツなんていないと思うけれどもね⁉
そんなこんなで騒いでいた俺たちだったが、しかし一つ大きな問題は別の場所にあったのである。
そう、女の子に対して言ってはいけないことだが・・・。
「ぜ、全体重が、かかって・・・!」
朱莉はかなり俺に密着して来ていたため、その体重が全てかかってきていたのだ。
「は、はあっ⁉」
朱莉は目を見開いたが、俺は次の瞬間にはその場にぺしゃりと潰れてしまっていた。
でも仕方がないと言い訳をさせてくれ!
俺だって不安定な格好で四つん這いになっていたから、耐えるに堪えられなかったのだ・・・!
「もうっ、何言ってるのよ!」
「違う、重いとかじゃなくて!」
「女の子に対して言う言葉じゃないでしょ!」
俺たちが言い合いを繰り広げていると、タブレットが起動した。
『あのう、言い争っているところ申し訳ないけれど・・・また失敗という事ですかね』
そしてそのセリフが終わると同時に、裏のパーテーションからスグルが姿を現した。
「お二人さん・・・こんなにも見事に全てのゲームを失敗していくなんてねえ・・・ボクもびっくりですよ」
スグルはもはやどこか呆れたような顔をしている。
「も、申し訳ありません・・・」
「ご、ごめんなさい。ちょっとミッションの趣旨を忘れちゃってて・・・」
俺たちは肩をすくめることしかできず、しょんぼりと謝った。
するとスグルはすっととある紙を取り出し、俺たちの前に突き付けてきた。
「さて、この紙ですが、今からお二人に内容をお伝えしてしまってもいいんですかねえ」
そう、スグルが手に持っていたのは、この脱出ゲームを始める前に秘密を書き残していた紙だ。
「あ・・・」
俺は一瞬戸惑ったが、見られて困るようなことは書いていない。
だから許可しようかと思ったのだが、朱莉は慌てたようにしてスグルに飛び掛かった。
「だ、ダメ・・・! やっぱりそれだけはどうしても・・・! 私の口から直接言わないと・・・!」
朱莉はスグルの元に飛びついて、どうにかその紙を返してくれと頼んだ。
そんなに大切なことを書いたのだろうか、気になってしまうが・・・。
そしてそんな必死な様子の朱莉を見て、スグルも思うところがあったらしい。
「・・・うーん、分かったよ。じゃあ、その代わりにこうするのはどう?」
スグルは朱莉にとあることを小さな声で告げ始めた。
ぎりぎり俺には聞こえないくらいの声だ。
気になるが、傍に行って聞くことはできないから仕方がない。
そしてスグルからの提案を聞き終えたらしい朱莉はうんうんとうなずいた。
なんだろう、納得がいったのだろうか。
「お、お兄ちゃん、この紙なんだけど・・・」
朱莉がスグルの手元に指をさすと、スグルは俺たちが書いた紙をそれぞれの手元に戻した。
「こ、これ、お互いに中身を見ないで交換して、いつか本当に気になった時に見ない・・・? 私の書いたことは、その、すごく大事なことだから、すぐには見ないでほしいんだけど・・・」
朱莉は恥じらうようにしてうつむいて、必死にそう伝えてきた。
なるほど、この場で見ることのハードルが高いならばあとで見てもいいわけか。
「じゃあ、そうするか?」
しかしそうは言っても、俺が書いたことも書いたことなので心配だ。
後から見て朱莉がしょうもないと思わないだろうか。
「でも朱莉、俺そんなに重たいこととかすごい秘密とか書けてないよ?」
その事が心配になり尋ねてみると、朱莉はでしょうねと言いたげな顔をした。
「分かってるわよ。お兄ちゃんのことだからそう言うんじゃないかなと思ってた。お兄ちゃん、私に隠し事したことないもんね」
どうも朱莉には見抜かれていたらしい。
我ながら大人びている妹だと思わされる。
「わ、わかった、じゃあ、交換しようか」
スグルから渡されていた紙を交換し、俺はそれをなくさないようにスマホのカバーの部分に挟んだ。
いずれ見る時が来るまでに、どこかに紛失してしまっては取り返しがつかない。
「その、お兄ちゃん。その紙だけど、私がいいよって言うまでは見ないでほしいの。これはどうしてものお願い・・・。約束してくれない・・・?」
朱莉は不安そうにこちらを見つめ、小指を差し出してきた。
普段から強気な発言の多い彼女にしてはいじらしい仕草だ。
「もちろん、朱莉の頼み事なら聞くに決まってるよ」
俺は彼女の小指に指を添え返し、ゆびきりげんまんをした。
「なるほどねえ・・・」
スグルは興味深そうな顔をしていたが、それからすぐに何かの準備をし始めた。
「そういやなんですけどお二人さん、これから予定はあります? ボク今からシフトが空くので、自由行動できるんだけど・・・」
「あら、そうなの?」
「せっかくなら三人で文化祭回ろうよ、思い出作りにいいんじゃないかな」
「いいじゃないか、三人で回ってみるか?」
提案すると、朱莉もうなずいてくれた。
「そうね、回ってみたいわ。私もシフトがいっぱい入ってて忙しくて、全然他のとこ見られてないから・・・」
脱出ゲームでは散々な結果に終わってしまったが、これから三人で文化祭を回るのは楽しみだ。
「そうだ、はぐれちゃいけないから、こうしませんかね」
スグルはふとそんなことを言って、俺たち二人の方を見やった。
それから間髪入れずに俺の手と朱莉の手を結ぶ。
そしてスグルは反対側の俺の手の方に回ると、そちらの方で手をつないできた。
この状態じゃ、俺が両手を左右から握られていることになってしまう。
「ちょ、スグル、これじゃめっちゃ目立つだろ!」
俺はツッコんだが、スグルは聞く耳を持たない。
「いいじゃない、いいじゃない、はぐれちゃあ台無しでしょ?」
そりゃはぐれないに過ぎたことはないと思うが、ここまでする必要があるのだろうか?
「朱莉、これでいいの?」
不安になって朱莉に尋ねてみると、朱莉はかえって手を恋人つなぎにしてきた。
「い、いいんじゃないの。こんな機会滅多にないんだし・・・」
彼女はそう言ってそっぽを向いてしまった。
まあ、朱莉がいいというならいいけれど・・・。
「それじゃ、行こうか!」
スグルに連れられるがまま、俺たちは慌ただしく教室を後にした。




