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『フールの大冒険 ~本の世界に消えた両親を探していたら、聖なるマップに選ばれました~』  作者: ☆☆アダム☆☆


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第40話 宴の終わり、TIMEの4番

「フールちゃーん!」

「優勝おめでとうでぷー!」

「メリーちゃんもすごかったでぷー!」

サーキットの熱気は、夜になってもまったく冷めていなかった。

王国の大広場には長いテーブルが何十本も並び、その上には焼きたての肉、山盛りの果物、香ばしいパン、それに見たこともない料理が所狭しと置かれている。

そして、その隣には――。

「……多すぎない?」

私は目の前に並ぶ大量のひょうたんを見つめた。

全部、同じ文字が書かれている。

『俺とお前と鬼殺し』

「いやぁ、最高じゃねぇか」

オラクルの目が輝いた。

「最高じゃないよ! 何本あるのこれ!?」

「数えるだけ野暮ってもんだ」

「兄貴! こっちにも鬼殺しあるでぷ!」

カジノからずっとついてきている舎弟ゴブリンが、両手にひょうたんを抱えて走ってくる。

「気が利くじゃねぇか!」

「兄貴のためなら何本でも持ってくるでぷ!」

「お前、やっぱ使えるな」

「ついに認めてもらえたでぷぅぅぅ!」

「そこまでは言ってねぇ」

もう完全に仲良しじゃない。

私は呆れながらも笑ってしまった。

肩に乗ったメリーも、木の実のジュースが入った小さなコップを両手で持っている。

「かんぱーい!」

「メリー、それ何杯目?」

「五杯!」

「飲みすぎ!」

「ジュース!」

「それでもお腹いっぱいになるでしょ!」

周りではゴブリンたちが歌い、踊り、大騒ぎ。

さっきまで命懸けで走っていたサーキットが嘘みたいだった。

私は左手を持ち上げる。

指には、淡い桃色の光を宿したリング。

【☆2 慈愛のリング】

第一の試練を乗り越えて手に入れた、最初の守護者の秘宝。

「……本当に貰ったんだ」

何度見ても、不思議な感じがする。

「似合ってるでぷよ!」

声に振り返ると、ピンクのお兄ちゃんが大きな肉の串を持って立っていた。

「お兄ちゃん!」

「負けたのは悔しいでぷけど、あんな走りを見せられたら文句なしでぷ!」

「でも私、一人じゃ絶対勝てなかったよ」

私はオラクルとメリーを見る。

メリーはジュースを飲みながら胸を張った。

オラクルは酒を片手に肩をすくめる。

「そりゃそうだ。半分くらい俺のおかげだからな」

「半分は多すぎ!」

「じゃあ四割」

「まだ多い!」

「三割五分」

「細かい!」

ピンクのお兄ちゃんが笑った。

「仲がいいのでぷね」

その言葉に。

一瞬だけ。

赤、緑、黄色の三匹を思い出した。

もしあの子たちもここにいたら。

きっと一緒に騒いで。

いっぱい食べて。

「フールちゃん?」

「あ……ううん」

私はリングをそっと撫でた。

寂しくないわけじゃない。

でも。

今日だけは。

三匹もどこかで一緒に笑ってくれているような気がした。

「次はチェックのお兄ちゃんの試練だよね?」

「そうでぷ!」

ピンクが頷く。

「第二の試練は、俺のサーキットより頭を使うでぷよ」

オラクルの耳が動いた。

「頭?」

「チェックは六兄弟で一番の知恵者でぷ」

「ふーん」

オラクルが得意そうに酒を置く。

「なら俺の出番だな」

「なんで?」

「泥棒ってのは頭が良くなきゃ務まらねぇんだよ」

「王宮で賄賂渡そうとして捕まった人が?」

「それは忘れろ」

「忘れないよ」

「一生言う気か!?」

私たちが笑った、その時だった。

――バンッ!!

