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『フールの大冒険 ~本の世界に消えた両親を探していたら、聖なるマップに選ばれました~』  作者: ☆☆アダム☆☆


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第45話 黒龍王と、炎を喰らう剣士

洞窟へ足を踏み入れた瞬間。

空気が変わった。

「……寒い」

メリーが私の肩の上で、ぶるっと身体を震わせる。

外は暖かかったのに、洞窟の中は吐く息が白くなるほど冷たい。それなのに、奥へ進むほど肌はじりじりと焼けるように痛かった。

寒いのに、熱い。

なんだか変な感じだ。

「魔力だな」

オラクルが低い声で言った。

「かなり濃い。そこらの魔物が出すもんじゃねぇぞ」

私は『聖なるマップ』を開く。

青白い光が、真っ暗な洞窟の奥へ一本の道を描いていた。

その先にある文字。

【☆2 黒龍王の爪】

「ちゃんと奥にある」

「問題は」

オラクルが煙草をしまいながら言う。

「『黒龍王』って名前の方だな」

「……やっぱりいると思う?」

「黒龍王の爪って宝の隣に、親切なウサギが座ってるとは思えねぇ」

「それはそうだけど……」

メリーが両手に小さな炎を灯した。

「龍なら燃やす」

「龍って火に強そうじゃない?」

「もっと燃やす」

「力技だね」

頼もしいのか危ないのか分からない。

でも。

私は笑ってから、再び奥へ進んだ。

道は次第に狭くなっていった。

天井から長い鍾乳石が垂れ下がり、足元には深い裂け目。

ときどき。

ズン……。

洞窟の奥から、低い音が聞こえる。

最初は地鳴りだと思った。

でも。

一定の間隔で響いている。

ズン……。

ズン……。

「……これ」

私は足を止めた。

「心臓の音みたい」

オラクルも耳を立てる。

「俺も同じこと考えてたところだ」

「きゅ……」

珍しくメリーまで黙った。

さらに進む。

魔力が強くなる。

『聖なるマップ』の光まで、まるで怯えているみたいに揺れていた。

そして。

曲がりくねった通路の先。

青白い光が見えた。

「……あそこ」

☆2の反応。

近い。

私はカバンの紐を握り締める。

「行こう」

最後の細い通路を走り抜けた。

その瞬間。

視界が、一気に開けた。

「……!」

言葉が出なかった。

洞窟の中だというのに。

目の前には、天井さえ見えない巨大な地底空洞が広がっていた。

黒い岩柱。

地下を流れる赤い溶岩。

そして中央。

岩でできた巨大な台座の前に――。

「龍……」

いた。

真っ黒な龍。

私たちなんか、一口で飲み込めそうな巨体。

全身を覆う漆黒の鱗は金属みたいに光り、背中から伸びた巨大な翼が開くだけで、地底の風景そのものが暗くなる。

鋭い黄金の瞳。

頭には巨大な角。

あれが。

「黒龍王……」

私の声が震えた。

そのすぐ後ろ。

岩の台座の上には。

黒い光を放つ巨大な鉤爪。

【☆2 黒龍王の爪】

「本当にあった……!」

けれど。

オラクルが腕を伸ばして私を止めた。

「お嬢、待て」

「え?」

「龍を見ろ」

黒龍王は。

私たちを見ていなかった。

怒り狂った黄金の目は、別の方向へ向けられている。

「誰か……いる?」

黒龍王が大きく息を吸った。

胸元の鱗が赤く光る。

「まずい!」

オラクルが私とメリーを岩陰へ突き飛ばした。

次の瞬間。

ゴオオオオオオオオオッ!!

