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『フールの大冒険 ~本の世界に消えた両親を探していたら、聖なるマップに選ばれました~』  作者: ☆☆アダム☆☆


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37/94

第37話 六人の守護者

ピンク、チェック、白銀――三匹のお兄ちゃんゴブリンに案内され、私たちはゴブリン王国の中心にそびえる王宮へ向かっていた。

隣にはオラクル。

肩にはメリー。

さらに少し後ろには、カジノでオラクルの即席の舎弟になったゴブリンまでついてきている。

「兄貴、本当に王宮まで入っていいのでぷ?」

「俺に聞くな。呼ばれたのはフールだ」

「兄貴の行くところなら、どこまでもついていくでぷ!」

「だからお前は今日だけの舎弟だ!」

「一生でぷ!」

「話聞け!」

普段なら笑ってしまうやり取りだった。

でも今は、上手く笑えない。

これから。

赤、緑、黄色の三匹について――家族へ話さなければならない。

赤い子は、いつも骨付き肉を持っていた。

緑の子は、大切そうに本を抱えていた。

黄色の子は、お金の袋を持っていた。

この世界へ来たばかりで何も知らなかった私を助けてくれて。

最後には――私を守るために命を懸けてくれた。

思い出しただけで、足が重くなった。

「お嬢」

隣からオラクルの声。

「……何?」

「無理に上手く話そうとすんな」

私は顔を上げた。

いつもの軽い笑顔ではない。

オラクルは前を向いたまま続ける。

「見たまま、覚えてるまま話せばいい」

「……うん」

「お前があいつらを今でも覚えてる。それだけでも十分伝わるだろ」

胸の奥が少しだけ軽くなった。

「ありがとう、オラクル」

「礼なら後で酒でも――」

「やっぱり最後はそれなんだ」

少しだけ笑えた。

巨大な門が開いた。

王宮の中には黄金の柱が並び、深紅の絨毯が長く伸びている。

左右には槍を持ったゴブリン兵たち。

そして最奥。

高い玉座に、一匹のゴブリンが座っていた。

体の大きさは、街で見たゴブリンたちと大きく変わらない。

けれど。

王冠の下から向けられる眼差し。

ただそこに座っているだけで、広い玉座の間全体が引き締まるような威厳があった。

ピンクたち三匹が前へ進み、一斉に膝をつく。

「父上。連れてきたのでぷ」

王様は私を見た。

その瞳が、ほんの少しだけ揺れる。

「……その娘が」

低い声。

「我が息子たちの最期を知る者か」

私は緊張で指先を握り締めた。

「はい」

オラクルとメリーは、何も言わず私の少し後ろに立ってくれている。

それだけで心強かった。

王様がゆっくり立ち上がる。

「こちらへ」

私は一歩ずつ前へ進んだ。

「名は?」

「フールです」

「フール……」

王様はその名前を胸へ刻むように、一度頷いた。

「聞かせてくれ」

その声は、王様のものというより。

子供の帰りをずっと待っていた――一人の父親の声だった。

私は全部話した。

この世界へ来た直後、三匹に出会ったこと。

最初はゴブリンだから怖いと思ってしまったこと。

でも、三匹とも優しくて。

「赤い子は、ずっと骨付き肉を持ってたんです」

王様の口元が、ほんの少しだけ動いた。

「……あの子らしい」

「緑の子は、本を持ってました。すごく物知りで……」

チェックのお兄ちゃんが俯く。

「昔から本が好きだったのでぷ……」

「黄色の子は、お金を持ってて。私、一文無しだったから……最初にコインをくれたんです」

