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『フールの大冒険 ~本の世界に消えた両親を探していたら、聖なるマップに選ばれました~』  作者: ☆☆アダム☆☆


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55/128

第55話 挨拶は赤B、情報は銀B、友達は金B

「……ない」


私は《聖なるマップ》へ顔を近づけ、端から端まで何度も確認した。


グライツ王国の宿屋。大きなテーブルいっぱいに広げた地図には、これまで見つけてきた場所や☆付きアイテムが、いつもと変わらない光を放っている。


カサンドラ。


《???》。


黄金の雲海鯨へ続く、不思議な虹色の足跡。


どれもちゃんと表示されている。


それなのに――。


「やっぱり、どこにもないよ!」


さっき怪しい宣教師から聞いた、《いかなる眠りをも目覚めさせる石》。


黄金の雲海鯨を目覚めさせるための、今のところ唯一の手掛かり。その石らしき反応だけが、世界のどこにも表示されていなかった。


「壊れたんじゃねぇだろうな」


オラクルが煙草をくわえたまま、地図の端を指先で軽く叩いた。


「壊れてないよ!」


「じゃあ、情報がガセだったか」


「でも、あの宣教師……最後、本当に魔法で消えたんだよ?」


「詐欺師が魔法を使えねぇ決まりもねぇだろ」


「それはそうだけど!」


あの人なら普通にやりそうなのが困る。


挨拶は赤B。


情報は銀B。


一生の友達になる権利は金B。


改めて思い返しても、信じていい要素がほとんどない。


「きゅーう……」


肩の上では、メリーまで困ったように地図を覗き込んでいた。


フランアーデルさんは腕を組み、しばらく何も言わずに考えている。


やがて、静かに口を開いた。


「宣教師の話が本当だと仮定してみよう」


「うん」


「黄金の雲海鯨を目覚めさせられるほど特別な石なのに、《聖なるマップ》にも映らない。だったら――地図が見つけられないんじゃなくて、見つけられない状態になっている可能性はないかな」


