義妹(メイドver)
朱莉のメイド喫茶に、ついにお兄ちゃんがやってきます
ついに文化祭当日がやって来た。
文化祭に向かうのは、俺と光莉、そしてゆかりと陸斗の四人だ。
悠斗はまだ小さいので、母さんが家で面倒を見ておいてくれるらしい。
そして俺は朱莉と合流しなければならないため、光莉がゆかりと陸斗を連れて文化祭を巡ってくれると言ってくれた。
「それじゃあ、また広場で集合しよう」
「うん、わかった。頑張ってきてね、お兄ちゃん」
光莉はそう言って手を振ってから、ゆかりと陸斗を連れて人ごみの中に消えて行った。
さて、まずは朱莉の出し物の場所に向かおうか。
朱莉は二年生なので、校舎の二階に教室がある。
それにしても、メイド喫茶なんてどれほど本格的なものをやるのだろうか。
お茶を出してくれたり、オムライスなんかを提供してくれるのだろうか?
色々なことを想像しながら教室に向かって行くと、朱莉のクラスだと教えてもらった場所の前には長蛇の列ができていた。
「えっ、すごい並んでる・・・⁈」
想像以上に盛況である様子に驚き、思わず辺りを見渡してしまう。
他のクラスに並んでいる可能性も考えたが、何度見てみても朱莉のクラスに並んでいる列のようだ。
「こ、これに並ぶのか・・・?」
唖然としていると、クラスの中から見覚えのある顔が出てきた。
朱莉だ。
彼女と目が合ったので手を振ると、小さく手招きをされる。
近付いて行ってみると、朱莉は扉の隙間から小さく顔だけを出して俺に指示をした。
「お兄ちゃん、チケットともう一枚紙あったでしょ。それ出して」
「もう一枚・・・?」
朱莉に言われたとおりにチケットを見てみると、確かに文化祭の入場チケットと一緒にクリップで別の紙がくっつけられていた。
そこには整理番号のようなものが書かれており、朱莉はそのチケットを俺から受け取った。
「・・・これ、クラスで先に用意してたやつ。特別整理券。親族だけは先に入れるようになってるの。まあ、あたしたちもここまで混むとは思ってなかったけどね・・・」
朱莉はちらりと長蛇の列を眺めてから、教室の後方の扉を指さした。
「あっちから入って来て。友達が対応してくれるから」
そうとだけ言うと、朱莉は顔をひっこめて教室の中へ消えてしまう。
あ、メイド服まだ見れてない・・・。
俺は仕方がないのでとりあえず後方の扉へ向かい、中の女の子たちに声を掛けた。
「あ、あの、俺、安藤朱莉の兄で・・・」
そう言うと、女の子たちはきゃーっとはしゃいだ声を上げた。
「きゃー、いらっしゃいっ! 朱莉がずっとそわそわして待ってたんです!」
「朱莉、超楽しみそうにしてましたよ!」
口々にそんなことを言われ、健気さに笑いがこぼれる。
「そうなのかぁ、うれしいな」
しかしパネルの後ろに朱莉がいたのか、ひっくり返った声が飛んでくる。
「ちょっと! 何勝手なこと言ってるのよ!」
「きゃー、あははっ、ごめーんっ」
友達たちははしゃいだように笑い声をあげて、俺を奥へと案内した。
「それじゃあ、楽しんできてくださーい。もえもえきゅん!」
入場口でもえもえきゅんを披露するものなのかは分からないが、とりあえず受け取っておく。
そしてそのまま俺は奥へと進んでいった。
奥に進むと、そこにはカフェスペースらしく整備された空間があった。
机がいくつか並べられており、そこかしこに可愛らしいメイドさんがいる。
「おお・・・」
思わず声を上げると、奥の方からぬっと誰かが出てくる。
不満そうな顔をして、腕を組んでいる・・・妹。
「誰のこと見てるのよ」
その姿に俺は目を奪われた。
か、可愛い・・・。
朱莉は見事なメイドの恰好になっていた。
いわゆる普通のメイドの恰好とはまた少し違うデザインと言えばいいのだろうか、おそらくはコスプレ用のメイド服なのだろう。
スカートは膝丈くらいで、アイドルの衣装のようにも見える。
カチューシャや襟元にはフリルがあしらわれ、スカートの裾はふんわりと広がっている。
そして普段から髪型はツインテールだが、そこにリボンがあしらわれている。
もうかわいいに全振りと言ってもいいような格好だ。
人に可愛いと言ってもらうためだけの恰好にすら思える。
そしてその通りに可愛いし!
