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『フールの大冒険 ~本の世界に消えた両親を探していたら、聖なるマップに選ばれました~』  作者: ☆☆アダム☆☆


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38/70

第38話 慈愛のサーキット

ブオオオオオオオオン!!

「速い速い速い速いーっ!!」

スタートした瞬間、身体がシートへ押しつけられた。

赤いマシンは、私が想像していた何倍もの速度でサーキットを駆け抜けていく。ハンドルを握る手が震え、ちょっと動かしただけで車体が右へ左へ大きく揺れた。

「お嬢! 真っすぐ! まず真っすぐ走れ!」

「やってるよ!」

「やれてねぇ! 壁が近づいてる!」

「壁の方から来てるんだよ!」

「来るわけねぇだろ!」

後部座席では、メリーだけが両手を上げて楽しそうに笑っていた。

「もっと速く!」

「これ以上速くしたら死んじゃう!」

「大丈夫!」

「何を根拠に!?」

その時、右側から桃色のマシンが一気に並んできた。

運転席にはピンク。

片手で余裕そうにハンドルを操作しながら、こちらへ笑っている。

「遅いでぷよー!」

「こっちは今日初めて運転してるの!」

「言い訳禁止でぷ!」

ブオオン!

ピンクのマシンが一気に加速し、私たちを追い抜いていった。

「待てぇぇぇ!」

「フール、前!」

「え?」

巨大スクリーンに次の区間が表示された。

【AREA 1】

【密林地帯】

「うそ……」

スタート地点の整備された道が終わり、目の前には巨大な木々が生い茂るジャングルが広がっていた。

しかも道は細い。

右にも左にも急カーブ。

ところどころ、太い木の根が路面を突き破っている。

「これ本当にサーキットなの!?」

「ゴブリン王国だからな!」

「便利な言葉みたいに使わないで!」

前方では参加者たちのマシンが次々と密林へ突入していく。

一台が根に乗り上げた。

ドンッ!

車体が跳ね上がる。

「ぎゃああああっ!」

そのまま木へ激突。

「今一台壊れたよ!?」

「見んな! 自分の運転に集中しろ!」

私はハンドルを握り直した。

「行くよ!」

「おう!」

「もっと速く!」

「メリーは少し黙ってて!」

赤いマシンが密林へ飛び込んだ。

「右!」

「右!」

「もっと右!」

「右ってどっち!?」

「お前大丈夫か!?」

ギリギリで木をかわす。

次。

急カーブ。

ブレーキを踏む。

――つもりだった。

ブオオオオン!!

「加速したああああっ!」

「それアクセルだぁぁぁ!」

「どっちがブレーキ!?」

「左だって言っただろ!」

「足元見えない!」

マシンがそのままカーブへ突っ込む。

「きゃあああっ!」

ガードレール寸前。

オラクルが助手席からハンドルへ手を伸ばした。

「貸せ!」

「ダメ! 二人で触ったら余計危ない!」

「今が一番危ねぇよ!」

二人でハンドルを回す。

ギャギャギャギャッ!!

タイヤから煙。

車体が横滑りしながらカーブを抜けた。

そのまま反対側へ。

「木!」

「見えてる!」

急いで逆へ。

ギリギリ。

「……生きてる」

「奇跡だな」

後ろを見る。

メリーは両手を叩いていた。

「もう一回!」

「絶対やらない!」

でも。

少しずつ。

分かってきた。

ハンドルを切る量。

アクセル。

ブレーキ。

最初ほど怖くない。

「オラクル」

「あ?」

「私、ちょっと運転上手くなってない?」

「その台詞は最低でも壁にぶつからなくなってから言え」

「まだぶつかってないよ!」

「まだ、な」

嫌な言い方。

その瞬間。

ドン!

車体が跳ねた。

「ほら!」

「木の根は事故に入らない!」

「入る!」

密林地帯を抜ける頃には、順位は九位。

参加台数は十二台だった。

「結構上がった!」

「三台壊れただけだ」

「それ順位上がったって言わないの!?」

前方にはピンク。

現在二位。

一位を走る黒いマシンへぴったり張りついている。

巨大スクリーンには次の区間。

【AREA 2】

【岩山峡谷】

「次、岩山……」

ジャングルを抜けると、一気に景色が変わった。

赤茶色の岩壁。

深い谷。

道は崖沿いを縫うように続いている。

ガードレール?