「見つけられない状態……?」


私はもう一度、地図を見る。


これまで《聖なるマップ》は、何度も私たちを目的の場所へ導いてくれた。


だから、地図に載っていないなら存在しない。


いつの間にか、そう思い込んでいたのかもしれない。


「もしかして……」


私は顔を上げた。


「地図に載ってないんじゃなくて、隠れてる?」


フランアーデルさんが頷く。


「その可能性はあると思う」


黄金の雲海鯨。


天空の国カサンドラへ辿り着くための、今のところ唯一の方法。


どれだけ呼んでも起きないから、ようやく目覚めさせる方法らしき情報を手に入れた。それなのに今度は、その石がどこにあるのか分からない。


「うぅ……」


私は力尽き、テーブルへ突っ伏した。


「一歩進むたびに、次の一歩が遠くなるよぉ……」


オラクルが鼻で笑う。


「冒険なんてそんなもんだ」


「もう少し優しく言ってよ!」


「じゃあ――頑張れ、お嬢」


「雑!」


その時だった。


「カカカッ!」


背後から、妙に楽しそうな笑い声が聞こえてきた。


「地図に映らん物を、地図だけで探そうとは。ずいぶん面白いことをしておるのぅ」


「……え?」


私たちは一斉に振り返った。


そこに立っていたのは、小柄なゴブリンのおじいさんだった。


真っ白な髪。


顔の片側を覆うような古びた装具。


そこから覗く片目だけが、子供みたいな好奇心で輝いている。


身体には何枚もの古びた布を重ね、背中には旅道具らしい大きな荷物。手には、鳥の頭を模した不思議な杖を持っていた。


「誰だ、じいさん」


オラクルがすぐ前へ出る。


「人の話を盗み聞きとは趣味悪ぃな」


「盗み聞きとは人聞きが悪い。ワシの耳へ勝手に聞こえてきただけじゃ」


「それを盗み聞きって言うんだよ」


「カカカッ!」


おじいさんはまったく悪びれていない。


でも。


すぐに気づいた。


おじいさんが見ているのは、私でもオラクルでもない。


テーブルの端に置いていた――☆5《幻獣種召喚の本》。


さっきまで楽しそうだった片目から、少しだけ笑いが消えた。


「……お嬢ちゃん」


「はい?」


「その本を、どこで手に入れた?」


反射的に《幻獣種召喚の本》を胸へ抱き寄せた。


同時に、オラクルも私とおじいさんの間へ入る。


「答える必要はねぇ」


「待ちなされ。奪う気などないわい」


おじいさんは鳥の杖を床へコトンと突くと、堂々と胸を張った。


「ワシはメロウ」


見えている片目を細める。


「世界中の誰も見向きもしない古い壁画、失われた神話、消えかけた古文書を追い続けてきた――考古学者じゃ」


「考古学者……?」


「そうじゃ」


メロウさんは、もう一度《幻獣種召喚の本》を見る。


「そして、その魔導書について――お前さんたちより少しだけ詳しい」


「本当に!?」


私は勢いよく立ち上がった。


「この本に、他にどんな幻獣種がいるか分かるの!?」


「お嬢」


オラクルが呆れたように私を見る。


「信用するの早すぎだろ」


「でも、知ってるって!」


「ついさっき怪しい宣教師へ銀B払った奴が言っても説得力ねぇぞ」


「うっ……」


何も言い返せない。


メロウさんが楽しそうに笑った。


「カカカッ! 泥棒猫の方が慎重とは面白い組み合わせじゃな」


「誰が泥棒猫だ」


「違うのか?」


「……そこは今いい」


認めた。


メロウさんは懐へ手を入れ、何冊ものぼろぼろな手帳を取り出した。


それをテーブルへ広げる。


ページいっぱいに描かれていたのは、壁画の写し。


見たこともない古代文字。


巨大な鳥。


炎を纏った獣。


長い蛇のような影。


そして、明らかに普通の魔物とは違う存在たち。


「これ……」


私は思わず身を乗り出した。


フランアーデルさんも一冊を手に取り、慎重にページを見る。


「かなり古い文字ですね」


「ほう。若いのに分かるか」


「読めませんけど」


「そこは読めんのかい!」


「雰囲気だけです」


「カカカッ!」


なんだろう。


変な人だけど。


嫌いじゃない。


メロウさんは《幻獣種召喚の本》へ顔を近づけると、今度は少し真面目な声になった。


「これは単なる召喚の道具ではない」


「……どういうこと?」


「古い記録では、失われた幻獣たちとの“縁”を繋ぎ直すための書とされておる」


「縁……」


シャイニーさんの言葉を思い出した。


海底都市リーリエで手に入れた《人魚の旋律》。


あれが固有の鍵となり、シャイニーさんとアクア・リヴァイアスへ繋がった。


偶然じゃなかったんだ。


「そしてワシが調べた限り、この本と深く結びついている幻獣種は――全部で六体じゃ」


「六体?」


メロウさんが六本の指を立てた、その瞬間。


カッ――!


私の腕の中で《幻獣種召喚の本》が強く光った。


「わっ!?」


誰も触れていないのに表紙が開き、ページがものすごい勢いでめくられていく。


やがて、シャイニーさんの姿が描かれたページで止まった。


その横へ、新しい文字が浮かび上がる。


【幻獣帰還数】


【1/6】


「一……六」


私は表示とメロウさんを交互に見る。


「本当に六体いる……!」


フランアーデルさんも驚いたようにページを覗き込んだ。


メリーは私の肩から身を乗り出し、翠色の瞳を輝かせている。


「きゅーーーう!」


その横で。


オラクルだけが、煙草を口から外してぼそっと言った。


「……地味に大仕事が増えたな」


「そういうこと言わないでよ!」


でも。


私の胸は、もう高鳴っていた。


あと五体。


まだ会ったことのない幻獣たちが、この世界のどこかにいる。


そして。


黄金のクジラを起こす石へ辿り着けない理由も――もしかしたら、この本と関係しているのかもしれない。


《幻獣種召喚の本》に浮かんだ【1/6】という文字を、私は何度も見返した。


「本当に……あと五体いるんだ」


「正確には、あと五体との縁を繋がねばならん、ということじゃな」


メロウさんが白い髭を撫でながら答える。


「縁を繋ぐ?」


「お前さんがすでに呼び出した幻獣も、ただ本を開いただけでは現れなかったじゃろう?」


「うん。《人魚の旋律》が光って……」


海底都市リーリエで手に入れた《人魚の旋律》。


あれが☆5《幻獣種召喚の本》と共鳴したことで、シャイニーさんとアクア・リヴァイアスが現れた。


メロウさんが頷く。


「古い文献では、それを『固有の鍵』と呼ぶ。幻獣種は力ずくで従える魔物ではない。それぞれに異なる縁があり、その縁を示す鍵がなければ、いくら本を持っていようと姿を現さん」