宴会場の大扉が、激しい音を立てて開いた。

音楽が止まる。

笑い声も。

歌声も。

一瞬で消えた。

「……え?」

入口。

一匹のゴブリンが立っていた。

白銀の服。

でも。

さっき王宮で見た時の美しい姿とは、まるで違う。

服は裂け。

身体中に傷。

片腕から血を流し。

『☆2 聖なる聖杯』を落とさないよう、必死に胸へ抱えている。

「白銀!?」

ピンクのお兄ちゃんが駆け出した。

「どうしたのでぷ!?」

白銀のお兄ちゃんは答えようとする。

でも。

息が続かない。

「はぁ……っ、はぁ……!」

私はすぐに駆け寄った。

「座って! 無理に喋らなくていいから!」

「いや……時間が……ないのでぷ……」

白銀のお兄ちゃんが、私の腕を掴んだ。

力はほとんど残っていない。

なのに。

その手だけは震えるほど強かった。

「チェックが……」

ピンクのお兄ちゃんの顔から血の気が引いた。

「チェックがどうしたのでぷ!?」

「襲われた……のでぷ……!」

ざわっ。

広場中が騒然となる。

私は息を呑んだ。

「誰に?」

「分からないでぷ……。でも……黒い服……」

ドクン。

心臓が大きく鳴った。

黒い服。

その言葉だけで。

嫌な顔が浮かぶ。

TIME。

オラクルも笑顔を消していた。

「続けろ」

白銀のお兄ちゃんが苦しそうに息を整える。

「俺とチェックは……次の試練場で、フールちゃんたちのレースを大画面で見てたのでぷ」

「次の試練場?」

「チェックの……『知恵の駒』の試練場でぷ……」

白銀のお兄ちゃんの声が震える。

「突然……何もないところから黒い奴が現れたのでぷ」

空間から。

現れた。

「二人で戦ったのでぷ。でも……」

ぎゅっ。

聖杯を握る手に力が入る。

「強すぎた……!」

ピンクのお兄ちゃんが息を呑む。

「チェックは?」

「捕まったのでぷ!」

白銀の目から涙が溢れた。

「俺を逃がすために、チェックが自分から敵を引きつけたのでぷ……!」

「そんな……」

「お願いでぷ」

白銀のお兄ちゃんが、私を見た。

「助けて……」

涙が落ちる。

「チェックを助けてほしいのでぷ!」

ピンクのお兄ちゃんも膝をついた。

「フールちゃん……!」

私はすぐに二人の肩へ手を置いた。

「行くよ」

「……!」

「試練とか、秘宝とか、そんなの今はどうでもいい」

私は立ち上がる。

「チェックのお兄ちゃんを助けよう」

メリーが肩から飛び上がった。

「行く!」

オラクルも酒の入ったひょうたんをテーブルへ置いた。

「ったく」

「オラクル?」

「せっかく美味い酒が出てきたところだってのによ」

そう言いながら。

腰の短剣を確認する。

「TIMEの野郎は、空気読めねぇ奴しかいねぇな」

私は笑った。

「一緒に来てくれる?」

「聞く必要あるか?」

オラクルは私の横へ並ぶ。

「仲間が攫われたんだろ」

ピンクのお兄ちゃんが涙を拭った。

「ありがとうでぷ……!」

「礼は助けてからだ」

その時。

白銀のお兄ちゃんがふらついた。

「白銀!」

ピンクが支える。

「お前は休んでるでぷ!」

「嫌でぷ!」

「その身体じゃ――」

「チェックは俺を逃がすために残ったのでぷ!」

白銀はピンクの腕を振り払った。

足は震えている。

それでも。

立った。

「俺だけ安全なところで待ってなんていられないのでぷ!」

兄弟。

その言葉を聞いて。

私は止められなかった。

「……分かった」

私は白銀のお兄ちゃんを見る。

「でも無理はしないで。危なくなったら絶対下がって」

「約束するでぷ」

オラクルが私を見る。

「お嬢」

「うん」

私はカバンを確認した。

『☆3 真実のカード』

『人魚の旋律』

そして。

今日手に入れた『☆2 慈愛のリング』。

さらに――。

カジノで交換した。

『☆5 幻獣種召喚の本』

まだ。

この本の本当の使い方は分かっていない。

だけど。

なぜか。

さっきから。

本の中で何かが微かに脈打っているような気がした。

宴を飛び出し。

私たちは王国の北側へ走った。

先頭は白銀。

その横をピンクが支えている。

私、メリー、オラクルが続く。

やがて。

巨大な建物が見えてきた。

サーキット場とは全く違う。

白。

黒。

その二色だけで造られた、不気味な建造物。

「ここが……チェックのお兄ちゃんの試練場?」

白銀が頷く。

「『知恵の迷宮』でぷ」

入口には。

巨大な駒が二つ。

片方には『歩』。

もう片方には『金』。

オラクルが眉をひそめる。

「駒?」

「チェックの試練は、巨大な盤上迷宮を突破する試練でぷ」

その時だった。

ゴゴゴゴゴ……。

巨大な『歩』が。

動いた。

「え?」

ズン!

