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『フールの大冒険 ~本の世界に消えた両親を探していたら、聖なるマップに選ばれました~』  作者: ☆☆アダム☆☆


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第57話 轟雷の荒野と、七羽の雷鳥

轟雷の荒野へ足を踏み入れた瞬間、空気そのものが変わった。


バチッ――。


頬のすぐ横で青白い火花が弾け、私は反射的に肩をすくめた。


「今、何か当たった!?」


「静電気じゃ」


メロウおじいちゃんは平然としている。


「この荒野では大気中に雷の魔力が満ちておる。長くいれば、髪くらい勝手に逆立つぞい」


「えっ?」


自分の頭へ触れる。


まだ大丈夫。


隣を見る。


「……オラクル」


「何だ?」


「ヒゲ、すごいことになってるよ」


「は?」


左右のヒゲが、いつもの何倍にも膨らんでいた。


メリーがじっと見る。


「ふわふわ」


「笑うな!」


「まだ笑ってないよ!」


「お嬢は顔が笑ってんだよ!」


その直後。


ドガァァァン!!


すぐ近くへ雷が落ちた。


「きゃあっ!」


さっきまでの笑いが一瞬で吹き飛ぶ。


雷撃が直撃した地面には巨大な穴が開き、その周囲が真っ黒に焦げていた。


「……あれに当たったら?」


「痛いでは済まんじゃろうな」


「先に言ってよ!」


「言う前に落ちたんじゃ!」


メロウおじいちゃんが悪いわけではない。


でも、怖いものは怖い。


私は《聖なるマップ》を確認した。


☆3《雷鳴の羽衣》は、荒野の最深部から動いていない。


「ここから真っ直ぐだよ」


「真っ直ぐって言ってもな……」


オラクルが前方を見る。


大地の至る場所へ雷が落ち続けている。


安全な道なんて、どこにも見当たらなかった。


フランアーデルさんが空を見上げる。


「雷が落ちる直前、雲の一部が明るくなってる」


「分かるんですか?」


「少しだけね。全部は無理だけど、近くに落ちるものなら避けられるかもしれない」


「ならフランが先頭じゃ」


メロウおじいちゃんが即答した。


「ワシは真ん中!」


「急に老人になるなよ」


オラクルが呆れる。


「年寄りを労れ!」


「さっき研究に犠牲は付き物とか言ってただろ」


「自分が犠牲になるとは言っておらん!」


本当にこの二人、相性がいい気がする。


◇ ◇ ◇


私たちはフランアーデルさんを先頭に、雷の合間を縫うように進んだ。


「止まって!」


フランアーデルさんが腕を広げる。


次の瞬間。


ドォン!!


十メートルほど先へ雷が落ちた。


「今!」


全員で走る。


焦げた地面を通り抜け、次の岩陰まで一気に移動する。


その繰り返しだった。


荒野へ入る前より、遥かに進む速度は遅い。


それでも確実に☆3へ近づいている。


ところが。


「止まれ」


今度はオラクルが低い声を出した。


フランアーデルさんとは違う。


空じゃない。


前方の岩場を見ている。


「何かいる」


私たちも足を止めた。


最初は何も見えない。


でも、岩の隙間で青白い光が動いた。


バチバチバチッ――!


「グルルルル……」


姿を現したのは、大型犬ほどもある巨大なトカゲだった。


全身を紫色の鱗で覆われ、その隙間を雷が走っている。


一匹。


二匹。


岩陰から次々と出てくる。


「雷トカゲじゃな」


メロウおじいちゃんが言った。


「この荒野の魔力へ適応した魔物じゃ。触れるだけでも痺れるから気をつけろ」


「触らなければいい?」


メリーが両手に炎を灯した。


「そうじゃが――」


「燃やす」


「待って!」


私が止めるより早く、メリーの火球が飛んだ。


ドンッ!