ピンクのお兄ちゃんが鼻を啜った。

一緒に歩いたこと。

笑ったこと。

この世界について教えてもらったこと。

そして――TIMEのNo.1が現れたこと。

「三人は……私を逃がすために戦いました」

声が震え始める。

「私が狙われてたのに……」

あの日の光景が蘇る。

小さな背中。

傷だらけになって。

それでも私の前から退かなかった三匹。

「最後まで……逃げませんでした」

喉が詰まる。

それでも、伝えなきゃ。

「私に……パパとママに会うでぷって」

涙が落ちた。

「ちゃんと幸せになるでぷって……」

もう声が続かなかった。

「……ごめんなさい」

私は深く頭を下げた。

「私のせいで……」

肩に手が置かれた。

オラクルだった。

強くない。

ただ、そこにいると分かるくらいの手。

「お嬢」

「……」

「そこは違う」

涙で滲んだ目で、私はオラクルを見る。

「俺はその場にいなかった。でも、お前から何度も話を聞いた」

オラクルは王様と三匹のお兄ちゃんたちを見る。

「あいつらは、フールに無理やり戦わされたんじゃねぇ」

そして私へ戻す。

「自分で決めて、自分で守ったんだろ」

胸に刺さった。

「それを全部お前のせいにしたら、あいつらの覚悟まで否定することになる」

真実のカードの試練。

あの時も、私は同じことを教えられた。

王様が静かに目を閉じる。

「その猫の言う通りだ」

「……王様」

「顔を上げなさい、フールちゃん」

私はゆっくり顔を上げた。

王様の頬を、一筋の涙が伝っていた。

「我が六人の息子たちは皆、ゴブリン王国の守護者として育てられた」

「六人……」

「ここにいる三人。そして――君が出会った三人」

ピンク。

チェック。

白銀。

そして。

赤。

緑。

黄色。

「守護者とは、王宮や宝物だけを守る者ではない」

王様が胸へ手を置く。

「目の前にいる、守るべき命のために立てる者だ」

声が大広間へ響く。

「我が息子たちは、それを最後まで貫いた」

ピンクのお兄ちゃんが、泣きながら笑った。

「……あいつら、ちゃんと守護者だったのでぷね」

「そうだ」

王様は頷く。

「父として悲しくないわけがない」

声が少し震える。

「帰ってきてほしかった」

誰も口を挟まなかった。

「もう一度、六人揃って食卓を囲みたかった」

王様は涙を隠さなかった。

「それでも――私は、あの子たちを誇りに思う」

私の涙がまた溢れた。

でも。

今度の涙は、さっきまでと少し違った。

悲しい。

それは変わらない。

だけど。

あの三匹が生きた意味が、ちゃんと家族へ届いた。

「フールちゃん」

ピンクのお兄ちゃんが前へ出た。

胸元から取り出したのは、淡い桃色に輝く小さな指輪。

その瞬間、『聖なるマップ』が反応した。

【☆2 慈愛のリング】

続いて、チェックのお兄ちゃん。

手には不思議な文字の刻まれた一つの駒。

【☆2 知恵の駒】

最後に、白銀のお兄ちゃん。

両手で抱えていた、美しい銀色の聖杯。

【☆2 聖なる聖杯】

「ゴブリン王国にあった残り三つの☆2……!」

オラクルも地図を覗き込む。

「全部こいつらが持ってたのか」

「そうでぷ」

白銀のお兄ちゃんが頷いた。

ピンクのお兄ちゃんは、『慈愛のリング』を私へ差し出そうとする。

「フールちゃん。これを持っていってほしいのでぷ」

「え?」

「弟たちが命を懸けて守った人なら、俺たちも信じられるのでぷ」

チェックも続く。

「俺たちの秘宝も、旅の役に立つはずでぷ」

白銀も頷いた。

「受け取ってほしいのでぷ」

