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『フールの大冒険 ~本の世界に消えた両親を探していたら、聖なるマップに選ばれました~』  作者: ☆☆アダム☆☆


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第42話 幻獣種――シャイニー

青い光が、白黒の盤上を一瞬で塗り潰した。

眩しいはずなのに、不思議と目を閉じたいとは思わない。海の底へ差し込む太陽のような、冷たさと優しさを同時に感じる光だった。

「なんだ……これは……!」

TIME No.4が腕で顔を覆いながら後ずさる。あれほど暴れ回っていた大悪魔まで攻撃を止め、警戒するように低い唸り声を響かせた。

「フール! その本だ!」

オラクルの声に、私は自分の手元を見た。

左手には☆5《幻獣種召喚の本》。そして右手には、かつて海底都市リーリエで手に入れた《人魚の旋律》。

二つの秘宝が、まったく同じ青い光を放っていた。

「これが……固有の鍵……?」

私が呟いた瞬間、《幻獣種召喚の本》がひとりでに開いた。

ページが激しい勢いでめくれていき、やがて一枚の真っ白なページで止まる。そこへ水滴が落ちて染み込んでいくように、青い文字が浮かび上がった。

【固有の鍵を確認】

【《人魚の旋律》】

【縁――成立】

【幻獣種召喚を開始します】

「召喚……!」

直後、迷宮の床から凄まじい量の水が噴き上がった。

ザァァァァァァン――!!

「きゃっ!」

私は思わず腕で顔を覆った。

ところが、降り注ぐ水は服を濡らさない。確かに触れれば冷たいのに、光と水の中間のような不思議な感触を残して、そのまま身体をすり抜けていった。

噴き上がった大量の水は、盤上の中央で巨大な渦となって回り始める。

「何を呼び出すつもりだ、小娘……!」

No.4の声には、さっきまでなかった焦りが混じっていた。

渦がさらに膨れ上がる。

ゴオオオオオオ――!!

