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『フールの大冒険 ~本の世界に消えた両親を探していたら、聖なるマップに選ばれました~』  作者: ☆☆アダム☆☆


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第5話 三つ子の約束

ミシッ――。

赤い子が握る骨付き肉の骨に、さらに亀裂が走った。

「赤っ!」

叫んだつもりだった。

けれど、まだ時間は止まっている。

声にならない。

身体も動かない。

ただ目の前で、赤い子が必死にNo.1の剣を受け止めている。

「あり得ない」

No.1の顔から、初めて余裕が消えた。

「俺の停止領域の中で、なぜ動ける?」

「知らない……でぷ」

赤い子の腕が震える。

「動かなきゃ……フールちゃんが死ぬでぷ」

「そんな理由で時間停止を破れるものか」

「じゃあ……俺、すごいでぷ」

赤い子が笑った。

いつもの、少し間の抜けた笑顔だった。

「あとでいっぱい褒めてもらうでぷ」

違う。

そんなこと言わないで。

胸の中で必死に叫ぶ。

今すぐ逃げて。

私なんか放っておいて。

それなのに身体は動かない。

No.1の剣へ力が込められた。

バキンッ!

骨が砕けた。

「――っ!」

剣先が赤い子の肩を切り裂く。

血が飛んだ。

その瞬間。

カチッ。

止まっていた世界が動き出した。

「赤ぁっ!」

私は駆け寄ろうとした。

けれど、赤い子が怒鳴った。

「来るなでぷ!」

初めて聞くほど強い声だった。

足が止まる。

「緑! 黄色!」

「分かってるでぷ!」

緑の子が本を開いた。

ページが激しくめくられ、青白い文字が次々と浮かび上がる。

黄色い子も腰のお金袋へ手を突っ込んだ。

「貯金全部使うでぷ!」

「えっ?」

黄色い子が袋の中身を空へ投げた。

金貨。

銀貨。

赤B。

何十枚もの硬貨が宙へ舞う。

No.1が眉をひそめた。

「何の真似だ」

「お金は使うためにあるでぷ!」

黄色い子が両手を合わせる。

「――《ゴールド・バインド》!」

宙に浮かんだ硬貨が光った。

次の瞬間、すべてのコインが細い金色の鎖へ変わり、No.1の腕や足へ絡みついた。

「何?」

ガシャンッ!