そんなものはない。

右は壁。

左は――。

「底見えないんだけど」

「見るな」

「見ちゃった」

「じゃあ忘れろ」

無茶を言う。

前方で。

ガンッ!!

一台のマシンが岩壁へぶつかった。

火花。

その衝撃で車体が左へ。

崖の縁。

半分。

はみ出した。

「……!」

乗っているのは小柄なゴブリンだった。

必死に脱出しようとしている。

でも。

ドアが岩に挟まって開かない。

後続車。

一台。

二台。

全員――通り過ぎる。

順位を落としたくないから。

「フール」

オラクルの声が低くなった。

私も分かっていた。

ピンクの言葉。

――誰かを助ければ、自分は遅れる。

――それでも、守るべきものを見捨てずに走り切れるか。

「止まる!」

私はブレーキを踏んだ。

今度はちゃんと左。

キィィィッ!

車体が止まる。

「メリー!」

「行く!」

メリーが窓から飛び出した。

私とオラクルも降りる。

「た、助けてくれでぷ!」

ゴブリンのマシンは少しずつ崖へ滑っている。

ガラッ。

小石が谷底へ落ちていく。

「時間ねぇぞ!」

オラクルがドアを引く。

動かない。

「開かない!」

「蹴る!」

「俺がやる!」

オラクルが何度もドアを蹴る。

ガン!

ガン!

でも。

「ダメだ!」

その間にも。

順位表示。

【11位】

ほぼ最下位。

私は一瞬だけスクリーンを見た。

ピンクは。

もう見えない。

でも。

「関係ない」

私は車へ戻った。

「フール!?」

「引っ張る!」

後方に積まれていた緊急用ロープ。

一方を事故車へ。

もう一方を私たちのマシンへ繋ぐ。

「アクセルで引っ張る気か?」

「他にないでしょ!」

「崖ごと落ちたら?」

「その時は考える!」

「先に考えろ!」

運転席へ戻る。

アクセル。

少しずつ。

ブオォン……!

ロープが張る。

事故車がきしむ。

「もう少し!」

ブオオオオン!

タイヤが空転する。

「頑張れ!」

メリーも車体を押している。

小さい。

全然力になってない気もする。

でも。

「押してる!」

「分かってる!」

さらに踏む。

ガッ!

事故車が崖から離れた。

オラクルが叫ぶ。

「今だ!」

ドアへ短剣を差し込み、力いっぱいこじ開ける。

バキン!

扉が外れた。

「出ろ!」

中のゴブリンを引っ張り出す。

その直後。

ロープが切れた。

事故車だけが――谷底へ落ちていった。

「……」

全員で覗く。

何秒経っても。

音がしない。

私はそっと下がった。

「見なかったことにしよう」

「賛成」

助けたゴブリンは震えながら、何度も頭を下げていた。

「ありがとうでぷ! 本当にありがとうでぷ!」

「無事でよかった」

その瞬間。

ピンクの『慈愛のリング』が。

遥か前方で。

一瞬だけ桃色に光った。

もちろん。

私には見えなかった。

「追うぞ!」

「うん!」

再び走り出す。

現在――最下位。

「終わった」

「まだ完走条件は残ってる」

オラクルが巨大スクリーンを指差す。

【勝利条件――完走】

「一位じゃなくてもいいって最初から書いてあっただろ」

「でもピンクに勝たないと秘宝くれないって!」

「それはピンクが勝手に言った」

「え?」

「王様は『試練を越えろ』としか言ってねぇ」

私は少し考える。

確かに。

そして。

巨大表示の下。

まだ。

【追加条件――???】

「……この追加条件」

助けたこと。

関係ある?

