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『フールの大冒険 ~本の世界に消えた両親を探していたら、聖なるマップに選ばれました~』  作者: ☆☆アダム☆☆


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第56話 片目の考古学者メロウと合成ガチャ

「次の目的地は――《轟雷の荒野》!」


《聖なるマップ》に新しく浮かび上がった紫色の☆を見ながら、私は声を上げた。


【☆3《雷鳴の羽衣》】


メロウおじいちゃんが調べてきた古い伝承によれば、それは二体目の幻獣――雷を統べる巨鳥との縁を繋ぐための手掛かりになる可能性が高い。


黄金の雲海鯨を目覚めさせる石は、まだ地図に映らない。


だから今は、目の前に現れた手掛かりから一つずつ進んでいく。


私たちはグライツ王国で食料と水を買い足し、その日のうちに街を出発した。


そして。


新しく仲間になったメロウおじいちゃんとの旅が始まってから、まだ一時間も経っていない頃だった。


「――カカカッ! ちょっと待つんじゃ、お嬢ちゃん!」


「え?」


街道のど真ん中で、メロウおじいちゃんが鳥の頭をかたどった杖を突き出した。


その先が、私の鞄へ真っ直ぐ向けられている。


見えている片目は、宝箱を見つけた子供みたいに輝いていた。


「さっきから気になっておったんじゃ。その鞄の中から、とんでもなく古い魔力を感じるぞい!」


するとオラクルが煙草をくわえたまま、私とメロウおじいちゃんの間へ割って入った。


「じいさん。仲間になって早々、女の鞄を漁ろうとすんな」


「考古学的調査じゃ!」


「泥棒も最初はそう言う」


「お主が言うと説得力が違うのぅ」


「……なんで俺が泥棒だって知ってんだ?」


「顔じゃ」


「ぶっ飛ばすぞ、このジジイ」


「カカカッ!」


なんだろう。


この二人、ものすごく仲が悪そうなのに、さっきからずっと喋っている。


「それで、何が気になったの?」


私が鞄を開くと、メロウおじいちゃんは興味津々で中を覗き込んだ。


☆5《幻獣種召喚の本》。


☆2《黒龍王の爪》。


そして、ゴブリン王国の王様から貰った――《合成の聖杯》。


メロウおじいちゃんの視線が聖杯へ移った瞬間、さっきまで動き続けていた身体がぴたりと固まった。


「……お嬢ちゃん」


声まで変わった。


「これを、どこで手に入れた?」


「ゴブリン王国の王様にもらったよ」


「なんじゃとぉぉぉぉっ!?」


「ひゃあっ!?」


驚いた勢いで、メロウおじいちゃんの鳥の杖が宙を舞った。


「きゅっ!?」


メリーが慌てて頭を下げ、飛んできた杖をかわす。


当のメロウおじいちゃんはそんなことにも気づかず、《合成の聖杯》を両手で持ち上げていた。


底。


縁。


表面に刻まれた紋様。


何度もひっくり返しながら、食い入るように調べている。


「間違いない……! 古代の錬金術師どもが恐れながらも夢中になった、幻の合成器じゃ!」


「そんなに凄いものなの?」


「凄いどころではない! 古い記録では――」


メロウおじいちゃんが、もったいぶるように顔を上げた。


「《神の気まぐれのお椀》と呼ばれておる!」


「……急に格好悪くなったな」


オラクルが真顔で言った。


「黙っとれ!」


◇ ◇ ◇


メロウおじいちゃんの説明によれば、《合成の聖杯》は最大三つまでの素材を組み合わせ、まったく別の何かを生み出せる古代の秘宝らしい。


ただし、成功率はとても低い。


「それなら知ってるよ」


私が答えると、メロウおじいちゃんの片目が見開かれた。


「……もう使ったのか!?」


「うん」


私は初めて聖杯を使った時のことを話した。


綺麗な小石。


食べ残して硬くなった干し肉。


そして、メリーが拾ってきた菓子の包み紙。


その三つを合成した結果――干し肉みたいな模様の石の身体に、菓子の包み紙そっくりの羽を生やした謎の生き物が誕生した。


しかも。


「きゅきゅーっ!」


と元気いっぱいに鳴きながら、どこかへ飛んでいってしまった。


話を聞き終えたメロウおじいちゃんは、しばらく無言だった。


「どうしたの?」


「ワシが何十年も探してきた秘宝に……最初に入れたのが、干し肉と菓子の包み紙……?」


「だって使い方知らなかったんだもん!」


横を見ると、オラクルが顔を背けている。


でも肩が震えていた。


「笑ってるでしょ!」


「いや。最高だと思ってな」


「絶対笑ってる!」


メロウおじいちゃんはしばらく頭を抱えていたけれど、突然何かを思いついたように顔を上げた。


「よし。ならばワシが一度試してみよう!」


「え?」


背負っていた大荷物をごそごそ漁り、最初に取り出したのは錆びた鉄くず。


続いて、飲み残したらしい炭酸水。


さらに小さな石ころまで追加された。


私は三つの素材を順番に見た。


「……おじいちゃん、それ本当に大丈夫?」


「考古学とは挑戦じゃ!」


「それ考古学なの!?」


止める間もなく、錆びた鉄くずと石ころが聖杯へ放り込まれ、最後に炭酸水がどぼどぼと注がれた。


私たちは揃って聖杯を覗き込む。


一秒。


二秒。


三秒ほど経ったところで――。


ボフンッ!


