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『フールの大冒険 ~本の世界に消えた両親を探していたら、聖なるマップに選ばれました~』  作者: ☆☆アダム☆☆


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54/113

第54話 挨拶は赤B、情報は銀B、友達は金B

グライツ王国へ戻った私たちは、その日のうちに黄金のクジラについて聞き込みを始めた。

酒場、宿屋、魔道具店、古道具屋。大図書館の受付にいたおじいさんにまで尋ねてみたけれど――。

「黄金のクジラ?」

「空を飛ぶ?」

「お嬢ちゃん、疲れてるんじゃないか?」

返ってくるのは、そんな言葉ばかりだった。

「うぅ……全然見つからない……」

私は広場の噴水へ腰かけ、がっくりと肩を落とした。

すると肩の上のメリーまで、私を真似するように小さな身体を沈ませる。

「見つからない……」

フランアーデルさんは困った様子で腕を組んだ。

「大図書館にも、あの生き物の詳しい生態までは残ってなかったね」

「存在そのものが伝説扱いだからな。普通の連中に聞いても無理だろ」

オラクルが煙草をふかしながら、当然のように言う。

「じゃあ、どうするの?」

「こういう時はな――普通じゃない奴を探す」

「普通じゃない人?」

オラクルが人差し指を立てた。

「胡散臭い奴、変人、裏事情に詳しい奴。まともな場所で見つからねぇ情報は、まともじゃねぇ場所に落ちてることがある」

「なるほど……」

なんとなく説得力がある。

泥棒だけど。

その時だった。

「――おやおやぁ?」

背後から、妙にねっとりした声が聞こえた。

「迷える子羊ちゃんたち。ずいぶんお困りのようだねぇ?」

私たちは揃って振り返った。

そして。

「……」

「……」

「……」

「……」

全員、黙った。

いた。

ものすごく怪しい人が。

全身を黒い法衣で包んだ男。胸元には、左右の皿が大きく傾いた天秤型のメダルが下がっている。

片手には、分厚い聖書みたいな本。

そして何より――ずっとニヤニヤしていた。

オラクルが小声で呟く。

「見つかったな」

「早すぎない?」

「こういう奴は向こうから来る」

怪しい宣教師は私たちの前まで来ると、芝居がかった仕草で胸へ手を当てた。

「ようこそ」

「ここ、広場ですけど」

「細かいことは気にしてはいけない」

「自分の教会みたいに言ったよ、この人」

でも男は、まったく聞いていない。

「我が教会には、とても分かりやすい料金制度がございます」

「もうお金の話!?」

宣教師は指を一本立てた。

「まず――挨拶」

ニコッ。

「赤B」

「挨拶でお金取るの!?」

二本目。

「有益な情報」

ニコニコッ。

「銀B」

「急に高くなった!」

そして三本目。

宣教師の笑顔が、今までで一番輝いた。

「そして――」

両腕を大きく広げる。

「私と一生の友達になれる権利」

「いらない」

オラクルが即答した。

宣教師が固まる。

「……まだ値段を言っていないが?」

「どうせ金Bだろ」

「金B」

「当たった!」

フランアーデルさんが額を押さえた。

「フールちゃん、行こう。関わらない方がいい」

「待ちたまえ!」

宣教師が素早く横へ回り込んでくる。

「この素晴らしい友情プラン! なんと一生涯――」

「結構です」

「誕生日には心の中で祝福!」

「何もしてないじゃん!」

「困った時には遠くから応援!」

「助けてよ!」

「死後には七日間だけ覚えている!」

「短い!」

隣では、オラクルがとうとう腹を抱えて笑い始めた。

「最高だな、こいつ」

「オラクルが気に入っちゃった!」

宣教師は満足そうに頷く。

「猫殿。友情プランはいかが?」

「二赤Bなら考える」

「値切るな!」

何なの、この二人。

「もう行こう」

フランアーデルさんが、本気で私の肩を押した。

その時だった。

「黄金のクジラ」

宣教師が、ぼそりと呟く。

私たち全員の足が止まった。

「……え?」

男はニヤニヤしている。

でも、それ以上は何も言わない。

「今、何て言ったの?」

ニヤニヤ。

「黄金のクジラって……知ってるの?」

ニヤニヤ。

「ねぇ!」

すると宣教師は、人差し指と親指で輪を作った。

「銀B」

「商売が上手い!」

オラクルが感心したように言った。

「感心するところ!?」

フランアーデルさんは、さっき以上に警戒を強めている。

「フールちゃん。信用できないよ」

「うん……」

どう見ても、信用できない。

でも。

私たちはこの人の前で、一度も黄金のクジラなんて言葉を口にしていない。

オラクルが私を見る。

「どうする、お嬢」

少し考えた。

昔の私なら、怖くて断っていたかもしれない。

でも。

旅をする中で、オラクルから学んだことがある。

情報には――価値がある。

「……払う」

「本気かい?」

フランアーデルさんが驚いたように私を見る。

「うん」

私は鞄から銀Bを一枚取り出した。

その瞬間。

宣教師の目が――ギラッ!!

