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『フールの大冒険 ~本の世界に消えた両親を探していたら、聖なるマップに選ばれました~』  作者: ☆☆アダム☆☆


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第43話 三つの秘宝より大切なもの

王宮の大扉が開いた瞬間だった。

「チェック!」

玉座にいた王様が勢いよく立ち上がり、いつもの威厳さえ忘れたように深紅の絨毯を駆けてくる。

「父上……」

チェックのお兄ちゃんが小さく笑った、その次の瞬間。

王様は息子の身体を、力いっぱい抱きしめていた。

「よかった……本当に、よかったでぷ……!」

「く、苦しいでぷ……」

「このくらい我慢するのでぷ!」

「さっき人質にされてた時より苦しいでぷ!」

「それだけ喋れるなら元気そうで何よりでぷ!」

私は思わず笑ってしまった。

ピンクのお兄ちゃんも白銀のお兄ちゃんも、安心したように笑っている。少し離れた場所では、オラクルが腕を組みながらその光景を眺めていた。

「ま、あれだけ喋れりゃ大丈夫そうだな」

「うん」

肩の上では、メリーが戦いの疲れを引きずったままぐったり座り込んでいる。

「メリー、お腹すいた」

「あとでいっぱい食べようね」

「いっぱい」

「分かったから」

ようやく全員で帰ってこられたんだ。

そう思っただけで、張り詰めていた胸の奥が少しずつほどけていった。

◇ ◇ ◇

ひとしきり息子を抱きしめたあと、王様は私たちの前へ歩いてきた。

そして――深々と頭を下げる。

「フールちゃん。メリーちゃん。そして、オラクル殿」

「えっ!? 王様、頭を上げてください!」

私は慌てたけれど、王様はすぐには顔を上げなかった。

「我が息子を、そしてこの国の守護者を救ってくれたのでぷ」

少しだけ声が震えている。

「父親として――心から感謝するのでぷ」

何と返せばいいのか分からなかった。

私たちは、チェックのお兄ちゃんを助けたかったから助けただけだ。それでも、王様にとってはかけがえのない息子が無事に帰ってきたんだ。

やがて王様は顔を上げ、表情を引き締めた。

「聞けば、TIMEの4番が現れたそうでぷな」

「はい」

「しかも狙いは……」

私は鞄へ手を置いた。

「☆5《幻獣種召喚の本》でした」

王様の表情が険しくなる。

「やはりでぷか……」

「でも、取られてません」

「それどころじゃねぇぞ」

オラクルが横から口を挟んだ。

「その本、とうとう目ぇ覚ましやがった」

「何でぷ?」

私は《幻獣種召喚の本》を取り出した。

濃紺の表紙には、戦いの前までは存在しなかった青い紋章が刻まれている。

【幻獣登録】

【シャイニー&アクア・リヴァイアス】

【1/6】

王様も、三兄弟も一斉に目を見開いた。

「まさか……幻獣を召喚したのでぷか?」

「うん。《人魚の旋律》と本が光って……シャイニーさんと水竜が助けてくれたの」

「きゅーう! 大きかった!」

メリーが両手を思い切り広げる。

「それじゃ全然伝わらないよ」

「すっごーく大きかった!」

「大きさ増やしただけ!」

王様はそんな私たちを見て僅かに笑ったあと、改めて召喚本を見つめた。

「伝承にしか残っていない幻獣種……。まさか本当に、その力を呼び覚ます者が現れるとは驚きでぷ」

私は本を胸へ抱く。

でも、強くなれた嬉しさよりも――今はシャイニーさんが残してくれた言葉の方が、ずっと心に残っていた。

――旅の途中で差し伸べた手は、いつか別の形となって戻ってくる。

「私一人の力じゃないです」

「……うむ」

王様は静かに笑った。

「だからこそ、その本は君に応えたのかもしれないでぷな」

◇ ◇ ◇

その後、王宮の治療師さんたちに傷を診てもらった。

チェックのお兄ちゃんも白銀のお兄ちゃんも、かなり傷ついてはいたものの命に別状はないらしい。

ようやく安心して少し休んだあと。

三兄弟が、揃って私の前へ並んだ。

ピンク。

チェック。

白銀。

「フールちゃん」

チェックのお兄ちゃんが、一歩前へ出る。

その手には――。

☆2《知恵の駒》。

「本当なら、次は俺の試練だったのでぷ」

「……うん」

「でも」

チェックのお兄ちゃんは、自分が人質にされていた時のことを思い出すように少し目を伏せた。

「もう試す必要はないのでぷ」

「え?」

「4番は、フールちゃんに二つしか選択肢を与えなかったのでぷ」

仲間を助けるか。

☆5を渡さないか。

どちらかを選べ、と。

「でもフールちゃんは、どっちも選ばなかったのでぷ」

