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『フールの大冒険 ~本の世界に消えた両親を探していたら、聖なるマップに選ばれました~』  作者: ☆☆アダム☆☆


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第25話 一つ目の【???】


「……お母さん」

メリーが、私の髪の後ろから顔だけ出した。

最上階の広間。

壁も床も白い花びらのような結晶でできていて、天井からは淡い緑色の光が降り注いでいる。

その中央に立つ精霊の女王は、どう見てもメリーをそのまま大人にしたような姿だった。

柔らかな桜色の長い髪。

宝石のような翠色の瞳。

背中に広がる四枚の透明な羽は、メリーより大きく、羽ばたくたびに細かな光が舞っている。

白と淡い緑の長いドレス。

頭には、小さな白い花を編んだ冠。

上品で。

綺麗で。

どう見ても女王様なのに――。

「メリー」

「……はい」

「勝手に塔を出ましたね?」

「……はい」

「お菓子も持ち出しましたね?」

「……ちょっとだけ」

「三袋」

「ちょっと」

「三袋はちょっとではありません」

「……」

メリーが完全に私の髪へ隠れた。

オラクルが肩を震わせている。

「笑ってるでしょ」

「笑ってねぇ」

「尻尾揺れてるよ」

「これは自然現象だ」

そんな自然現象は聞いたことがない。

精霊女王は小さくため息をついた。

けれど。

次の瞬間には、優しい笑顔になっていた。

「ですが」

メリーを見る。

「無事に帰ってきてくれて、本当によかった」

「……お母さん」

メリーがゆっくり出てくる。

そして。

女王の胸へ飛び込んだ。

「お母さーん!」

「メリー」

ぎゅっ。

女王が小さな娘を抱きしめる。

さっきまで怒られていたメリーが、今度は子供みたいに泣き始めた。

「こわかったぁ……」

「ええ」

「おっきいタコいたぁ……」

「聞きました」

「パンも少なかったぁ……」

「そこは我慢しなさい」

私は吹き出した。

オラクルも。

女王まで少し笑っていた。

しばらくして。

女王が私たちへ向き直る。

「フール様。オラクル様」

「様!?」

オラクルの耳が立った。

「俺、生まれて初めて様付けされたかもしれねぇ」

「嘘」

「なんで即答するんだよ!」

「盗賊だから」

「職業で判断すんな!」

女王が上品に笑う。

「リーリエに捕らわれていた精霊たちを救ってくださり、本当にありがとうございました」

広間の外を見る。

戻ってきた精霊たち。

家族と抱き合っている姿。

笑っている姿。

「私たちは、できることをしただけです」

女王の翠色の瞳が少し細くなる。

「それをできる者は、決して多くありません」

私は少し照れた。

だから。

ずっと気になっていたことを聞くことにした。

「女王様」

「はい」

「どうして……精霊たちは捕まってたんですか?」

空気が変わった。

メリーも。

女王の胸元で顔を上げる。

女王はしばらく黙っていた。

そして。

「始まりは――北の雪山です」

「雪山?」

「名を、グラティス」

その瞬間。

聖なるマップが。

ほんの少しだけ震えた。

私はまだ開かなかった。

女王の話を聞く。

「グラティスには、古くから強い精霊脈があります」

「精霊脈?」

「精霊たちが世界を行き来するための、目には見えない道です」

女王の指先から、小さな光が生まれた。

空中に。

光の道が広がる。

山。

森。

海。

世界中を細い線が繋いでいる。

「精霊は、この流れを使って遠く離れた土地へ移動します」

その光の一つ。

北にある白い山が。

黒く染まった。

「ですが少し前」

女王の声が低くなる。

「グラティスで異変が起こりました」

「何が?」

「ある者が現れたのです」

空中に、人影が浮かぶ。

顔は見えない。

ただ。

黒を基調とした長い服。

胸や袖には――。

時計の文字盤を思わせる紋様。

私は目を細めた。

「時計……?」

オラクルも真顔になる。

「そいつが何をした?」

女王の顔が曇った。

「魔物を放ちました」

光景が変わる。

雪山。

その上に。

黒い塊のような魔物。

長い腕。

何本もの鎖。

鎖の先には、小さな光。

精霊たち。

「その魔物には、精霊を封じる力がありました」

メリーが身体を小さく震わせる。

「捕まると、精霊の力を奪われます」

「リーリエにいた精霊たちも?」

「はい」

女王が頷いた。

「封印はグラティスだけでは終わらなかった」

黒い光が。

精霊脈を伝っていく。

遠く。

海へ。

リーリエへ。

「精霊脈そのものを通じて、封印の影響が広がりました」

私は息を呑む。

「じゃあネレウスが全部やったわけじゃない?」

「ネレウスは、その力を利用したのです」

女王が答えた。

