くすぐり合いっこ・前
「じゃあ、どっちが先にくすぐる?」
「ええっと・・・くすぐりに弱いのはどっちも同じことよね・・・。じゃあここは平等に、ジャンケンで負けた方が最初にくすぐられることにしましょう・・・」
朱莉はそういうと「最初はグー」と言ってジャンケンの準備を始めた。
それなので俺も慌ててついて行く。
しかし慌てて手を出したことが裏目に出たのか、俺はジャンケンに負けてしまった。
「あっ、しまった・・・」
「あはは、お兄ちゃん、意外とジャンケン弱いのね。じゃあ、あたしが先にくすぐるから・・・」
するとタブレットの画面が切り替わり、そこにはタイマーが表示される。
おそらくはこれで一分をカウントするのだろう。
だがそれにしたって、俺は本当にくすぐりに弱い自覚がある。
果たして一分間も耐えられるものなんだろうか。
「お兄ちゃん、余計なこと考えないで。行くわよ」
しかしそうこうしているうちに朱莉はくすぐりの準備を始めており、すでに俺のわきばらに両手をセットしている。
ああ、この光景だけで笑ってしまいそうだ!
その反応のせいで、自分がどれだけくすぐりに弱いのか自覚してしまう。
『それじゃ、一分間スタート!』
スグルの声を皮切りに、朱莉は見事な手つきで俺のわきばらをくすぐり始めた。
「こしょこしょ~」
ついでに声までかけてくるのだから、こしょぐったいったらありゃしない。
「ちょっ、ちょっとは手加減してよ、朱莉・・・!」
「ええ? 私はだいぶ手加減してるつもりなんだけどなあ~・・・」
どこかいたずらっぽい笑みを見せられ、俺も窮することしかできなくなる。
朱莉が手加減しているかどうかの真相は不明だが、ともかく俺はダメージを食らっているのだ。
「ほら、くすぐり方変えたらどうなるかしら?」
今度は指先をばらばらと動かしてくすぐるのではなく、揉みこむようにしてくすぐってくる。
これはこれでかなりくすぐったい!
「ひ、は・・・」
「ちょっと、お兄ちゃん! 笑ったらだめって言うルールでしょ!」
即座に朱莉から注意が飛んでくるものの、そうは言っても朱莉のくすぐりが上手すぎるのだ。
「よし、これで三十秒経過したわね・・・この調子でいけばいいわ・・・!」
朱莉はタイマーを確認して、この調子ならクリアできるだろうと見込んだようだった。
しかしその自信が彼女の指先に力を与えるのか、くすぐりが強くなったように感じられた。
「ふっ、はは・・・!」
俺はかすかな笑い声を出してしまったが、まあこのくらいならセーフだろう・・・。
と見込んでいたものの、当然目ざといスグルがそれを見逃してくれるわけはなかった。
『はいっ、凛斗アウト! 今笑ったよね?』
画面の中からびしりと指を刺され、げっと気まずい顔をすることしかできない。
というか、この画面の中のスグルって中継で繋がってる状態だよな?
録画だとしたらこんなに喋れている意味が分からない。
『さてさて、じゃあ次は攻守交代ですか・・・』
スグルがそう言うと画面がまたもタイマーに切り替わり、今度は俺が朱莉をくすぐる番になったようだった。
「お、お兄ちゃん、言っておくけど、私だってくすぐりに強くないんだから、それなりに手加減してちょうだいよ・・・?」
朱莉はそう言って俺の方を見やった。
もちろんそれは分かっている。
俺だってこのゲームから脱出したいのだから、わざと笑わせるようなことをしようとはまず思っていない。
しかし次の瞬間にはタブレットの画面が切り替わり、サングラスを上下に指で動かしているスグルが映し出された。
『ちょいとお二人さん、手加減のご相談なんてナンセンスですよ! 容赦なくやるからこそ、脱出ゲームは面白くなるってものでしょう?』
「そうかあ?」
『そうだよっ!』
スグルはどこからともなく俺たちの言動を監視してきているらしい。
これじゃあ下手なことは言えない状況だ。
『まあまあともかく、スタートするんですか? しないんですか?』
どうなんですか、と問われて、俺はおそるおそる朱莉のわき腹に手を添えた。
くすぐりなんて、朱莉が小学生の頃にやったのが最後くらいだろうか。
「そ、それじゃあ、行くぞ、朱莉・・・」
「い、いいわよ、我慢しきって見せるから・・・」
朱莉は意気込んでいたようだったが、しかし俺が指を動かした瞬間に俺たちの計画は崩壊する。
「っ・・・!」
俺はわき腹に沿って撫でるように指を動かしただけだったのだが、朱莉はすぐに反応して顔を真っ赤に染めたのである。
さらには元居た場所から数ミリ動いているようだし、これでは完全にくすぐりに弱いどころの話ではない。
というかそもそも、照れてる?
「朱莉、照れて・・・」
「照れてないわよっ! い、いいから続き!」
「あ、う、うん」
朱莉に言いつけられたからにはやるしかない。
俺はまたわき腹に指をセットした。