雷トカゲの目の前で爆発する。


ところが。


「え?」


炎の中から、雷トカゲが飛び出してきた。


ほとんど効いていない。


「こいつらの鱗は魔力への耐性が高い!」


メロウおじいちゃんが叫ぶ。


「先に言って!」


「メリーちゃんが早すぎるんじゃ!」


雷トカゲが大きく口を開いた。


青白い雷撃が一直線に飛んでくる。


「フールちゃん!」


フランアーデルさんに腕を引かれ、間一髪で雷をかわす。


直後、別の個体が横から飛びかかってきた。


オラクルが短剣を抜く。


「俺に任せろ!」


雷トカゲの顎を紙一重でかわし、その勢いを利用して身体の下へ滑り込む。


狙ったのは鱗じゃない。


柔らかい腹部。


「そこだ!」


短剣の柄を叩き込む。


「ギャウッ!」


雷トカゲが地面へ転がった。


「腹は効くぞ!」


「分かった!」


私たちは一斉に動いた。


メリーが炎で正面から牽制し、雷トカゲが顔を背けた隙にオラクルとフランアーデルさんが側面へ回る。


私は直接戦えない。


だから。


《聖なるマップ》を開き、周囲を見る。


「右からもう二匹来る!」


「助かる!」


フランアーデルさんが振り返らず答えた。


一匹の雷撃をかわし、もう一匹の身体を踏み台にして跳ぶ。


空中で短剣を抜き、腹部へ柄を叩き込んだ。


「ギャウッ!」


着地と同時に、背後から別の雷トカゲが迫る。


でも。


その身体が突然、地面へ叩きつけられた。


ドンッ!