でも今は分からない。

「とりあえずゴール!」

「その前に」

オラクルが前を見る。

「次、来たぞ」

岩山地帯の終わり。

そこから先。

眩しいほどの砂。

【AREA 3】

【灼熱砂漠】

「また!?」

一気に気温が上がる。

「暑い!」

「雪山の次は砂漠かよ!」

メリーだけは元気。

「パン焼ける?」

「今それ考える!?」

砂のコースへ突入する。

タイヤが沈む。

「重い!」

「速度落とすな! 止まったら埋まるぞ!」

アクセル。

エンジン音。

砂煙。

少しずつ前方のマシンへ追いつく。

十位。

九位。

八位。

「行ける!」

私は笑った。

さっきまで。

運転なんて怖いだけだった。

でも。

今は。

楽しい。

その瞬間。

ズズズズズ……。

地面が揺れた。

「何?」

砂の中から。

巨大な影。

ドォォォン!!

「うそでしょ!?」

砂を突き破り、巨大なサソリのような魔物が現れた。

観客席から大歓声。

『出たでぷぅぅぅ!!』

実況が叫ぶ。

『砂漠地帯名物――《デザートクラッシャー》でぷ!!』

「名物として放し飼いにしないで!!」

巨大なハサミ。

ドンッ!!

前を走っていたマシンが吹き飛んだ。

「避けろ!」

「分かってる!」

左。

右。

ハサミが路面を砕く。

メリーが後ろを見た。

「追ってくる」

「言わないで!」

アクセル全開。

ブオオオオオオオン!!

魔物も追う。

速い。

「サソリってそんな速いの!?」

「普通のサソリと比べるな!」

「普通の見たことない!」

巨大な尾。

影。

「上!」

ガンッ!!

尾がすぐ横へ突き刺さった。

車体が跳ねる。

「きゃあ!」

なんとか着地。

そして。

前方。

分岐。

右。

短い。

でも狭い岩穴。

左。

遠回り。

私は右へハンドルを切りかけた。

その時。

メリーが叫んだ。

「待って!」

「何!?」

後方。

さっきサソリに吹き飛ばされたマシン。

煙が上がっている。

中に。

誰かいる。

「……」

オラクルが私を見る。

何も言わない。

選ぶのは。

私。

前へ行けば。

順位は上げられる。

戻れば。

さらに遅れる。

巨大スクリーン。

【12位】

最下位。

私は。

ハンドルを切った。

Uターン。

「戻る!」

「そう言うと思った!」

オラクルが笑った。

「メリー!」

「行く!」

メリーが飛び出す。

私はアクセルを踏み込んだ。

前じゃなく。

後ろへ。

サソリが待つ方向へ。

「助けに行くよ!」

その瞬間。

巨大スクリーン。

【追加条件――???】

文字に。

ほんの一瞬。

桃色の光が走った。

そして――。

サーキットの遥か先。

トップを走っていたピンクは。

バックミラー越しに、その光を見ていた。

「……やっぱり」

小さく笑う。

「弟たちが守った子でぷ」

ピンクはアクセルを緩めた。

誰にも聞こえない声で。

「第一試練――本当の勝負は、ここからでぷよ」

あとがき

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

今回は守護者第一試練《GOBLIN KINGDOM CIRCUIT》の本格レース開始です。

いきなり運転初心者のフールが大暴走しましたが、この試練で大切なのは順位だけではありません。

事故で崖から落ちかけた参加者。

助ければ当然、順位は落ちる。

それでもフールは迷った末に車を止めました。

そして次の砂漠地帯でも、また一人の挑戦者が危機に。

現在フールたちは最下位。

しかし、謎の【追加条件:???】には少しずつ変化が起きています。

『慈愛のリング』が本当に見ているものとは何なのか。

次回、第一試練はいよいよ核心へ入ります!

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

今回は守護者第一試練《GOBLIN KINGDOM CIRCUIT》の本格レース開始です。

いきなり運転初心者のフールが大暴走しましたが、この試練で大切なのは順位だけではありません。

事故で崖から落ちかけた参加者。

助ければ当然、順位は落ちる。

それでもフールは迷った末に車を止めました。

そして次の砂漠地帯でも、また一人の挑戦者が危機に。

現在フールたちは最下位。

しかし、謎の【追加条件:???】には少しずつ変化が起きています。

『慈愛のリング』が本当に見ているものとは何なのか。

次回、第一試練はいよいよ核心へ入ります!

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