No.1の身体が地面へ縫い止められる。

黄色い子の顔が青ざめた。

「い、今でぷ!」

「こんな低級拘束で――」

No.1が腕へ力を込める。

一本。

二本。

金色の鎖が次々と千切れていく。

強すぎる。

あれだけのお金を使ったのに。

ほんの数秒しか止められない。

でも。

その数秒のために、三匹は動いていた。

「赤、伏せるでぷ!」

緑の子が叫んだ。

赤い子が地面へ飛び込む。

緑の子は本を胸の前へ構えた。

「この本には、昔から俺たち三人で集めたものが全部書いてあるでぷ」

ページから光が溢れる。

「食べられるキノコ」

一枚のページが燃えた。

「安全な道」

また一枚。

「街の場所」

さらに一枚。

「モンスターの弱点」

次々とページが光へ変わっていく。

「緑!?」

私は思わず叫んだ。

「その本、大事なんじゃ……!」

「大事でぷよ!」

緑の子は笑った。

だけど、目には涙が浮かんでいた。

「ずっと大事にしてきたでぷ」

本がどんどん薄くなっていく。

「だから――」

残ったページすべてが強烈な光を放った。

「大事な時に使うでぷ!」

緑の子の足元に巨大な魔法陣が広がった。

空気が震える。

No.1の顔色が変わった。

「この魔力……ゴブリンが出せる量じゃない」

「三匹で集めた知識でぷ!」

緑の子が両手を突き出した。

「《グランド・ライト》!」

轟音。

真っ白な光線が通りを飲み込んだ。

No.1の身体へ直撃する。

「ぐっ……!」

初めてだった。

No.1が苦痛の声を漏らした。

金色の鎖が砕ける。

男の身体が何メートルも後ろへ吹き飛ばされた。

「やった……?」

私は呟いた。

煙が立ち込める。

赤い子が肩を押さえながら立ち上がった。

黄色い子は空になった金袋を握っている。

緑の子の手には、もう表紙しか残っていなかった。

「三人とも……」

「これくらい平気でぷ」

赤い子が笑う。

「お肉なくなっちゃったでぷけど」

黄色い子も頷いた。

「お金も全部なくなったでぷ」

緑の子が空っぽになった本を見せる。

「俺の本もでぷ」

三匹が顔を見合わせる。

そして。

同時に笑った。

「また集めればいいでぷ!」

その言葉を聞いた瞬間。

胸の奥が熱くなった。

「うん!」

私も笑った。

「今度は私も手伝う!」

「約束でぷ!」

その時だった。

カチッ。

小さな音がした。

三匹の笑顔が消える。

煙の向こう。

人影が立っていた。

No.1。

黒い服は焼け、頬には血が流れている。

それでも――立っている。

「……ふざけるな」

声が低い。

今までとは違う。

完全に怒っている。

「下等なゴブリン三匹ごときに……俺が傷を負わされた?」

銀色の懐中時計が、黒く染まっていた。

「逃げるでぷ!」

緑の子が叫ぶ。

No.1が時計を握り潰すように力を込めた。

「《タイム・エンド》」

カチン。

世界から、音が消えた。

「――え?」

今度は時間が止まらなかった。

私は動ける。

赤も。

緑も。

黄色も。

でも。

おかしい。

No.1の姿が――消えた。

「どこでぷ!?」

黄色い子が辺りを見回す。

緑の子も必死に考える。

「違うでぷ……!」

その顔が真っ青になった。

「俺たちが止まったんじゃないでぷ!」

「じゃあ何が――」

「No.1自身の時間を加速させてるでぷ!」

理解するより先だった。

ドンッ!

「ぐっ……でぷ」

赤い子の身体が宙へ浮いた。

胸から刃が突き出していた。

「……え?」

No.1が、赤い子の背後に立っている。

剣が赤い子の身体を貫いていた。

「赤ぁぁぁぁぁっ!」

No.1が剣を抜く。

赤い子が崩れ落ちた。

私は走った。

でも――。

またNo.1が消える。

「黄色! 後ろでぷ!」

緑の子が叫ぶ。

黄色い子が振り返る。

間に合わない。

ドンッ!

黄色い子の身体が地面へ叩きつけられた。

「かはっ……」

「黄色!」

「次」

No.1の声。

緑の子の目の前に、男が現れた。

剣が振り下ろされる。

「やめてえええええっ!!」

私は何も考えずに飛び込んだ。

緑の子を抱きしめる。

ぎゅっと目を閉じた。

斬られる。

そう思った。

けれど。

ガキィンッ!!