「じゃあ、残りの五体にも全部違う鍵があるの?」


「そのはずじゃ」


「どんな鍵?」


「知らん!」


「知らないの!?」


あまりにも堂々と言うから、思わず大きな声が出てしまった。


メロウさんは悪びれもせず、カカカッと笑う。


「何百年、何千年と失われてきた伝承じゃぞ? 全部分かっておったら、ワシはとっくに六体揃えておるわい」


「それはそうだけど……」


オラクルが煙草をくわえながら、メロウさんの手帳を一冊拾い上げた。


「で、じいさん。残り五体の場所くらいは分かるのか?」


「場所は分からん。ただし――手掛かりならある」


「本当!?」


「お嬢、近ぇって」


また勢いよく身を乗り出してしまい、オラクルに額を押し戻された。


メロウさんは手帳を開き、何枚かページをめくる。


そこには、古い壁画を写したらしい絵が描かれていた。


巨大な人魚。


炎を纏った獣。


地を這う長い影。


そして――。


空いっぱいに翼を広げる、巨大な鳥。


その身体の周囲には、無数の稲妻が描かれている。


「これ……」


「雷を司る幻獣について残された壁画じゃ」


メロウさんの指が、その巨大な鳥をなぞった。


「名は失われておる。じゃが、この幻獣と縁を結ぶための品については、別の遺跡にも似た記録が残されておった」


「どんな物?」


メロウさんが、ゆっくり答える。


「雷を纏う羽衣じゃ」


その瞬間だった。


テーブルの上に広げた《聖なるマップ》が、突然強い光を放った。


「わっ!?」


今度は反応した。


地図の一点へ、紫色の☆が浮かび上がる。


【☆3《雷鳴の羽衣》】


「出た!」


私は思わず立ち上がった。


さっきまで《いかなる眠りをも目覚めさせる石》には何一つ反応しなかった地図が、今度は迷うことなく新しい秘宝を表示している。


「☆3……!」


オラクルもすぐ地図へ顔を近づけた。


「場所は?」


「ここから北東。かなり遠いけど……ちゃんと映ってる!」


フランアーデルさんも地図を覗き込む。


「轟雷の荒野……」


地図には、紫色の☆と一緒に土地の名前まで表示されていた。


名前だけでも危なそうだ。


「ずっと雷が落ちてそう」


「たぶんな」


「行く?」


メリーが私の肩から尋ねる。


私は少し考えた。


本来、私たちが探しているのは黄金の雲海鯨を起こす石だ。


《雷鳴の羽衣》じゃない。


でも、その石は《聖なるマップ》に映らない。


今のまま世界中を当てもなく探しても、見つけられる可能性はほとんどない。


それなら。


「行ってみたい」


私は☆3《雷鳴の羽衣》の反応を見る。


「幻獣種と縁を結んでいけば、何か分かるかもしれない」


メロウさんが片目を細めた。


「ワシも同じ考えじゃ」


「え?」


「お前さんが探しておる目覚めの石と幻獣種に、直接関係があるとはまだ言えん。そこを決めつけるのは早い」


メロウさんの声から、さっきまでのふざけた調子が消える。


「じゃが、《聖なるマップ》に映らぬ物を追う以上、今は映っている手掛かりから世界の古い仕組みを知るしかない。幻獣種の伝承を辿ることは、無駄にはならんじゃろう」


「……うん」


何でも都合よく繋がっていると考えるのは危ない。


それでも、止まっているよりは進んだ方がいい。


その時。


メロウさんが自分の荷物を背負い始めた。


「よし。それでは出発じゃな」


「……え?」


私は瞬きをした。


オラクルもメロウさんを見る。


「待て、じいさん」


「なんじゃ?」


「なんで当然みてぇについてくる気なんだ?」


「ワシも行くからじゃ」


「聞いてねぇよ!」


「今言った」


「そういう意味じゃねぇ!」


メロウさんは鳥の頭を模した杖を肩へ担ぎ、堂々と胸を張った。


「ワシは何十年も幻獣種を追ってきた。しかし、その姿を実際に見たことは一度もない」


視線が《幻獣種召喚の本》へ向く。


「それが今、目の前に六体との縁を繋げる可能性を持つお嬢ちゃんが現れた。考古学者として、こんな面白い旅を見逃せるわけがなかろう!」


「面白いから!?」


「大事じゃぞ、好奇心は!」


フランアーデルさんが小さく笑う。


「僕はいいと思うよ。古代の伝承に詳しい人が一緒にいてくれるのは助かる」


「確かに……」


私はこれまでの旅を思い返す。


知らない文字。


知らない秘宝。


古い神話。


そのたびに、誰かから情報を集めなければならなかった。


メロウさんみたいな人が一緒なら、今まで分からなかったことも分かるかもしれない。


「オラクルは?」


「俺?」


「一緒に来てもらっていいと思う?」


オラクルはメロウさんを上から下まで見る。


「……怪しい」


