まさかまさかのツイスターゲーム・前
スグルは俺たちにゲームを指令するなり、すぐにパーテーションの裏に引き下がって行ってしまった。
「ああ、行っちゃった・・・」
引き止める間もなかったものだから、俺たちは忽然とツイスターゲームの前に取り残されたまま。
『さてさて、それじゃあさっそく始めるとしますか?』
タブレットが起動し、そこにスグルが映ったかと思えば、今度はその画面がルーレットの画面に切り替わった。
『それじゃあこの画面に出てくる指示に従って、交互にゲームを進めて行こう。ツイスターゲームのルールは分かるかな?』
「ルールは分かるけど・・・」
ツイスターゲームのルールは簡易的なものだ。
床に敷かれたシートには四色の丸がランダムに並べられており、その指定された色の場所に足や手を乗せるのだ。
体勢を崩して転んだりしてしまったら負けで、ただそれだけをミッションとする簡素なゲームだ。
だが、人数が増えるとその難易度は跳ねあがる。
「ツイスターゲームかあ・・・」
そう、人数が増えると言うことは互いの体が触れあう可能性が増すという事。
「・・・」
俺と朱莉は互いに何も言わなかったものの、お互いに思うことがあるかのように目配せをしあった。
・・・まあそりゃそうだろう。
だって体が触れあうんだから・・・!
「いけそう・・・? 朱莉・・・」
「え、ええ・・・まあ・・・」
お互いにドギマギと声を掛け合う事しかできない。
しかしどうしたって、もうやるしかないのだが・・・。
そうやってあたふたしている合間に、いつのまにかルーレットが回り出していた。
「ええっと、まずは俺が緑の三番に左足か・・・」
ツイスターゲームは、別に序盤の内は大変ではない。
だんだんゲームが進んでくると、体勢が複雑になって失敗しやすくなるのだ。
「次は私ね・・・黄色の二番に、左足・・・」
次は朱莉の番だ。
そして彼女が立ったのは、ほとんど俺の真後ろだった。
もう体がぴったりと密着してしまいそうな距離。
「お、お兄ちゃん、もう少し前行けない・・・?」
「そうは言われてもな、結構ぎりぎりの場所に立ってるって言うか・・・」
俺も俺でできるだけ朱莉の邪魔にならない場所に立っているつもりだった。
それなのでこの体勢が限界というわけになる。
しかしそう言っている間に、またルーレットは回り始めていた。
「次は・・・右手を赤色の六番・・・」
だがここで俺はとあることに気が付いた。
このままだと俺は朱莉の前で四つん這いみたいな格好になることになる。
い、妹の前で情けなさすぎる・・・。
「朱莉、俺がどんな格好になっても笑わないでよ・・・?」
「ま、まあ、そう言うゲームだし、仕方ないでしょ」
朱莉はそう言ってくれるが、恥ずかしいものは恥ずかしい。
俺はへなへなとしたまま四つん這いになると、右手を赤色の丸に乗せた。
しかしこうなると真後ろにいる朱莉の様子が全く分からない。
見下ろされている事だけは分かるものの・・・。
「次は・・・えっと・・・左手を水色の五番ね・・・」
次は朱莉の番だ。
俺は完全に四つん這いの体勢なので、朱莉が今からどのように動くかは予期できない。
だが、ふとだんだんと俺に覆いかぶさる影が大きくなってくることに気が付いた。
「・・・あのルーレット、仕組まれてないわよね?」
朱莉はそんな怪訝な声を出しながらも、背後から俺にのしかかるような体勢を取った。
まるで背後から抱きしめるかのような格好だ。
朱莉の体温がそのまま背中に伝わってくる。
「ち、近くない・・・?」
「そ、そんなの私だって思ってるわよ・・・」
しかし指示が再度出ていき、俺は両手を床に着く形になった。
そして次に朱莉は俺の右手と同じ場所に、同じく右手を置くことになった。
「お、重かったらごめんね・・・」
朱莉はそう言い、俺の手の上に彼女の手を重ねてきた。
ずっしりと背中に彼女の柔らかさが伝わってくる、というか・・・。
あたってるというか・・・。
これは言った方がいいのだろうか。
ていうか朱莉本人も気が付いていないものなのかと思うが、完全に彼女の胸が俺の背中にあたっている。
それも気のせいとか言えるレベルじゃない。
言葉にするのをためらうくらいの密着度だ!
「あ、あの、朱莉・・・」
しかしさすがに言ってやった方がいいかと思い、俺はそっと振り向いた。
「あ、あのさ、朱莉・・・」
「・・・なに?」
彼女は済ましたような顔のままだ。
対する俺はかなり気が気でなくなっているのだが・・・。
「その、大事なところが・・・」
「・・・ああ」
俺はできるだけ婉曲的に伝えようと思って言葉を選んだのだが、朱莉はかなり余裕を持った笑みを見せてきた。
それが想定外だったために、俺は目を丸くする。
「お兄ちゃん、動揺しちゃってるんだ?」
「え?」
煽るように言われ、俺はあっけにとられてしまう。
動揺って、そりゃ、動揺してるけど・・・。
「・・・それって、あたしがこれだけ密着してるから?」
朱莉はそんなことを俺の耳元でつぶやいてきた。
それからさらに体を密着させるようにしてのしかかってくる。
な、なんか、食べられそうな気すらする気迫なんですけど・・・⁈
「普段は鈍感なくせに、こういう時はちゃんと男の子なのね」
朱莉はどこかすねているようでもあったが、純粋にこの状況を楽しんでいるようでもあった。
「あ、あの、朱莉・・・ここまでの密着は指示されてないんじゃ・・・」
俺がおそるおそる聞いてみると、朱莉はふてくされたように返事をしてきた。
「じゃあ、離れちゃおうかしら?」
「えっ・・・」
「あはは、離れるのは嫌なんだ?」
完全に手のひらで転がされている気がする!
朱莉は何やらどうもこの状況を自らのものにしているようだった。