「……?」

目を開ける。

私の前に――赤い子がいた。

胸から大量の血を流しながら。

両手で、No.1の剣を掴んでいる。

「何……?」

No.1が目を見開いた。

「まだ動けるのか」

「言った……でぷ」

赤い子の声は震えていた。

「フールちゃんは……パパとママに会うでぷ」

「離せ」

「嫌でぷ」

「離せ!」

No.1が蹴り飛ばす。

赤い子の小さな身体が転がった。

それでも。

その手は最後まで剣を放さなかった。

「緑……」

赤い子が呟いた。

「黄色……」

地面に倒れていた黄色い子が、ゆっくり顔を上げた。

三匹の目が合う。

言葉を交わしていない。

なのに、三匹には分かっているようだった。

緑の子が静かに頷く。

「やるでぷ」

黄色い子も血を拭った。

「三人一緒でぷ」

赤い子が笑った。

「当たり前でぷ」

「何をする気だ?」

No.1が警戒して後退する。

緑の子が私を見た。

「フールちゃん」

「何?」

嫌な予感がした。

「逃げるでぷ」

「嫌」

即答した。

「絶対嫌!」

「お願いでぷ」

「嫌だって言ってるでしょ!」

私は緑の子の腕を掴んだ。

「みんなで逃げよう! 街の兵士だっている! きっと助けてくれる! だから――」

「フールちゃん」

緑の子は笑った。

とても優しい笑顔だった。

「パパとママに会いたいでぷよね?」

「……会いたい」

「だったら行くでぷ」

黄色い子が、空になった金袋を私の手へ押しつけた。

「これ、持っててほしいでぷ」

「いらないよ!」

「お願いでぷ」

「こんなのいらない! 黄色が持っててよ!」

震える私の手を、黄色い子が小さな両手で包む。

「いつかいっぱいお金持ちになったら、返しに来るでぷ」

「だったら自分で持っててよ!」

涙で前が見えなくなる。

赤い子も、折れた骨付き肉の骨を拾った。

「俺のはあげられないでぷ」

「なんで……?」

「お腹すいたら困るでぷ」

「こんな時まで何言ってるの……!」

赤い子が笑う。

いつも通りだった。

緑の子は、表紙だけになった本を胸へ抱く。

「フールちゃん」

「嫌……」

「出会えてよかったでぷ」

「言わないで」

「楽しかったでぷ」

「やめてよ!」

「フールちゃんは――」

緑の子の目から、涙が零れた。

「絶対に一人じゃないでぷ」

三匹が同時に私の身体を押した。

後ろへよろめく。

その瞬間。

緑の子が地面へ手をついた。

最後に残していた魔力が爆発した。

私の足元に風の魔法陣が現れる。

「えっ――」

「行くでぷ、フールちゃん!」

突風。

身体が吹き飛ばされた。

「待って!!」

三匹が遠ざかる。

No.1が剣を構える。

赤い子。

緑の子。

黄色い子。

三匹は横一列に並んだ。

手を繋ぐ。

「離して! 戻してよ!」

私は地面を転がりながら叫んだ。

赤い子が振り返る。

「また会うでぷ!」

緑の子も。

「パパとママによろしくでぷ!」

黄色い子が最後に笑った。

「ちゃんと幸せになるでぷよ!」

そして。

三匹がNo.1へ駆け出した。

「三匹揃えば――」

赤。

「最強でぷ!」

緑。

「絶対に負けないでぷ!」

黄色。

No.1が懐中時計を掲げる。

「消えろ!」

白い閃光が街を包んだ。

ドオオオオオオオオオオン――!!

「みんなあああああああっ!!」

爆発音に、私の叫び声が飲み込まれた。

光。

煙。

熱風。

私は何度も地面を転がった。

それでも立ち上がる。

ふらつきながら、三匹がいた場所へ戻った。

「赤……?」

返事はない。

「緑?」

ない。

「黄色……?」

煙が少しずつ晴れていく。

地面には、砕けた銀色の懐中時計が落ちていた。

少し離れた場所で、No.1が倒れている。

動かない。

三匹は――。

そのさらに向こうにいた。

寄り添うように。

三人並んで。

静かに倒れていた。

私はゆっくり歩いた。

足が震える。

「……勝ったよ」

誰も返事をしない。

「ねえ」

赤い子の手を握る。

冷たくなり始めていた。

「勝ったってば」

緑の子。

黄色い子。

「起きてよ……」

返事はない。

「また集めるんでしょ?」

骨付き肉も。

本も。

お金も。

「約束したじゃん……」

私は三匹の間へ座った。

「私も手伝うって言ったじゃん……」

頬を涙が伝った。

止められなかった。

この世界へ来て、まだ一日も経っていない。

なのに。

初めてできた仲間を――。

私は失った。

そしてその日。

私は初めて知った。

冒険は、楽しいことだけじゃない。

誰かと出会うということは。

いつか、その誰かを失うかもしれないということなのだと。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

今回は少し重いお話になりました。

短い時間でも、フールにとって三匹は大切な仲間でした。

三匹が残したものを胸に、フールはこれから先も旅を続けます。

赤、緑、黄色のことを、読者の皆さんにも覚えていてもらえたら嬉しいです。

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