やがて、その中心から巨大な何かがゆっくりと姿を現した。

「……竜?」

私は息を忘れて見上げた。

透き通るような青い鱗は、一枚一枚が宝石のように輝いている。長大な身体には鋭い角が並び、背中に広がった巨大な翼は、水そのものが形を持ったように揺らめいていた。

恐ろしいほど大きい。

なのに、怖いより先に――綺麗だと思った。

「きゅーう……」

メリーも口を開けたまま、その姿を見上げている。

水竜が完全に姿を現したところで、私はもう一つの存在に気づいた。

「上に……誰かいる」

青い水竜の背。

大きな角のそばに、一人の女性が静かに腰を下ろしていた。

長く美しい髪に、光を受けてきらめく鱗。そして腰から下には、優雅に揺れる大きな尾ヒレがある。

人魚。

けれど、リーリエで出会った人魚たちとは明らかに違った。

その姿を見ているだけで、自然と一つの言葉が頭へ浮かぶ。

――女王。

女性はゆっくりと目を開き、透き通る青い瞳で真っ直ぐ私を見つめた。

「――水底に残された旋律に導かれ、参りました」

鈴を鳴らしたような澄んだ声が、迷宮全体へ響き渡る。

青い水竜が静かに頭を垂れた。

「我が名は、シャイニー」

その名が告げられた瞬間、私の手の中で《幻獣種召喚の本》が強く輝いた。

【PHANTOM BEAST AWAKENED】

【幻獣種――シャイニー】

【眷属――水竜アクア・リヴァイアス】

「シャイニー……」

名前を口にすると、シャイニーさんは穏やかに微笑んだ。

「本を携えし、小さき主よ」

「主……?」

そんなふうに呼ばれるとは思っていなくて、私は目を丸くする。

シャイニーさんは私の右手にある《人魚の旋律》へ視線を向けた。

「あなたの歩んだ旅路が、私へ届きました。あなたはかつて水の民と縁を結び、その旋律を未来へ繋いだ」

海底都市リーリエ。

そこで出会った人たちや、精霊たちとの出来事が次々と胸へ蘇ってくる。

「あの時のことが……?」

「はい。その縁が今、私の魂を呼び覚ましたのです」

私は《幻獣種召喚の本》を見つめた。

ただ秘宝を拾ったから使えたわけじゃない。

あの場所へ行って、誰かと出会い、一緒に悩んで、助け合った。その全部が、今ここへ繋がっている。

胸の奥が熱くなる。

「フール!」

感動に浸りかけた私を、オラクルの叫びが現実へ引き戻した。

「感動するのは後だ! 来るぞ!」

「えっ!?」

大悪魔が動いた。

「グオオオオオオッ!!」

巨大な拳が振り上げられ、真っ直ぐ私たちへ落ちてくる。

「危ない!」

ピンク、チェック、白銀のお兄ちゃんたちが結界を張ろうとする。

けれど――。

「その必要はありません」

シャイニーさんが静かに片手を上げた。

同時に、水竜アクア・リヴァイアスの瞳が青く光る。

ズンッ!!

巨大な身体が動いた。

あれほど大きいのに、速すぎて一瞬姿を見失う。

大悪魔の拳が振り下ろされる寸前、アクア・リヴァイアスの巨大な尾が横から叩き込まれた。

ドゴォォォォォン!!

「グアァァァッ!?」

大悪魔の巨体が、まるで小さな人形のように吹き飛んだ。

そのまま迷宮の壁へ激突し、衝撃で巨大な盤上全体が激しく揺れる。

「……」

誰もすぐには言葉が出なかった。

隣でオラクルが、ぽつりと呟く。

「……反則だろ、あれ」

「私もそう思う……」

正直、同感だった。

No.4も目の前の光景を信じられないようで、完全に顔を引きつらせている。

「ば、馬鹿な……! たった今召喚したばかりだぞ! なぜ、これほどの力が……!」

シャイニーさんの青い瞳が、静かにNo.4を見下ろす。

「力とは、所有した瞬間に生まれるものではありません」

「何……?」

「縁によって繋がり、想いによって応えるものです」

シャイニーさんは、アクア・リヴァイアスの頭を優しく撫でた。

「この子は、それを既に持っています」

その言葉を聞きながら、私は胸元を押さえた。

私は、急に強くなったわけじゃない。

旅の中で何度も誰かに助けてもらい、出会った人たちとの繋がりを大切にしてきた。

それが今、私を助ける力になって戻ってきたんだ。

「ふざけるな……!」

No.4が怒りに顔を歪め、魔導書を開いた。

「ならば、もう一度――」

「させねぇよ!」

オラクルが駆け出した。

短剣が一直線に飛ぶ。

ヒュンッ!

「チッ!」

No.4が咄嗟に身体を逸らす。

そのせいで魔導書への集中が途切れた。

「今だ、お嬢!」

「シャイニーさん!」

私は《幻獣種召喚の本》を強く抱き締める。

吹き飛ばされた大悪魔が、再び身体を起こそうとしていた。全身から黒い魔力を噴き出し、怒り狂ったようにこちらを睨んでいる。

「お願い!」

私は声の限り叫んだ。

「みんなを――助けて!」

シャイニーさんは、迷いなく深く頷いた。

「承知しました。我が主」

そして右手を、ゆっくり天へ掲げる。

「我が主を脅かす闇に――永久の眠りを」

それまで盤上を流れていた水が、一斉に浮かび上がった。

一滴。

十滴。

百滴。

千。

数えることさえできないほどの水が頭上へ集まり、やがて迷宮の天井いっぱいに巨大な海を作り出していく。

「な……」

No.4の声が震えた。

「なんだ、この水の量は……!」

チェックのお兄ちゃんも目を見開く。

「ここ……迷宮の中でぷよ……?」

「海ができてるでぷ……」

白銀のお兄ちゃんまで呆然としている。

「とんでもない奴を呼び出したでぷー!」

ピンクのお兄ちゃんの叫びに、私も反論できなかった。

青い光の中で、シャイニーさんの長い髪が静かに揺れる。

「――清らかなる濁流よ」

アクア・リヴァイアスが天へ向かい、咆哮した。

「すべての穢れを、洗い流しなさい」

次の瞬間。

天井を覆っていた巨大な海が――落ちた。

「――《アビス・ジャッジメント》」

ゴオオオオオオオオオオオッ!!