「お前に言われたくないわい」


「うるせぇ」


「泥棒猫」


「誰が泥棒猫だ!」


「違うのか?」


「さっきもやっただろ、この流れ!」


思わず笑ってしまった。


メリーも楽しそうに笑っている。


「じゃあ――」


私はメロウさんへ手を差し出した。


「一緒に行きましょう」


「おお!」


メロウさんの片目が一気に輝いた。


「よろしくお願いします、メロウさん」


「堅苦しいのぅ。メロウでよい」


「じゃあ、メロウおじいちゃん?」


「急に孫になった!?」


「嫌?」


「……まあ、悪くない」


嬉しそうじゃん。


こうして。


私たちの旅に、片目の考古学者メロウおじいちゃんが加わることになった。


◇ ◇ ◇


「ところで」


出発の準備をしている途中。


メロウおじいちゃんが、私の鞄から少しだけ顔を出している《合成の聖杯》に気づいた。


「なんじゃ、それは?」


「あっ。ゴブリン王国の王様から貰った《合成の聖杯》です」


「ほう!」


嫌な予感がした。


メロウおじいちゃんの片目が、ものすごい勢いで輝き始める。


「二つか三つの品を入れると、別の物に合成できるんです。でも失敗することも多くて――」


「なんと面白い!」


「え?」


「ならばワシのこの杖と、古代遺跡で拾ったこの石と――」


メロウおじいちゃんが、鳥の杖を《合成の聖杯》へ突っ込もうとした。


「駄目ぇぇぇぇぇ!!」


私は全力で聖杯を抱えて逃げた。


「なぜじゃ!?」


「大事な物を入れちゃ駄目なんです!」


「試してみねば分からんではないか!」


「失敗したら消えるんですよ!」


「研究に犠牲はつきものじゃ!」


「自分の杖でやらないで!」


オラクルが腹を抱えて笑っている。


「お嬢、こいつお前と相性いいんじゃねぇか?」


「どこが!?」


「似てる」


メリーまで言った。


「似てないよ!」


でも。


少しだけ。


嫌な予感がした。


このおじいちゃんと一緒に旅をしたら。


たぶん。


今までよりずっと騒がしくなる。


◇ ◇ ◇


翌朝。


私たちはグライツ王国の城門前に立っていた。


私。


メリー。


オラクル。


フランアーデルさん。


そして、新しく加わったメロウおじいちゃん。


私は《聖なるマップ》を広げる。


紫色の☆は、今も遠く離れた荒野で輝いていた。


【☆3《雷鳴の羽衣》】


「まずはここだね」


「うむ」


メロウおじいちゃんが鳥の杖を掲げる。


「轟雷の荒野。古くから雷の魔物が棲む危険地帯じゃ」


「危険地帯……」


「ちなみに毎日のように雷が落ちる」


「やっぱり!」


「きゅーう!」


なぜかメリーは楽しそうだ。


オラクルが煙草へ火をつける。


「まあ、最近は黒龍だのTIMEだのと戦ってんだ。今さら雷くらいで驚かねぇよ」


フランアーデルさんも短剣を確かめながら笑った。


「行ってみよう」


「うん!」


私は地図を閉じた。


黄金の雲海鯨を目覚めさせる石は、まだ見つからない。


カサンドラへの道も、まだ完全には開いていない。


それでも。


止まっていた道に、新しい一歩が生まれた。


雷を司る幻獣。


その幻獣へ繋がるかもしれない――☆3《雷鳴の羽衣》。


そして。


新しい仲間、メロウおじいちゃん。


「行こう!」


私たちは五人で、グライツ王国をあとにした。


目指すは――轟雷の荒野。


その空ではすでに。


私たちを待つように、紫色の雷が何度も大地へ落ちていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

今回は一回限りの登場キャラ――怪しすぎる宣教師でした。

挨拶は赤B。

情報は銀B。

一生の友達は金B。

……絶対に入りたくない教会です。

ですが、胡散臭さとは裏腹に、彼が残した情報は重要でした。

黄金の雲海鯨を目覚めさせる鍵――「いかなる眠りをも目覚めさせる石」。

ところが、その情報を得ても『聖なるマップ』には場所が表示されません。

世界中の秘宝を示してきた地図にすら映らない石とは、一体何なのか。

そして今回はカサンドラ側も描写。

リザベルは☆4『大魔道士の魔導書』をTIMEへ持ち帰り、No.12は残る『???』の探索を急がせています。

さらにNo.10へ、フランアーデルの存在を伝えたリザベル。

しかしNo.10が返した言葉は――。

「俺には、家族などいない」

次回。

地図にも映らない石。

そしてTIMEへ対抗するため、フールたちは自分たちの「今の弱さ」と向き合うことになります。

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