「え?」


何が起きたのか分からなかった。


雷トカゲが、見えない何かに押し潰されたように動けなくなっている。


「《グラビティ・ブレイク》」


メロウおじいちゃんが鳥の杖を地面へ向けていた。


「おじいちゃん、魔法使えるの!?」


「誰が考古学しかできんと言った!」


杖の先が紫色に輝く。


さらに二匹の雷トカゲの身体が一気に重くなり、腹から地面へ叩きつけられた。


「今じゃ!」


「はい!」


フランアーデルさんとオラクルが同時に飛び込み、二匹を気絶させる。


残った雷トカゲたちは勝ち目がないと悟ったのか、岩陰へ逃げていった。


荒野に、再び雷鳴だけが残った。


「すごい……」


私はメロウおじいちゃんを見る。


「重力魔法?」


「遺跡調査には便利でのぅ。重い石扉をどかしたり、崩れそうな天井を支えたりできる」


「魔物を地面に潰すのにも便利そうだな」


オラクルが言う。


「それは副業じゃ」


「副業なのかよ」


◇ ◇ ◇


倒れた雷トカゲが消えたあと、地面には小さな紫色の結晶が残っていた。


メロウおじいちゃんがすぐ拾い上げる。


「ほう。《雷の結晶石》じゃ」


「素材?」


私が尋ねる。


「そうじゃ。雷属性の魔力が凝縮されておる」


「素材……」


思わず《合成の聖杯》を見る。


メロウおじいちゃんも同じものを見る。


二人の視線が合った。


「……」


「……」


「試す?」


「試すか?」


「やめろ、お前ら」


オラクルに同時に止められた。


「まだ一個しかねぇんだぞ。珍しい素材を手に入れるたびに混ぜようとすんな」


「でも、雷の結晶石だよ?」


「名前からして強そうじゃぞ?」


「だからこそ取っとけ!」


フランアーデルさんが笑いながら結晶を受け取った。


「オラクルの言う通りだよ。何か使い道が分かるまで残しておこう」


「はーい」


「仕方ないのぅ」


私とメロウおじいちゃんが同時に答える。


オラクルが頭を抱えた。


「なんで問題児が増えてんだよ……」


◇ ◇ ◇


さらに荒野の奥へ進むと、今度は狼のような魔物が現れた。


灰色の毛並みの間を、青白い雷が走っている。


「雷狼じゃ!」


今度はメロウおじいちゃんの説明を最後まで聞いた。


「速い。群れで獲物を囲み、雷を使って動きを止めてから襲う。正面から追うな!」


「分かった!」


五匹の雷狼が一斉に散開した。


一匹ずつ戦うつもりじゃない。


私たちを囲むつもりだ。


でも。


「メリー!」


「きゅーう!」


メリーが空へ飛び上がり、炎を地面へ放った。


倒すためじゃない。


炎の壁を作る。


雷狼たちの進路が一方向へ限定された。


「メロウおじいちゃん!」


「任せい!」


鳥の杖が地面へ叩きつけられる。


「《グラビティ・ブレイク》!」


重力が増す。


炎を避けて一ヶ所へ集まった雷狼たちの動きが、一斉に鈍った。


そこへ。


フランアーデルさんとオラクルが飛び込む。


今度は長引かなかった。


連携。


地形。


相手の習性。


それを利用すれば、力だけで上回らなくても戦える。


五匹の雷狼が消えたあとには、一本の青白い骨が残されていた。


【《迅雷の骨格》】


「これも素材じゃな」


「合成――」


「しねぇぞ」


オラクルが先回りした。


「まだ何も言ってないよ!」


「顔が言ってんだよ!」


メロウおじいちゃんまで頷く。


「確かに、いい素材になりそうじゃ」


「じいさんは黙ってろ!」


◇ ◇ ◇


魔物との戦いを繰り返しながら、私たちは少しずつ荒野の最深部へ近づいていった。


やがて。


雷の音が変わった。


今までは、空から地面へ無秩序に落ちていた。


でも。


今は違う。


ドンッ!


ドンッ!


ドンッ!


一定の場所へ向かって、何度も雷が落ちている。


「何だ、あれ……」


オラクルが立ち止まった。


遠く。


黒雲の下に、巨大な岩山が見える。


その山頂だけへ。


空の雷が集中していた。


私は《聖なるマップ》を見る。


☆3《雷鳴の羽衣》の反応は――。


「あそこだ」


山頂と、ぴったり重なっている。


「行こう」


私たちは最後の坂を登った。


一歩進むたびに雷鳴が大きくなり、空気が肌へ刺さるように痛い。


そして。


岩山の頂上へ辿り着いた瞬間。


私は足を止めた。


「……鳥?」


山頂には。


六羽の巨大な鳥がいた。


普通の鳥とは比べものにならない。


一羽一羽が人間より遥かに大きく、青紫色の羽毛の隙間を雷が走っている。


六羽は円を描くように立ち。


その中央を――守っていた。


「真ん中に……もう一羽いる」


メリーが小さく呟いた。


六羽より。


さらに巨大な鳥。


翼を畳み。


目を閉じ。


雷に包まれながら。


静かに眠っている。


その身体の上には。


一枚の美しい羽衣が掛けられていた。


紫と白の光が織り込まれたような布。


雷が落ちるたびに。


羽衣そのものが。


空の稲妻を吸い込むように輝く。


《聖なるマップ》が強く反応した。


【☆3《雷鳴の羽衣》】


「見つけた……!」


ようやく辿り着いた。


でも。


喜ぶのはまだ早かった。


中央に眠る一羽。


それを守るように立つ六羽。


合わせて――七羽。


六羽の守護雷鳥が。


一斉に。


こちらを見た。


バチバチバチバチッ!!


七羽を包んでいた雷が、一気に強くなる。


メロウおじいちゃんが鳥の杖を構えた。


「気をつけろ!」


さっきまでのおどけた声じゃない。


「こやつらは、荒野の魔物とは格が違うぞ!」


六羽の雷鳥が同時に翼を広げる。


その中心で。


眠っていた七羽目の巨大な雷鳥が――。


ゆっくりと。


片目を開いた。

新加入のメロウ、戦闘ではかなり頼れます。

ただし――鳥の杖を合成の聖杯に入れようとするのだけは絶対禁止です。

そしてついに到着した『轟雷の荒野』最深部。

狙うは☆3『雷鳴の羽衣』。

その前に待つのは、六羽の守護雷鳥と、その中央に眠る巨大な雷鳥です。

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