私は黙って続きを聞いた。

「仲間も助ける。秘宝も守る。そのための別の手を、最後まで考えたのでぷ」

チェックのお兄ちゃんが笑う。

「知恵っていうのは、用意された答えの中から一つを選ぶことじゃないのでぷ」

《知恵の駒》を持ち上げた。

「答えそのものを、自分で作ることなのでぷ」

その言葉が、まっすぐ胸へ届いた。

「だから――俺の試練は合格でぷ」

「チェックのお兄ちゃん……」

「俺からもでぷ」

今度は白銀のお兄ちゃんが前へ出る。

両手には――☆2《聖なる聖杯》。

「本来なら、最後に俺の試練が待っていたのでぷ」

「でも、白銀のお兄ちゃんの試練はまだ何も――」

「受けたでぷよ」

「え?」

白銀のお兄ちゃんは、優しく笑った。

「傷だらけの俺を見ても、チェックが捕まったと聞いても……フールちゃんは一度も『秘宝が欲しいから助ける』なんて言わなかったのでぷ」

私は黙った。

だって。

そんなこと――考えもしなかった。

「試練なんてどうでもいい。チェックを助けるって、真っ先に言ってくれたのでぷ」

白銀のお兄ちゃんは、胸元へ《聖なる聖杯》を抱く。

「聖杯が認めるのは、力だけじゃないのでぷ。何の見返りもなく、誰かのために立てる心。その答えも、もう見せてもらったのでぷ」

そして最後に、ピンクのお兄ちゃんが前へ出た。

その指には、戦いの時に一度私が返した――☆2《慈愛のリング》。

「これは、元々フールちゃんが第一試練で勝ち取った物でぷ」

「……うん」

「だから、返すのでぷ」

ピンクのお兄ちゃんがリングを差し出す。

同時に。

チェックのお兄ちゃんも《知恵の駒》を。

白銀のお兄ちゃんも《聖なる聖杯》を。

三つの☆2が、私の目の前へ並んだ。

「受け取ってほしいのでぷ」

「フールちゃんなら、絶対に正しく使えるのでぷ」

「弟たちも、きっとそう言うのでぷ」

《聖なるマップ》が光った。

三つの☆2。

全部が目の前にある。

これを手に入れれば、旅はもっと楽になるかもしれない。

強くなれる。

お父さんとお母さんへだって、もっと早く辿り着けるかもしれない。

私は三つの秘宝を、じっと見つめた。

そして――。

「……いらない」

「でぷ?」

三匹が同時に固まった。

「ええええええええっ!?」

「なんででぷか!?」

「☆2でぷよ!?」

「三つもでぷよ!?」

オラクルまで驚いている。

「おい、お嬢。《慈愛のリング》は一回ちゃんと勝ち取ったんだぞ?」

「分かってる」

「なら貰っとけよ。売ったら――」

私は睨んだ。

「売らないよ?」

「……冗談だ」

「目がお金だったよ」

オラクルは口笛を吹きながら顔を逸らした。

◇ ◇ ◇

私は三兄弟へ向き直る。

「本当にありがとう」

そして。

ピンクのお兄ちゃんが差し出していた《慈愛のリング》を、そっと押し返した。

「でも、これはみんなが持ってて」

「どうしてでぷ?」

「だって……」

三匹を見る。

その姿へ。

どうしても、別の三匹が重なって見えた。

赤。

緑。

黄色。

私が、この世界で最初に出会った三匹。

「あの子たちも、守護者だったんだよね」

三匹の表情が変わる。

「赤の子も。緑の子も。黄色の子も」

私は笑った。

「最後まで、私を守ってくれた」

今でも寂しい。

会いたい。

でも。

その想いは、もう悲しみだけじゃない。

「だから、お兄ちゃんたちには……あの三人の分まで、この国を守ってほしい」

私は《知恵の駒》を見る。

《聖なる聖杯》を見る。

そして。

《慈愛のリング》。

「そのために手に入れた力なんでしょう?」

三匹は何も言わなかった。

「私が持っていったら、ゴブリン王国を守る力が減っちゃう」

チェックのお兄ちゃんが俯く。

白銀のお兄ちゃんも。

ピンクのお兄ちゃんも。

「私は大丈夫」

鞄を軽く叩く。

「☆5の本もある」

肩を見る。

「メリーもいる」

「いる!」

隣を見る。

「オラクルも」

「ついでみたいに言うな」

「それに」

私は胸へ手を当てた。

「これから先も、旅をしながら自分で力を見つけていく」

だから。

「三つの秘宝は、この国に残して」

玉座の間が静まり返った。

やがて。

ピンクのお兄ちゃんの目から、大粒の涙がぽろっと落ちた。

「フールちゃん……」

「泣かないでよ!」

「だってぇ……!」

「うわっ!」

三匹が一斉に飛びついてきた。

「ありがとうでぷぅぅぅ!」

「フールちゃぁぁぁん!」

「絶対忘れないでぷぅぅぅ!」

「苦しい! 三人同時は苦しい!」

そこへメリーまで飛び込んでくる。

「メリーも!」

「増えたぁ!」

少し離れた場所ではオラクルが笑っていた。