「朱莉、可愛いじゃん・・・!」
正直な感想を伝えると、朱莉は一瞬は面食らったようだったが、すぐに嬉しそうに両手を小さくガッツポーズの形にした。
「やった・・・!」
バレていないと思っているのだろうか、軽く後ろを向いているが見えている。
「ん・・・で、何か食べてく?」
朱莉は何事も無かったかのように振り返って、俺を机の方に案内した。
メニュー表を手渡され、その中から何かを選ぶ。
「おすすめは?」
「おすすめは・・・まあドリンクはとりあえず頼むと良いと思うよ。あとは・・・その、オムライスがあるけど・・・その、メイドが絵を描くやつ・・・」
やっぱりオムライスもあるらしい。
しかも内容もまさにメイド喫茶といった感じだ。
「じゃあそれにしようかな」
せっかくメイド喫茶に来たのならば、それらしいものを注文しておきたいと思った。
「わ、わかった・・・」
朱莉はうなずいて、そのままパーテーションの奥に消えて行った。
そして戻ってくると、机にコーヒーとオムライスを乗せる。
「・・・え、えっと、もえもえきゅんが注文できるけど、する?」
顔を赤くして言われて、俺も戸惑った。
朱莉は恥ずかしがっているのだろうか?
「・・・す、するのかって聞いてるんだけど」
ずいっと顔を近づけられ、俺はどう答えるべきか迷う。
朱莉が困っているのならば、無理にさせる気はないけれど・・・。
「無理しなくても、いいよ?」
「む、無理じゃな・・・や、やらせてちょうだい」
「え?」
進んでやるのか?
俺がぽかんとしていると、朱莉は手をハートのマークにして話し始めた。
「お、美味しくなーれ、もえもえ、きゅん」
ぎこちない動きだが、どこかやり切ったと言う顔で俺の方を見つめて来る。
耳まで赤くなっているが、それでもやり切ったのはすごいと思う。
「・・・ど、どう?」
「ふふ、メイドさんっぽくていいじゃん」
「ほ、他の子と比べてどうなの」
「他の子?」
他の子と言われて、出入り口でもえもえきゅんを食らっていたことを思いだす。
「ああ、それは・・・」
「ど、どうなの・・・?」
朱莉はさらに顔を近づけて来て、必死に問うてくる。
「朱莉が一番、だよ」
もはや威圧感が勝ってしまっている朱莉だが、一連の動作自体は可愛かった。
伝えてやると、朱莉は小さく飛び跳ねて回った。
しかしそれからすぐに気を取り直したように表情を取り繕って、満足そうに笑う。
「そ、そう、満足してくれたならよかったわ」
どこか自信に満ち溢れたような顔だ。
それから俺は料理とコーヒーを一通り楽しんだ。
メイド喫茶はなかなかクオリティが高く、チェキも撮影できるようだった。
「お兄ちゃん、チェキ撮ってく?」
朱莉にたずねられて、俺はせっかくなので撮影していくことにした。
「じゃあ撮って行こうかな」
「オッケー。チェキ一枚入りまーす」
そう言って朱莉は俺をチェキの撮影コーナーに連れて行ったが、そこに行く道中で衝撃の光景を目にした。
教室の壁にはどうもチェキの売上表が貼られていたのだが、その中で朱莉が群を抜いて選ばれていたのだ。
まるでサラリーマンの営業成績のように花が縦に並んでいるのだが、朱莉のグラフだけとびぬけてしまっている。
「あ、朱莉・・・どれだけチェキ撮ってるの?」
「分かんない。いっぱい選んでもらってるけど・・・」
朱莉の人気具合におののくことしかできない。
俺は戦々恐々としていたが、とりあえずフォトブースに一緒に並ぶ。
「いくよ、ほらお兄ちゃん、ピースして」
朱莉は俺の腕に縋りつくような格好で、カメラに向かってピースをした。
「え~、朱莉ちゃん俺らの時はそんなに密着してくれなかったじゃん~!」
他の客席からその様子を見ていた男子たちが、そんな文句を飛ばす。
朱莉はツンとしたまま言い放った。
「・・・今はトクベツだからいいのよ」
トクベツにしてもらえるのは嬉しいが、周囲の男子からの視線が痛い・・・。
だがともかくチェキを取り終え、朱莉はそこでシフトがあがりになったようだった。
「じゃあ今から準備してくるから・・・」
朱莉はバックヤードに戻ろうとしていたようだったが、そこに彼女の友達が飛び出してきた。
「朱莉、せっかくなんだからメイド服のまま行っちゃいなさいよ。ついでにメイド喫茶の宣伝して来てちょうだいよ!」
「え?」
朱莉は戸惑ったようだったが、スグルにも同じようなことを言われたのを思い出したらしい。
「じゃ、じゃあそうしようかしら・・・」
彼女は解きかけていたエプロンの紐を結び直し、俺の方に向き直った。
「い、行きましょ、お兄ちゃん」