三つの☆2。

私は思わず手を伸ばしかけた。

「待ちなさい」

王様の声。

三匹が振り返る。

「父上?」

王様は静かに私を見る。

「フールちゃん。君が我が息子たちの恩人であることに変わりはない」

「はい」

「しかし、その三つは代々この国の守護者へ受け継がれてきた秘宝だ」

オラクルが腕を組む。

「そりゃ、簡単に他国の奴へ渡せるもんじゃねぇな」

王様が頷いた。

「たとえ息子たち本人が望んだとしても、国王として無条件に許すことはできない」

ピンクのお兄ちゃんが声を上げる。

「でも父上!」

「ただし」

王様が、ほんの少し口元を緩めた。

「方法がないわけではない」

「え?」

「その秘宝を手にする資格があると証明すればよい」

私は三匹を見る。

「資格……?」

「ピンク、チェック、白銀。この三人は、それぞれ守護者となるための試練を乗り越えている」

チェックが胸を張る。

「当然でぷ!」

「もし君たちが秘宝を望むのであれば」

王様は私だけではなく、オラクルとメリーにも視線を向けた。

「同じ試練へ挑んでもらう」

オラクルがニヤリと笑う。

「面白そうじゃねぇか」

「オラクルもやるの?」

「当たり前だろ」

「でも私が――」

「お前一人で旅してんじゃねぇ」

一言。

私は少し驚いて。

それから笑った。

「……うん」

メリーも小さな拳を上げる。

「メリーもやる!」

「決まりだね」

王様が頷いた。

「では、第一の試練を始めよう」

ピンクのお兄ちゃんが前へ出る。

指にはめた『慈愛のリング』が淡い桃色に輝いた。

「最初は俺の番でぷ!」

「ここで戦うの?」

ピンクは首を振った。

「違うでぷ」

ニヤリ。

「ついてくるでぷ!」

王宮の裏門から外へ出て。

私たちはピンクについて、王国の端へ向かった。

しばらく進むと、鬱蒼としたジャングルへ入る。

「どこまで行くんだ?」

オラクルが聞く。

「もうすぐでぷ!」

「守護者の試練って、森で魔物と戦うとか?」

私が尋ねる。

「違うでぷ!」

「じゃあ崖登り?」

「違うでぷ!」

メリーが手を上げた。

「パン早食い」

「絶対違う!」

やがて。

木々の切れ目が見えた。

その先へ出た瞬間。

「……え?」

私は固まった。

「なんだこれ……」

オラクルまで口を開ける。

そこにあったのは。

巨大な――サーキット。

何万人ものゴブリンを収容できそうな観客席が、コースをぐるりと囲んでいる。

巨大な魔法スクリーン。

旗。

実況席。

そしてコースは、単純な円なんかじゃなかった。

ジャングル。

砂漠。

岩山。

水上。

遠くには、巨大なピラミッドのような建造物まで見える。

一つのコースの中へ、いくつもの環境が詰め込まれていた。

「なにこれえええええっ!?」

私の声が響く。

観客席のゴブリンたちが、一斉にこちらを向いた。

次の瞬間。

『挑戦者が来たでぷぅぅぅぅ!!』

巨大スクリーンに、私たちの顔が映った。

「ええっ!?」

ワアアアアアアアアッ!!

何万人もの歓声。

『今回の挑戦者は、人間の少女――フール!』

「名前まで知られてる!」

『そして、黒猫――オラクル!』

「盗賊だ! 職業まで言え!」

『小さな精霊――メリー!』

メリーがスクリーンへ手を振る。

「メリー!」

「楽しんでる!?」

ピンクは満足そうに笑っている。

「これが俺の守護者試験でぷ!」

「守護者になるのに、なんでサーキットなの!?」

「ゴブリン王国伝統でぷ!」

「伝統!?」

その時。

ブオオオオオオンッ!!