私たちの前へ踏み出す。

さらに。

奥から次々と駒が動き始めた。

『香』

『桂』

『銀』

巨大な駒たちが通路を塞ぐ。

「ちょっと待って!」

私は白銀を見る。

「試練ってもう始まってるの!?」

「違うでぷ!」

白銀の顔が青ざめる。

「本来なら、挑戦者が入るまで駒は動かないのでぷ!」

「じゃあ……」

オラクルが短剣を抜いた。

「誰かが勝手に動かしてるってことだな」

ガンッ!!

巨大な『歩』が私たちへ突進した。

「来るよ!」

私は横へ跳ぶ。

ドゴォォン!!

床が砕ける。

「メリー!」

「きゅーう!」

メリーの炎。

ゴオオオッ!

駒へ直撃。

でも。

「効いてない!」

表面が少し焦げただけ。

オラクルが叫ぶ。

「壊そうとすんな! こいつらには動き方の規則がある!」

「規則?」

オラクルが巨大な盤面を見る。

「駒だろ! だったら動ける方向が決まってる!」

前方。

『桂』。

オラクルの目が細くなる。

「次、斜め前に跳ぶぞ!」

「え?」

駒が跳んだ。

ドンッ!!

「本当だ!」

「動きを読め! 戦う必要はねぇ!」

ピンクが叫ぶ。

「さすがでぷ!」

「頭脳試練なら任せろ!」

「王宮で捕まったくせに!」

「今それ言うな!」

私たちは駒の動きを見ながら。

走る。

避ける。

時には戻り。

時には一気に前へ。

巨大迷宮を進んでいく。

だけど。

進めば進むほど。

空気が冷たくなった。

そして。

紫色の魔力。

「……この感じ」

メリーが震えた。

私にも分かる。

誰かいる。

強い。

TIME No.1とは。

比べものにならない。

「近いぞ」

オラクルの声も低い。

最後の通路。

その先から。

微かな呻き声。

「う……」

白銀の耳が動いた。

「チェック!」

全員が走った。

「チェックーーーっ!!」

広い空間へ飛び込む。

床一面。

巨大な白黒の盤。

その中央。

巨大な――『王将』。

「……っ!」

私は足を止めた。

王将の駒へ。

一匹のゴブリンが縛りつけられている。

チェック柄の服。

頭を垂れ。

ぐったりしている。

「チェック!!」

ピンクが駆け出そうとした。

「待て!」

オラクルが腕を伸ばして止める。

その瞬間。

チェックのお兄ちゃんの首元へ。

黒い刃が現れた。

「動くな」

低い声。

王将の影。

そこから。

一人の男が歩いてきた。

黒い衣服。

手には、禍々しい紫色の魔導書。

そして。

左手の甲。

そこに刻まれていた数字を見た瞬間。

私の背筋が凍った。

『4』

「TIME……」

私が呟く。

男は私を見る。

いや。

正確には。

私のカバンを。

「ようやく来たか」

口元が歪む。

「聖なるマップを持つ小娘」

オラクルが私の前へ出た。

「ずいぶん趣味の悪い歓迎だな」

「猫か」

男は興味なさそうにオラクルを見る。

そして。

もう一度。

私へ視線を戻した。

「持っているのだろう?」

「……何を?」

分かっていた。

でも。

訊いた。

4番の男が笑う。

「とぼけるな」

紫色の魔導書から闇が伸びる。

刃となって。

チェックのお兄ちゃんの首へ触れた。

「この国の最高峰の秘宝――」

私は無意識にカバンを押さえた。

「『☆5 幻獣種召喚の本』を」

男の目が。

欲望に歪む。

「こちらへ渡せ」

「……っ」

「拒めば」

刃が。

ほんの少し。

チェックの首へ食い込む。

血が流れた。

「こいつの首を落とす」

「やめて!!」

私の叫びが。

巨大な盤上に響いた。

4番は。

楽しそうに笑った。

「さあ」

仲間の命。

☆5の秘宝。

二つを天秤にかけるように。

「選べ」

――第二の試練が始まるはずだった盤上で。

私たちは。

もっと最悪な『選択』を突きつけられた

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

サーキット優勝の楽しい宴から一転、白銀の守護者が負傷して帰還。

チェックの第二試練が行われるはずだった『知恵の迷宮』は、すでに何者かに乗っ取られていました。

そして待っていたのは――TIME No.4。

第二試練の舞台だった巨大な盤上迷宮そのものが、そのまま救出戦の舞台へ変わります。

さらにNo.4が要求したのは、フールたちがカジノで手に入れた最高峰の秘宝『☆5 幻獣種召喚の本』。

チェックの命を取るか。

☆5を守るか。

もちろん、フールたちはその二択をそのまま受け入れるような仲間ではありません。

次回、チェック救出戦です。


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