巨大な炎。

洞窟そのものを焼き尽くすような業火が、黒龍王の口から放たれた。

「きゃっ!」

熱風だけで、顔が焼けそうになる。

私は腕で目を覆った。

でも。

炎が飛んでいった方向は。

私たちじゃない。

「何を攻撃して……」

炎の向こう。

いた。

人。

一人の男が。

黒龍王の正面に立っていた。

「嘘……」

逃げていない。

あんな炎が真正面から来ているのに。

男は微動だにしない。

「死ぬぞ!」

オラクルが叫ぶ。

その時。

青年の右手が動いた。

握られていたのは。

小さな短剣。

それだけだった。

「……あんなので?」

青年が短剣を前へ突き出す。

次の瞬間。

ゴオオオオ――!

「えっ!?」

黒龍王の炎が。

曲がった。

まるで巨大な渦に呑み込まれるように。

すべての炎が、小さな短剣へ吸い込まれていく。

「炎を……吸ってる?」

メリーまで目を丸くする。

「きゅーう……」

何十メートルもあった業火が。

消えた。

青年の短剣だけが。

黒と紫の稲妻をまとって輝いている。

オラクルが呟く。

「……とんでもねぇ武器だな」

「違う」

私は青年を見る。

短剣は強い。

でも。

それ以上に。

使っている本人が。

恐ろしく強い。

黒龍王が怒りの咆哮を上げた。

「グオオオオオオオッ!!」

翼を広げ。

巨大な爪を振り下ろす。

青年は。

静かに顔を上げた。

若い。

思っていたよりずっと。

私が想像していた恐ろしい怪物みたいな人じゃない。

綺麗に整った顔。

落ち着いた目。

だけど今は。

敵を見る瞳だけが鋭く冷たい。

「――返すよ」

青年が短剣を構える。

黒紫の魔力が。

刃から溢れた。

「お前の炎を」

一歩。

踏み込む。

姿が消えた。

「え!?」

次に見えた時。

青年は。

黒龍王の目の前にいた。

「――《グランドバイツ》」

一閃。

ズガァァァァァァン!!

巨大な黒い牙。

そう見えた。

黒と紫の斬撃が空間を食い破りながら黒龍王へ直撃する。

「ギャオオオオオッ!!」

あの巨大な黒龍王が。

吹き飛んだ。

岩壁へ激突。

大空洞全体が揺れた。

ドドドドド……!