「精霊たちを捕らえた封印に寄生し、その力を取り込んでいた」

これで。

繋がった。

リーリエでネレウスがあれほど多くの精霊を抱えていた理由。

《人魚の旋律》で精霊たちを解放できた理由。

「でも」

私は聞く。

「リーリエの精霊は助けられたんですよね?」

「一部は」

「一部?」

女王の顔が険しくなる。

「まだ帰っていない精霊がいます」

メリーの羽が止まった。

「どこ?」

「グラティス」

女王が答える。

「封印の根は、まだ雪山に残っています」

静寂。

でも。

女王は私へ「行ってください」とは言わなかった。

ただ。

そこに何かがある。

それだけを教えてくれた。

私は。

自然と聖なるマップへ手を伸ばした。

開く。

世界地図。

そして――。

「……え?」

光っている。

これまで地図に浮かんでいた四つの【???】。

そのうち一つ。

北方の巨大な雪山の上で。

強く。

明滅している。

【???】

私は地図を広げたまま固まった。

「ここ……」

指を置く。

新しい地名が浮かんだ。

【グラティス】

オラクルが覗き込む。

「まさか」

「うん」

心臓が速くなる。

私たちがずっと追いかけている。

正体の分からない四つの存在。

その一つが――。

「グラティスにある」

メリーが地図の上へ降りる。

【???】をじっと見る。

「行くの?」

私は答えた。

「行く」

オラクルが頭を掻いた。

「雪山かぁ……」

「寒いの嫌?」

「猫は暖かいところが好きなんだよ」

「海も嫌だったよね」

「海は濡れる。雪は冷たい。両方嫌だ」

「好きな場所あるの?」

「酒場」

「冒険向いてないじゃん!」

女王が小さく笑った。

そして。

「グラティスへ向かうのでしたら」

私たちを見る。

「一つだけ、覚えておいてください」

「何ですか?」

「雪山で見えるものを、すべて信じてはいけません」

「……?」

「グラティスの氷には」

女王の声が。

ほんの少し低くなる。

「過ぎ去ったものを――閉じ込める性質があります」

オラクルが眉をひそめた。

「どういう意味だ?」

「行けば分かります」

「そういう言い方、一番怖いんだけど!」

女王は答えなかった。

その日の午後。

精霊の塔を出る前に。

私は少しだけ街を見て回った。

「フール!」

メリーが飛んでくる。

両腕いっぱいに紙袋。

「何それ?」

「お母さんにもらった」

「中身は?」

「パン」

「全部!?」

「旅に必要」

オラクルが袋を覗く。

「一個くれ」

メリーが袋を抱き締める。

「やだ」

「一個くらいいいだろ」

「泥棒猫にはあげない」

「俺の扱いどんどん悪くなってねぇか!?」

道の端では。

小さな精霊の店員が、オラクルへ花の首飾りを売ろうとしていた。

「猫さん、似合うよ!」

「いらねぇ」

「三B!」

「高ぇ」

「二B!」

「いらねぇ」

「一B!」

「……」

オラクルが財布を見る。

私は笑った。

「買うんだ」

「安いからだ!」

結局。

黒猫の首に。

小さなピンクの花飾りがついた。

「似合う」

「外す」

「似合う」

「外す!」

メリーも笑う。

「かわいい」

「お前ら覚えてろ!」

最後まで。

精霊の街は賑やかだった。

でも。

塔を出る直前。

私は振り返った。

精霊女王が。

最上階の窓から私たちを見ている。

隣には。

帰還した精霊たち。

その中には。

きっと。

まだ帰らない家族を待っている者もいる。

私は聖なるマップを握った。

両親を探す。

それが私の旅。

でも。

同じ場所に。

助けを待つ人がいるなら。

放っておけない。

「行こう」

オラクルが聞く。

「グラティスへ?」

「うん」

メリーが私の肩へ座る。

「メリーも行く」

「いいの?」

「行く」

小さな手が。

私の髪を掴んだ。

「仲間だから」

私は笑った。

「じゃあ決まり」

聖なるマップ。

その北端。

白い山の上で。

【???】が。

まるで私たちを待っているように――。

強く光った。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

今回は精霊女王から、リーリエで精霊たちが捕らわれていた原因が明かされました。

発端となったのは、北の雪山グラティス

そして、時計のような紋様が入った服を着た謎の人物。

ただしフールたちがグラティスへ向かう最大の理由は、誰かに頼まれたからではありません。

《聖なるマップ》にある四つの【???】の一つが、グラティスで反応したからです。

次の舞台は雪と氷の世界。

そこで待っている【???】とは何なのか。

そして時計の紋様を持つ人物の正体とは――。

フール、オラクル、そして新たに旅へ加わったメリーの三人で、グラティスを目指します。

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