明らかに光った。

「どうぞ」

チャリン。

銀Bを男の手へ載せる。

次の瞬間。

消えた。

「速っ!」

どこへ仕舞ったのか、まったく見えなかった。

オラクルが感心したように唸る。

「いい手してやがる……」

「盗賊目線で褒めないで!」

宣教師は何事もなかったように分厚い本を開いた。

「対価は支払われた」

さっきまでとは――少しだけ声が違った。

「では教えよう、迷える子羊ちゃん」

私は思わず息を呑む。

宣教師の指が、本の一ページで止まった。

「黄金の雲海鯨が目覚めない理由は――眠いからではない」

「え?」

「奴が眠っているのは、普通の眠りではない」

オラクルの表情が変わった。

フランアーデルさんも、ふざけた空気を消して宣教師を見る。

「大昔より続く――深すぎる眠り」

「じゃあ……どうやったら起こせるの?」

宣教師が、初めて笑うのをやめた。

「この世界のどこかに」

低い声。

「いかなる眠りをも目覚めさせる――一つの石がある」

「石……?」

「人の眠り」

ページをめくる。

「魔物の眠り」

さらに、もう一枚。

「呪いによる眠り」

そして最後に。

「時すら止まった眠り」

バタン。

本が閉じられた。

「すべてを――目覚めさせる」

私は息を呑んだ。

「それがあれば……クジラさんも?」

「さあねぇ?」

突然。

宣教師は、またいつもの胡散臭い笑顔へ戻った。

「そこまでが銀Bコースです」

「そこ一番大事でしょー!?」

「追加情報は――」

手を出してくる。

「銀B」

「また!?」

今度はオラクルが、すぐに私を止めた。

「払うな。キリがねぇ」

「さすが泥棒殿。よく分かっていらっしゃる」

「褒められてる?」

「たぶん馬鹿にされてる」

宣教師が踵を返した。

「待って!」

私は慌てて呼び止める。

「その石の名前は!?」

男は振り返らない。

ただ、片手だけを上げた。

「名など、いずれ君たちの方から辿り着くだろう」

「場所は!?」

「知らない」

「知らないの!?」

「知っていたら――」

宣教師が肩越しに笑った。

「銀B一枚で教えると思うかね?」

「それは確かに……」

「納得しちゃダメだよ、フールちゃん」

その時。

宣教師の身体の周りから、黒い煙が立ち始めた。

「え?」

オラクルが立ち上がる。

「魔法だ」

フランアーデルさんも、すぐに短剣へ手を伸ばした。

「待て。お前、何者だ?」

男は最後まで、ニヤニヤしていた。

「ただの善良な宣教師ですよ」

「絶対嘘!」

「それでは皆様」

両手を合わせる。

「よい旅を」

宣教師の姿が薄くなっていく。

「あっ! 待って!」

「そうそう」

消える直前。

宣教師の顔だけが、ひょこっと煙の中から出てきた。

「友達プランはいつでも金Bだからね」

「いらないよ!」

「残念」

ポンッ!