「一撃……?」

私は呆然としていた。

黒龍王が立ち上がろうとする。

でも。

身体に亀裂。

黒い鱗の隙間から光が漏れる。

そして。

パァァァ……。

巨体が。

無数の黒い光へ変わった。

消えていく。

残されたのは。

台座。

そして。

☆2。

『黒龍王の爪』。

「……」

誰も動けなかった。

青年だけが。

普通のことをしたみたいに短剣を鞘へ収める。

そして。

台座へ歩いていった。

「あっ!」

私は思わず声を漏らした。

青年の手が。

黒龍王の爪へ伸びる。

カッ。

☆2の光。

青年はそれを持ち上げると。

そのまま懐へ仕舞った。

「取られた……」

目的のお宝。

完全に先を越された。

メリーが肩を落とす。

「爪……」

オラクルは青年を見ながら言った。

「追いかけて『返せ』って言う相手じゃねぇぞ」

「分かってるよ……」

悔しいけど。

あんな黒龍王を一撃で倒す人。

戦ったら勝てるわけがない。

「今回は諦め――」

カツン。

青年の足音が止まった。

「……」

ぞくっ。

空気が。

一瞬で変わった。

背中に氷を入れられたような感覚。

青年が。

こちらを見ている。

「バレた」

メリーが小さく言った。

「静かに」

オラクルが短剣へ手を添える。

岩陰から。

青年の視線だけが。

真っ直ぐこちらを射抜いている。

黒龍王と戦っていた時と同じ目。

冷たい。

鋭い。

「そこにいるのは――」

青年の声が響く。

「誰だ」

逃げても無駄。

そう分かった。

私は唾を飲み込んだ。

「出よう」

「お嬢」

「大丈夫」

「根拠は?」

「……ない」

「おい」

でも。

ずっと隠れていても仕方ない。

私は岩陰から。

ゆっくり出た。

オラクルも続く。

メリーは私の肩。

青年の手が。

もう一度短剣へ伸びた。

その目が。

私。

メリー。

オラクル。

順番に見る。

そして。

「……え?」

表情が変わった。

あれだけ恐ろしかった殺気が。

一瞬で消えた。

「子供……?」

青年が短剣から手を離した。

「君たち、そこで何してるんだ!?」

今度は。

逆に慌てながら走ってきた。

「怪我は!? さっきの炎に巻き込まれてない?」

「え?」

私の方が困惑した。

青年はしゃがみ込み、私と目線を合わせる。

「こんな場所は危険だよ。黒龍王がいたんだ。もう倒したとはいえ、他の魔物が出るかもしれない」

さっきまで。

黒龍王を一撃で倒した人とは思えない。

声が。

優しい。

オラクルが疑うように青年を見る。

「ずいぶん変わるんだな、お前」

「……猫が喋った」

「そこに驚くのかよ」

青年が少し笑った。

「ごめん。てっきり黒龍王の仲間か、僕を狙っている誰かだと思ったんだ」

「私たちは……」

私は青年の懐を見る。

「その『黒龍王の爪』を探しに来たんです」

「これ?」

青年が取り出す。

黒い鉤爪。

☆2。

私は頷いた。

「はい」

青年は私。

メリー。

オラクル。

もう一度見る。

「どうして?」

「え?」

「君みたいな小さな子が、命を懸けてまでこの爪を欲しがる理由」

責めている感じじゃない。

純粋に。

知りたい。

そんな目だった。

私は少し迷ってから。

『聖なるマップ』を取り出した。

オラクルが横目で私を見る。

でも。

止めなかった。

「私……両親を探してるんです」

青年の表情が変わる。

私は話した。

おばあちゃんのこと。

本の世界へ来たこと。

TIME。

グラティスでNo.10に負けたこと。

古の目覚めの笛を奪われたこと。

そして。

天空の国カサンドラ。

「TIMEの本拠地が……カサンドラ?」

青年が静かに呟いた。

「はい」

私は頷く。

「でも、まだそこまで行く方法が分からなくて。それに……10番にもう一回会っても、今のままじゃ勝てない」

だから。

強くなりたい。

そのために。

『黒龍王の爪』を探していた。

話し終えるまで。

青年は。

一度も口を挟まなかった。

ただ。

静かに聞いていた。

そして。

「TIME……か」

その声だけ。

急に。

冷たくなった。

「……知ってるんですか?」

私は尋ねた。

青年は。

少しだけ目を伏せた。

「知ってるよ」

握った拳。

その指が。

微かに震えている。

「僕も、奴らを追っている」

オラクルの目が細くなる。

「何者だ、お前」

青年は顔を上げた。

そして。

初めて。

私たちへ穏やかに笑った。

「そういえば、まだ名乗ってなかったね」

胸へ手を当てる。

「僕は――」

少しだけ間を置いて。

「フランアーデル」

その名を聞いた瞬間。

なぜだろう。

聖なるマップが。

私の手の中で。

ほんの一瞬だけ――。

淡く光った。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

今回は『☆2:黒龍王の爪』が眠る洞窟で、ついに新キャラクターが登場しました。

黒龍王の業火を短剣へ吸収し、奥義グランドバイツで一撃撃破。

圧倒的な強さを見せた謎の青年でしたが、フールたちが子供だと分かった途端、心配して駆け寄ってくる意外な一面も。

そして、その名前は――フランアーデル。

さらに彼もまた『TIME』を追っていることが明らかになりました。

先に『黒龍王の爪』を手に入れたフランアーデル。

フールたちと同じ敵を追う彼が、なぜTIMEを憎んでいるのか。

そして最後に、彼の名前へ反応した『聖なるマップ』の意味とは――。

次回、フランアーデルの過去と、新たな旅の仲間が動き出します。

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