「うわああっ!」

オラクルが私を抱えて、その場へ伏せる。

ピンク、チェック、白銀のお兄ちゃんたちも互いの身体を支え合いながら衝撃に耐えていた。

凄まじい大激流が、巨大な大悪魔を一瞬で飲み込む。

「グオオオオオオオッ!!」

大悪魔は必死に暴れ、濁流から抜け出そうとする。

けれど、水はまったく止まらない。

「馬鹿な……! 私の大悪魔が……!」

No.4がもう一度魔導書を開こうとする。

その足元へも水が押し寄せた。

「くっ……!」

「逃がさない!」

私は叫んだ。

「シャイニーさん!」

「はい」

アクア・リヴァイアスが巨大な口を開く。

その口元へ、目も眩むほどの水の光が集まっていく。

「深海の裁きを」

ドォォォォォォォン!!

凝縮された水の砲撃が、大悪魔へ真正面から直撃した。

「グギャアアアアアアッ!!」

黒い巨体へ亀裂が走る。

一本の亀裂は全身へ一気に広がり、その隙間から青い光が溢れ出した。

そして――。

バァァァァン!!

大悪魔の身体が、無数の黒い粒子となって砕け散った。

「そ、そんな……」

No.4の顔が、初めて明確な恐怖に歪む。

「☆5……これが……!」

激流は止まらない。

今度は、そのままNo.4本人へ迫っていく。

「覚えていろ、小娘!」

No.4は魔導書を強く胸へ抱えた。

水の光に照らされ、左手の甲に刻まれた【4】がはっきりと見える。

「TIMEを敵に回したことを――必ず後悔させてやる!」

男の身体を黒い霧が包み込んだ。

次の瞬間、激流がその場所を完全に飲み込む。

「……!」

水が通り過ぎたあと。

そこには、もう誰もいなかった。

「逃げた……?」

私が尋ねると、オラクルはゆっくり立ち上がった。

「たぶんな」

「追える?」

「今は無理だ」

オラクルは荒れ果てた盤上を見回す。

崩れかけた《知恵の迷宮》。

傷だらけの三兄弟。

疲れ切ったメリー。

私だって、足にほとんど力が残っていない。

「こっちも限界だ」

「……うん」

No.4は倒せなかった。

それでも。

チェックのお兄ちゃんは助けられた。

全員、生きている。

今は――それで十分だった。

◇ ◇ ◇

「フールちゃん!」

ピンクのお兄ちゃんが駆け寄ってきた。

「凄かったでぷ!」

その後ろから、チェックのお兄ちゃんが疲れ果てたように座り込む。

「俺……本気で死ぬと思ったでぷ……」

白銀のお兄ちゃんも、その隣へへたり込んだ。

「俺は三回くらい死ぬと思ったでぷ」

「三回!?」

思わず聞き返す。

「最初と、大悪魔が出た時と、水が落ちてきた時でぷ」

「最後は味方だよ!」

「味方でも怖かったでぷ!」

オラクルが吹き出した。

「それは分かる」

「オラクルまで!」

気づけば、みんなで笑っていた。

ほんの少し前まで。

本当に誰かが死んでもおかしくない戦いだった。

だからこそ――今、全員の笑い声が聞こえていることが、たまらなく嬉しかった。

「フール」

メリーがふらふらと私の肩へ飛んでくる。

「疲れた」

「お疲れさま」

私は小さな身体を両手で抱きしめた。

「メリーがいなかったら、チェックのお兄ちゃんを助けられなかったよ。ありがとう」

「もっと褒めて」

「えらいえらい」

「もっと」

「すっごくえらい!」

「きゅーう!」

ようやく満足したらしい。

「小さき主」

今度は、シャイニーさんの声が聞こえた。

振り返る。

アクア・リヴァイアスの背に立つシャイニーさんの身体が、少しずつ青い光へ変わり始めていた。

「帰っちゃうの?」

「はい」

「もっとお話したかったな」

「いずれ、また」