黒い煙が弾ける。

そして。

「……」

「……」

「……」

完全に消えた。

メリーは、しばらく男がいた場所を見つめたあと――。

「変な人」

と、一言だけ呟いた。

「今日一番正しいこと言ったね」

でも。

あの人が残していった情報は、間違いなく重要だった。

――いかなる眠りをも目覚めさせる石。

「名前じゃないけど……これだけ情報があれば」

私はすぐに《聖なるマップ》を広げた。

これまでだって。

《人魚の旋律》や幻獣。

たくさんの情報に、地図は反応してきた。

「お願い……」

羊皮紙へ手を置く。

「クジラさんを起こす石の場所を教えて」

直後。

青白い光が地図全体を駆け抜けた。

「光った!」

オラクルたちも集まり、地図を覗き込む。

文字。

線。

国。

森。

山。

海。

世界中が次々と淡く光る。

私は、新しい反応を必死に探した。

「……あれ?」

ない。

「どこ?」

もう一度。

端から端まで確認する。

「……ない」

「見落としてるんじゃねぇか?」

「ううん」

☆マーク。

カサンドラ。

《???》。

黄金の雲海鯨を示した足跡。

全部、いつも通り。

なのに。

目覚めの石だけが――どこにも表示されない。

「なんで……?」

フランアーデルさんも地図を覗き込む。

「名前が正確じゃないからかな」

「でも今までは、もっと曖昧でも反応したことあったよ」

オラクルが地図へ手を伸ばしかけて――やめた。

「壊れた?」

「縁起悪いこと言わないで!」

すると。

メリーが地図をじっと見つめた。

「隠れてる?」

「……隠れてる?」

その言葉が。

妙に胸に残った。

地図に載っていない――じゃなく。

地図から、隠されている。

「まさか……」

私は羊皮紙を見つめた。

世界中の秘宝を示してきた《聖なるマップ》。

その地図ですら――見つけられないもの。

いったい。

何なんだろう。

◇ ◇ ◇

――その頃。

遥か空の上。

雲海のさらに向こう。

太陽の光さえ届かない、黒鉄の城――カサンドラ。

巨大な時計盤を模した円卓。

その【12】の席で。

空間が、ぐにゃりと歪んだ。

一人の男が現れる。

TIME――No.12。

その瞬間。

円卓を囲んでいた者たちの空気が、一斉に変わった。

そして。

一人の女性が前へ出る。

閉じられた白い日傘。

左手の甲には――【8】。

リザベル。

その両手には、グライツ王国から奪った――。

☆4《大魔道士の魔導書》。

「リーダー」

リザベルが、魔導書を差し出した。

「ご命令の品ですわ」

No.12は静かに受け取る。

青紫色の魔力が、暗い円卓の中で不気味に揺れた。

「……よくやった」

その声には。

喜びも。

興奮もなかった。

「これでまた一つ、条件が揃った」

リザベルが、僅かに笑う。

「残りは?」

No.12が円卓を見渡した。

「《???》」

その言葉に、何人かのTIMEメンバーが顔を上げる。

「残された三つの所在を急げ」

静かな声だった。

それなのに。

誰も逆らえるような空気ではない。

「時間がない」

No.12は、それ以上何も言わず――闇へ消えた。

「相変わらず、忙しいお方」

リザベルが小さく笑う。

そして視線を、円卓の反対側へ向けた。

そこにいる、一人の男。

背中には――身の丈ほどもある巨大な剣。

左手の甲には。

【10】

「ねぇ」

リザベルが歩み寄る。

男は振り返らない。

「10番」

返事はない。

「地上でね」

リザベルの口元が、楽しそうに歪んだ。

「貴方の弟君に会ったわ」

男は動かない。

「フランアーデル」

その名前を――わざとゆっくり口にする。

「ずいぶん強くなっていたわよ」

沈黙。

「黒龍王を一撃で倒すほどに」

それでも。

返事はない。

「私にも本気で斬りかかってきた」

リザベルは男の顔を覗き込んだ。

「可愛い弟じゃない」

そこで。

No.10が、初めて口を開いた。

「……無意味な話をするな」

低い声。

「まあ」

「俺には――」

No.10が、ゆっくりリザベルを見る。

凍りついたような。

何の感情も読み取れない瞳。

「家族などいない」

それだけ言い残し。

男の姿は、闇へ溶けるように消えた。

一人残されたリザベルは。

しばらく、その場所を見つめたあと――。

小さく笑った。

「……本当に?」

誰にも届かない声だった。

◇ ◇ ◇

その頃。

地上にいる私は、まだ《聖なるマップ》と睨めっこしていた。

黄金の雲海鯨を目覚めさせる石。

やっぱり。

どこにもない。

でも。

私たちはまだ知らなかった。

カサンドラへ行くために探し始めた、その石が。

ただクジラを目覚めさせるだけの――。

単なる「目覚まし」なんかではないことを。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

今回は一回限りの登場キャラ――怪しすぎる宣教師でした。

挨拶は赤B。

情報は銀B。

一生の友達は金B。

……絶対に入りたくない教会です。

ですが、胡散臭さとは裏腹に、彼が残した情報は重要でした。

黄金の雲海鯨を目覚めさせる鍵――「いかなる眠りをも目覚めさせる石」。

ところが、その情報を得ても『聖なるマップ』には場所が表示されません。

世界中の秘宝を示してきた地図にすら映らない石とは、一体何なのか。

そして今回はカサンドラ側も描写。

リザベルは☆4『大魔道士の魔導書』をTIMEへ持ち帰り、No.12は残る『???』の探索を急がせています。

さらにNo.10へ、フランアーデルの存在を伝えたリザベル。

しかしNo.10が返した言葉は――。

「俺には、家族などいない」

次回。

地図にも映らない石。

そしてTIMEへ対抗するため、フールたちは自分たちの「今の弱さ」と向き合うことになります。

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