爆音。

一台のマシンが、私たちの目の前へ滑り込んできた。

真っ赤な車体。

地面すれすれまで低く作られた流線型の形。

車体には王冠とハートの紋章。

後部からは、青白い魔力の炎が噴き出している。

私は固まった。

「……これ、何?」

オラクルが車体を叩く。

「どう見ても乗り物だな」

「それは分かるよ!」

ピンクが運転席を指差した。

「フールちゃんが運転するでぷ!」

「私!?」

「もちろんでぷ!」

「運転したことないよ!」

「大丈夫でぷ!」

「何が大丈夫なの!?」

ピンクは『慈愛のリング』を掲げた。

桃色の光が広がる。

そして。

さっきまでの笑顔を少しだけ消した。

「この試練で見るのは――速さだけじゃないでぷ」

「……速さだけじゃない?」

「一番にゴールするだけなら、守護者じゃなくてもできるでぷ」

ピンクは広大なコースを指差した。

「レース中、何が起こるか分からないでぷ」

ジャングル。

崖。

水上。

砂漠。

見ているだけで嫌な予感しかしない。

「誰かを助ければ、自分は遅れる」

ピンクが続ける。

「止まれば、一位にはなれないかもしれない」

私は黙って聞く。

「それでも――」

ピンクの瞳が、真っ直ぐ私を見る。

「守るべきものを見捨てず、最後まで走り切れるか」

『慈愛のリング』が強く輝いた。

「それが第一の試練でぷ!」

オラクルが納得したように笑った。

「なるほど」

「何?」

「慈愛ってことだよ」

私はリングを見た。

速さだけじゃない。

勝つだけでもない。

誰かを守れるか。

あの赤、緑、黄色の三匹が――最後までやったこと。

胸の奥が少し熱くなった。

「やる」

私は赤いマシンを見る。

「この試練、受ける!」

ピンクが笑った。

「その返事を待ってたでぷ!」

運転席へ座る。

「……」

レバー。

ペダル。

丸いハンドル。

謎のボタンが十個くらい。

「ピンク」

「何でぷ?」

「どれが動かすやつ?」

「……」

「なんで黙るの!?」

オラクルが助手席へ乗り込んだ。

「とりあえずこれじゃねぇか?」

赤いボタンへ手を伸ばす。

「勝手に押さないで!」

ポチッ。

ブオオオオオオオン!!

「押したぁぁぁぁ!」

車体が激しく振動した。

観客席が沸く。

『エンジン始動でぷぅぅぅ!!』

「合ってたじゃねぇか」

「結果論!」

メリーは後部座席。

シートの上へちょこんと座っている。

「速い?」

「たぶん」

「楽しみ!」

「私は全然楽しみじゃない!」

スタートライン。

周囲には、他にも何台ものマシン。

そして。

少し離れた隣のレーン。

ピンクが別のマシンへ乗り込んだ。

「え?」

私は窓から身を乗り出した。

「ピンクも走るの!?」

「当然でぷ!」

「試験官じゃないの!?」

「俺に勝てなきゃ秘宝は渡せないでぷ!」

「結局速さも必要なんじゃん!」

ピンクが笑う。

『慈愛のリング』が光った。

巨大スクリーンに文字。

【守護者第一試練】

【GOBLIN KINGDOM CIRCUIT】

【勝利条件――完走】

【追加条件――???】

「最後の何!?」

ピンクは答えない。

「始まれば分かるでぷ!」

「そういうの一番怖いよ!」

カウントが始まる。

【3】

「待って!」

私はハンドルを握る。

【2】

「まだブレーキどれか分かってない!」

オラクルが足元を見る。

「たぶん左!」

「たぶん!?」

【1】

メリーが両腕を上げた。

「行けー!」

「メリーぃぃぃ!」

【GO!!】

ブオオオオオオオオオオンッ!!

「いやああああああああっ!!」

赤いマシンが。

私の悲鳴と共に――。

凄まじい勢いでスタートラインを飛び出した。

観客席から、大歓声。

そして。

ピンクのマシンも。

私たちのすぐ横を――猛烈な速度で追い抜いていった。

「待つでぷよぉぉぉ!」

「待てるかああああ!」

☆2『慈愛のリング』を懸けた――。

ゴブリン王国・守護者第一試練。

超巨大サーキットレースが、幕を開けた。

あとがき

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

今回は赤・緑・黄色の三兄弟の想いが王様へ届き、いよいよ三人の兄たちが持つ☆2秘宝へ物語が繋がりました。

そして第一の試練は――まさかの巨大サーキット。

『慈愛のリング』が試すのは、ただの速さではありません。

勝利のために誰かを見捨てるのか。

それとも、自分が遅れてでも誰かを守るのか。

さらに表示された謎の【追加条件:???】。

次話から、フール・オラクル・メリーの本格サーキットレースが始まります!

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

今回は赤・緑・黄色の三兄弟の想いが王様へ届き、いよいよ三人の兄たちが持つ☆2秘宝へ物語が繋がりました。

そして第一の試練は――まさかの巨大サーキット。

『慈愛のリング』が試すのは、ただの速さではありません。

勝利のために誰かを見捨てるのか。

それとも、自分が遅れてでも誰かを守るのか。

さらに表示された謎の【追加条件:???】。

次話から、フール・オラクル・メリーの本格サーキットレースが始まります!

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