シャイニーさんは優しく微笑んだ。

「あなたがこの本と共に旅を続けるなら、私たちは何度でも出会うでしょう」

「私たち?」

「幻獣は、私だけではありません」

私は目を大きく見開いた。

シャイニーさんの視線が、《幻獣種召喚の本》へ向けられる。

「世界には今も、眠り続けている者たちがいます」

その言葉と同時に、本の白いページの奥へ、いくつもの影が一瞬だけ浮かんだ。

巨大な翼。

鋭い角。

四足の獣。

長い蛇のような身体。

どれも一瞬で消えてしまい、正体までは分からなかった。

「それぞれに、魂を呼び覚ます鍵が存在します」

「鍵……」

「それは時に宝であり――」

シャイニーさんが、今度は私を見る。

「時に、あなたが誰かと結んだ縁、そのものでもあります」

胸の奥が、じんわりと熱くなる。

「忘れないでください」

青い光がさらに強くなっていく。

「あなたが旅の途中で差し伸べた手は、いつか必ず、別の形となってあなたへ戻ってきます」

赤。

緑。

黄色。

オラクル。

メリー。

リーリエで出会った人たち。

これまで旅の中で出会ってきた、たくさんの人の顔が浮かんだ。

どれも。

全部。

私の旅の一部なんだ。

「うん」

私は笑った。

「忘れない」

シャイニーさんが満足そうに頷く。

「では、またお会いしましょう」

アクア・リヴァイアスが静かに吠えた。

二人の身体が無数の青い光へと変わり、《幻獣種召喚の本》へ吸い込まれていく。

やがて最後の光が消えると――。

パタン。

本が静かに閉じた。

その表紙には、今まで存在しなかった青い紋章が一つ刻まれている。

【幻獣登録】

【シャイニー&アクア・リヴァイアス】

【1/6】

「……六?」

私は表示を見つめた。

一つ目。

ということは、この本の中には――まだ五つの眠った力が残されている。

「フールちゃん」

ピンクのお兄ちゃんに呼ばれ、私は顔を上げた。

「王宮へ戻るでぷ」

「うん」

チェックのお兄ちゃんを助けられたこと。

TIME No.4のこと。

そして初めて目覚めた幻獣、シャイニーとアクア・リヴァイアス。

王様へ話さなければならないことは山ほどある。

私は《幻獣種召喚の本》を大切に鞄へ戻した。

そして。

ピンク、チェック、白銀のお兄ちゃん。

メリー。

オラクル。

誰一人欠けることなく。

崩れかけた《知恵の迷宮》を、みんなで歩き始めた。

第二の守護者試練は――結局、最後まで行われなかった。

でも。

この時の私はまだ知らなかった。

王宮へ戻ったあと。

チェックのお兄ちゃんが、試練よりずっと大切な「答え」を私に出すことになるなんて。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

ついに『☆5:幻獣種召喚の本』が初めて本当の力を発揮しました。

召喚されたのは、人魚の女王シャイニーと、その眷属である水竜アクア・リヴァイアス。

召喚の鍵になったのは、以前の冒険で手に入れた『人魚の旋律』でした。

この作品では、昔手に入れたアイテムや誰かとの出会いが、その場だけで終わるのではなく、後の旅で別の意味を持って帰ってくるようにしていきます。

そして召喚本に表示された――【1/6】。

シャイニー以外にも、まだ眠っている幻獣が存在します。

一方、TIME No.4は大悪魔を失いながらも撤退。

次回は王宮へ帰還し、チェック救出後の結末へ。

そしてフールは、残る『知恵の駒』『聖なる聖杯』をどうするのか――。

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