王様も、そっと目元を拭っている。

「……素晴らしい」

やがて王様が静かに言った。

「本当に、心優しいお嬢さんでぷ」

「そんな……」

「いや。だからこそ――」

王様は少し考えてから、玉座の奥へ歩いていった。

「少し待っているのでぷ」

壁へ手を当てる。

ゴゴゴゴ……。

石壁が動き、隠し扉が現れた。

「秘密の部屋!?」

オラクルの目が輝く。

「行くなよ」

「まだ何もしてねぇ!」

しばらくして。

王様が戻ってきた。

両手には、一つの聖杯がある。

白銀のお兄ちゃんが持っている物とは違う。

古びた銀色。

表面には、三つの円が重なった不思議な紋章が刻まれていた。

「フールちゃん」

「はい」

王様が、私へ聖杯を差し出す。

「息子たちの秘宝を持ち去らず、この国へ残すと言ってくれた君へ――これを託したいのでぷ」

聖杯が、私の手へ渡される。

ずしり。

思ったより重い。

【ITEM GET】

【合成の聖杯】

「合成……?」

「その聖杯は、二つ、あるいは三つまでの品を一つへ融合させることができるのでぷ」

「ええっ!?」

オラクルがすぐに食いついた。

「宝と宝を混ぜたら、もっと高い宝になるのか!?」

「お前に渡したのではないでぷ」

「分かってるよ!」

王様は笑ったあと、聖杯の紋章を指差した。

「ただし、万能ではないのでぷ。必要なのは素材同士の相性。そして……運でぷ」

「運?」

嫌な予感がした。

「必ず成功するとは限らないのでぷ」

「えっ」

「むしろ、失敗する方が多いのでぷ」

「ええっ!?」

王様は指を折りながら説明を続けた。

「結果は、合成した時に上がる煙で分かるのでぷ」

黒――超失敗。

灰――大失敗。

青――失敗。

赤――成功。

金――大成功。

そして。

「虹色が出れば――《超成功》でぷ」

「虹色……!」

「滅多に見ることはできないでぷがな」

オラクルが《合成の聖杯》を凝視している。

「お嬢」

「ダメだよ」

「まだ何も言ってねぇ!」

「絶対『試そうぜ』って言うと思った」

「……なんで分かった」

「顔」

王様の表情が、少しだけ真剣になる。

「よいか、フールちゃん」

「はい」

「珍しい素材を、面白半分で入れてはならないでぷ」

「……はい」

「☆付きの秘宝など、なおさらでぷ」

「はい!」

「本当に分かったのでぷか?」

「分かりました!」

メリーが、じっと私を見る。

「絶対やる顔」

「やらないよ!」

「お嬢、俺もそう思う」

「オラクルまで!?」

王様の笑い声が、玉座の間へ響いた。

◇ ◇ ◇

私は《合成の聖杯》を大切に鞄へしまった。

三つの☆付き秘宝は、手に入らなかった。

いや。

違う。

手に入れなかった。

それなのに、不思議と少しも惜しくなかった。

ピンク。

チェック。

白銀。

三匹があの秘宝を持って、この国を守ってくれる。

そう思うと。

その方が、ずっと嬉しかった。

そして。

ゴブリン王国で手に入れた一番大きなものは――きっとアイテムなんかじゃない。

私は三匹のお兄ちゃんたちを見た。

今度こそ。

笑顔で。

「また来るね」

「絶対でぷ!」

「次はちゃんと俺の試練をやるのでぷ!」

「その時までに、もっと難しくしておくでぷ!」

「難しくしなくていいよ!」

みんなが笑った。

赤。

緑。

黄色。

あなたたちのお兄ちゃんたちは。

今日も、この国を守ってるよ。

私は心の中で、三匹へそっとそう伝えた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

今回は、ゴブリン王国編で大切にしたかった「秘宝を集めることだけが冒険ではない」という回でした。

チェックは、フールがTIME No.4の用意した二択そのものを覆したことで『知恵』を認め、白銀もまた見返りを求めず救出へ向かった心を認めます。

その結果、三兄弟は『慈愛のリング』『知恵の駒』『聖なる聖杯』をフールへ託そうとします。

しかしフールは――受け取りませんでした。

亡くなった赤・緑・黄色の三兄弟の分まで、兄たちにゴブリン王国を守り続けてほしいから。

そして、その選択を見た王様から新しく託されたのが――『合成の聖杯』。

最大三つの素材を融合できますが、結果は成功だけではありません。

黒、灰、青、赤、金――そして最高の虹色。

かなり危険なアイテムを手に入れてしまいました。

……フール、本当に「面白半分では使わない」という約束を守れるのでしょうか。

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