メイド喫茶vs脱出ゲーム?
大学を終えて家に帰ってくると、朱莉がとあるものを渡してきた。
「これは?」
何かチケットのように見える紙。
よく見てみれば文化祭と書いてあるようだが・・・。
「その、文化祭・・・もうすぐあるの。家族を招待できるんだけど、お兄ちゃんに来てほしいなって思って・・・」
どうも文化祭に俺を招待してくれるつもりらしい。
「そうなのか、ありがとう」
「い、いいけどね」
相変わらずツンとした雰囲気の朱莉だが、そんな彼女の背後からスグルが飛び込んでくる。
「はいっ、凛斗、こっちはボクからね」
スグルから手渡されたのは、同じく文化祭のチケット。
そうか、同じ学校だから文化祭のタイミングが同じなのか!
「べ、別にお兄ちゃんはチケット一枚あれば学校には入って来れるわよ?」
朱莉はそこが気になったのかスグルに告げたが、スグルは指を振った。
「いいや、違うのさ。それはただのチケットじゃない。ボクらのクラスの出し物に参加するためのチケットなんだよ」
「ああ、そうなのか。何の出し物をするんだ?」
「ふふ、気になるかい? そりゃもちろん、ボクが手掛ける脱出ゲームだよ」
「へえ、脱出ゲームか! 面白そうだな」
俺はクイズだとか脱出ゲームだとかのギミックのある遊びが好きだ。
それを文化祭で経験できるなんて、かなり面白そうだ。
しかし俺が興味を持った直後、焦ったようにして朱莉が話しかけてくる。
「ま、待って、お兄ちゃん。わ、私たちのクラスだって出し物用意してるのよ!」
「ああ、何を出店するんだ?」
やけに慌てているようだったので、ゆっくりと話を聞いてやる。
「メ、メイド喫茶・・・」
「メイド喫茶⁈」
これには俺も驚いて、少しひっくり返った声を出してしまった。
ということはつまり、朱莉がメイドになってカフェをやるということなのだろうか。
「そりゃ、可愛いだろうな~」
素直な気持ちを伝えると、朱莉はまた耳まで真っ赤になって目を見開いた。
「ちょ、直球にもほどがあるわよ!」
朱莉は数歩あとずさってから、またそろそろと近づいてきた。
「き、気になる?」
もったいぶるように尋ねられて、俺は正直にうなずいた。
「うん、気になるよ」
「ス、スグルさんの出し物より?」
そんなことを聞かれて、俺は一瞬あっけにとられた。
スグルの出し物と比べて・・・?
俺は唖然としていたが、光莉はどうもにこにことしている。
そしてスグルは何かに納得したようにうなずいてしまっている。
お、俺だけを取り残して、何かの事実が共有されて行っているようだぞ・・・?
「比べるってことか? うーん、そう言われると・・・」
しかし俺の答えが望ましくなかったのだろうか、朱莉はすねたような顔をしてスグルの方を振り返った。
「・・・何よそれ、ずるいじゃないの・・・!」
ずるいとは・・・俺がスグルの出し物に興味を持ったことだろうか?
もし朱莉に不平等な思いをさせているのならばまずいと思った。
「ああ、違うんだよ朱莉。二人の出し物両方気になってるよ。朱莉のは可愛いだろうなって思うし、スグルのは楽しそうだなって思うし・・・」
しかしそこまで言うと、朱莉はさらに口を尖らせた。
「わ、私は一番が良いのよ・・・」
「一番?」
朱莉は確かに負けん気の強い性格だ。
まさか、スグルと出し物の人気で争おうとしているのだろうか。
「そうかあ、朱莉は昔っから負けん気が強いなあ」
俺が笑いながら言うと、光莉はまた肩をすくめて笑った。
「・・・お兄ちゃんに対して、ね」
「・・・ん? なんか言った?」
「うう~ん、なんにも言ってないよ~」
聞き取れないくらいの小さな声で言われたものだから聞き返してみたのだが、光莉はくすくすと笑みをこぼしたままはぐらかしてしまう。
「そうかあ、朱莉ちゃんは負けん気が強いんだね」
スグルはそう言いながら一歩前に出て、朱莉の目の前に指を突き付けた。
「それじゃボクと勝負してみない? 文化祭の出し物、凛斗がボクの出し物と朱莉ちゃんの出し物のどっちを気に入るか」
まさかの好戦的な発言に、俺は慌てて止めに入る。
「待て待て、そんな勝負をするようなことじゃないだろ!」
二人とも俺にとっては大事な存在だし、平等に出し物も気になっている。
それなのに勝負をしたって・・・。
しかし朱莉はすっかりやる気になってしまったようで、勢いよく首肯した。
「いいわよ、勝負しましょう! お兄ちゃんが本当に気に入るのが、あなたの脱出ゲームなのか、それとも私のメイド姿なのか!」
朱莉は堂々と仁王立ちし、胸に手を当てて張り切って宣言した。
・・・メイド喫茶VS脱出ゲームじゃなくて、朱莉のメイド姿VS脱出ゲームなのか?
俺はふとそこが気になった。
「え、朱莉。メイド喫茶じゃなくて、朱莉のメイド姿が脱出ゲームと対決なの?」
そう尋ねると、朱莉は慌てて訂正してきた。
「えっと、そ、そう言いたい気持ちは山々だけど・・・ってそうじゃなくて・・・! そ、そうよ、メイド喫茶と脱出ゲームで勝負よ!」
朱莉は随分と張り切っているようだ。
「勝負かあ・・・」
もうすでにやる気になってしまったらしい朱莉とスグルに挟まれて、俺は何を言い出すこともできなかった。




