ペアのお誘い
ついに明日が文化祭だ。
朱莉もスグルもかなり遅くまで学校に残っていたようで、帰ってきたころには二人とも目に闘志が燃えていた。
しかしその温度自体はなんだか異なっているようで、朱莉は赤く燃える激しい炎、対するスグルは静かに燃える青い炎のように見えた。
「ついに明日が文化祭だな。とりあえずは学校全体を回るつもりだけど・・・、朱莉とスグルの教室のどっちに先に行こうか?」
夕食を終えてリビングで休んでいるときに、俺はふとそんなことを尋ねた。
すると朱莉はひどく悩み始め、最終的には考える人のようなポーズをとって固まってしまう。
「ちょ、そんなに悩みこむことじゃないだろ」
慌てて声を掛けるものの、朱莉はうなるばかりだ。
するとスグルがとあることを口にした。
「実はさ、僕のクラスの出し物、ペアじゃないと参加できないんだよね」
「ペア?」
突然の発言に、俺はそのままに首をかしげてしまう。
「そうそう、ペア。ペアでなぞ解きをして脱出するっていうルールだからさ・・・ボク、ちょうどいいんじゃないかと思うんだよね」
スグルは朱莉に目配せをした。
そしてそれから俺の方にも目をやる。
まるで俺たちの間に線を引くみたいな動きだ。
「・・・どういうことだよ?」
「もーわかってないなー。朱莉ちゃんと凛斗で一緒に参加しない? って誘ってるんだけど」
「えっ!」
素っ頓狂な声を上げたのは、俺ではなく朱莉の方だった。
目を丸くしたままスグルを見つめ、口をパクパクと開閉している。
何かを言おうとしているが、言葉が出てこないようだ。
「良い提案でしょ? 仲も深まるし、絆も強くなるじゃん・・・?」
やけににやにやとして、スグルはピースを作る。
朱莉はあわあわとしたままで、徐々に顔が赤くなっていった。
「そ、そんな、あたし、シフトだってあるし・・・」
「シフトの合間を縫えばいいじゃん。それにどうせならメイド服でおいでよ。クラスの出し物の宣伝になるんじゃない?」
すらすらと話を進めていくスグルに、朱莉は面食らっているようだった。
しかし提案自体は良いものだと思っているのか、言い返すことはない。
朱莉はしばらく黙り込んでいたが、ゆっくりと俺の方を向いた。
そしてまるで何かを窺うかのように、おそるおそる口を開く。
「お、お兄ちゃんは、私と一緒に脱出ゲームしても、いいの?」
どうも俺の都合を窺っているようだった。
なんだ、そんなもの言われなくたって喜んで協力するに決まっているのに。
「もちろんいいぞ、楽しそうじゃないか」
笑いながら答えると、朱莉は小さくガッツポーズをした。
そんなに嬉しいのだろうか?
「ス、スグルさん、その脱出ゲームって、脱出できたら何か商品とかあるの?」
朱莉はそんなことをスグルに尋ねた。
スグルはソファの背もたれにもたれたまま、くすくすと笑い声を立てた。
「えー、それは脱出してからのお楽しみじゃんか。しかもただの脱出ゲームじゃないからね? ちょっと心臓のドキドキする要素のある脱出ゲームだから」
「えっ!」
ドキドキ要素と聞いて、朱莉はあからさまに顔色を変えた。
そう、朱莉は小さいころからホラー系が大の苦手なのだ。
ホラー要素のある脱出ゲームなのだろうか・・・?
「あれれ、朱莉ちゃん、心臓がどきどきするのは苦手なの?」
スグルに笑いながら言われ、朱莉はすねたように言い返した。
「そ、そんなことないわよ! いや、そんなことあるけど、でも・・・!」
何をためらっているのか、怖がりなのは俺も昔から知っているから大丈夫なのだけれど・・・。
「朱莉、怖いのが嫌なら、無理して参加しなくても・・・」
俺がそう言うと、朱莉は慌てたように勢いよく首を振った。
「う、ううん! 参加する! だ、だって言ったって文化祭の出し物よ、そんなんでビビったりするようなタマじゃないんだから!」
朱莉は声を張ってそう宣言した。
どうも絶対に脱出ゲームに参加したいらしい。
そんなに楽しみなのか。
「まあ、朱莉がいいならいいけど・・・」
「え、ええ、絶対一緒に脱出しましょうね・・・」
朱莉は腕を組み、一緒に、を強調しながら俺の方を見た。
これだけ朱莉が楽しみにしてくれているのならば、俺も張り切ってみようかと思う。