青い煙が勢いよく噴き上がった。


「あっ」


「失敗だな」


オラクルが即答した。


煙が晴れる。


聖杯の底に残っていたのは、ベタベタした錆色の塊だった。


しかも表面から、炭酸みたいな細かな泡がぷちぷちと湧き続けている。


「……」


メリーが恐る恐る指先を伸ばした。


ぷしゅっ。


「きゅっ!?」


弾けた泡がメリーの顔へ直撃する。


「ぶははははっ!」


ついにオラクルが耐えきれなくなった。


「最高じゃねぇか!」


「どこが最高なの! また変なの出来ちゃったよ!」


私は錆色の塊を持ち上げてみる。


べちゃっ、と手のひらへ張りついた。


「うわ、手までベタベタ……」


「カカカ……おかしいのぅ。ワシの完璧な素材選びが……」


「錆びた鉄と飲み残しの炭酸水の、どこが完璧なんだよ」


オラクルのもっともな突っ込みに、メロウおじいちゃんが鳥の杖を振り上げる。


「実験に失敗は付き物じゃ!」


「じゃあ、もう一回やろう!」


私はすぐ聖杯を覗き込んだ。


「次はもっと凄そうな素材を入れればいいんだよね?」


「まあ、理屈としてはそうじゃが――」


「だったら……」


私は周囲を見回した。


魔力が強そうなもの。


珍しそうなもの。


いかにも古そうなもの。


そして――私の視線が、ぴたりと止まった。


鳥の頭を彫った、メロウおじいちゃんの杖。


見るからに凄そう。


「……あっ」


「ん?」


「それ、絶対いい素材だよ!」


「何?」


私は鳥の杖へ手を伸ばした。


「メロウおじいちゃんの杖、入れてみよう!」


「…………は?」


「これと何か二つ入れたら、今度こそ金色の煙が出るかも!」


「待っ――」


杖を掴み、そのまま聖杯へ入れようとした瞬間。


ガシッ!!


メロウおじいちゃんが、とんでもない速さで反対側から杖を掴んだ。


「何をしとるんじゃああああああああッッ!!」


「ひゃああっ!?」


絶叫が街道いっぱいに響き渡る。


メロウおじいちゃんは即座に杖を奪い返し、我が子でも守るみたいに胸へぎゅうっと抱き締めた。


「これは素材ではないわァァァッ! ワシが何十年も苦楽を共にしてきた、大事な相棒じゃぞッ!!」


「でも、すごい魔力ありそうだよ?」


「だからといって聖杯へブチ込む奴がおるかッ!」


「☆5の杖になるかもしれないよ?」


「青い煙が出たら、ワシの相棒がベタベタの炭酸鉄になるじゃろうがッ!!」


私は、さっき完成した失敗作を見る。


ぷしゅっ。


「……それは嫌だね」


「今気づいたのか!?」


オラクルが腹を抱え、その場へしゃがみ込んだ。


「ぶははははっ! お嬢、やれ! じいさんごと入れちまえ!」


「誰が素材じゃああああッ!!」


「きゅきゅーっ!」


メリーまで《合成の聖杯》を指差して楽しそうに笑っている。


「メリーちゃんまで笑うでないわ!」


メロウおじいちゃんは私から杖を守るように背中へ隠し、ものすごく警戒した目を向けてきた。


「いいか、お嬢ちゃん。今後どれだけ素材に困っても、ワシの杖だけは絶対に聖杯へ入れるなよ!?」


「分かったよぉ」


「その顔は分かっとらん顔じゃ!」


「ちょっと試したかっただけなのに……」


「その“ちょっと”で相棒が消滅するんじゃ!」


◇ ◇ ◇


ひとしきり騒いだあと、メロウおじいちゃんは聖杯の底に残っていた錆色の塊を拾い上げた。


すると急に、考古学者らしい真剣な顔になる。


「……じゃが、妙じゃのぅ」


「何が?」


「失敗したからといって、毎回同じような物が出来るわけではない」


片目を細め、ベタベタの塊を観察する。


「もしかすると、この聖杯は完全な運任せではないのかもしれん」


「どういうこと?」


「古代の記録にはな。素材同士が正しく噛み合った時だけ、本来の力を発揮する――“完成された組み合わせ”が存在すると書かれておった」


私は《合成の聖杯》を見つめた。


「じゃあ……ちゃんとしたレシピがあるってこと?」


「おそらくな」


メロウおじいちゃんがニヤリと笑った。


「旅の途中で珍しい素材を見つけたら拾っておけ。ワシも古代のレシピを調べてやろう!」


「分かった!」


返事をしてから、私はもう一度だけ鳥の杖へ視線を向けた。


「……」


「見るなッ!」


「まだ何も言ってないよ!」


「目が素材を見る目をしとったわ!」


オラクルの笑い声が、しばらく街道へ響き続けた。


◇ ◇ ◇


それから数日。


目的地へ近づくにつれて、景色は大きく変わっていった。


青かった空は分厚い黒雲に覆われ、その内部を紫色の稲妻が絶え間なく走っている。


ドゴォォォンッ!!


遠くの大地へ雷が落ちた。


土と岩が爆発するように吹き飛び、焦げた匂いが風に乗って流れてくる。


私は《聖なるマップ》を開いた。


【轟雷の荒野】


そして、その遥か奥。


【☆3《雷鳴の羽衣》】


紫色の☆が、空を走る雷と呼応するように激しく明滅していた。


「ここだ……!」


目的の☆3は、この荒野のさらに奥。


そして、その先には――二体目の幻獣へ繋がる何かが待っている。


54話では、新しい長期同行メンバー――考古学者メロウが正式に加入。

ここで《☆5 幻獣種召喚の本》に眠る幻獣が全部で六体だと判明し、現在はシャイニーのみが帰還しているため【1/6】となります。六体の古い伝承と、次に追う《☆3 雷鳴の羽衣》へ繋がる旅になりました

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