7.決着
ダレンが屋敷へ戻ったのは、日が傾き始めた頃だった。玄関ホールへ足を踏み入れた彼は、そこに並ぶ近衛騎士の姿を見て足を止める。父と兄、そしてアーネストが静かに待っていた。
「これは、いったい何事ですか」
穏やかな表情を崩さないまま尋ねるダレンに、アーネストが一歩前へ進み出た。
「ダレン・グレイ。国家反逆、機密情報漏洩、およびクリステア伯爵に対する謀略の容疑で拘束します」
一瞬だけダレンの表情が固まる。
「何かの間違いでしょう」
「フェルマン商会への一斉捜査により、容疑を裏付ける証拠はすべて押収しました」
その一言で十分だった。ダレンは何か言い返そうと口を開いたが、言葉は続かなかった。近衛騎士が静かに両脇へ立つ。
連行される途中、ダレンは一度だけクリステアを振り返った。しかしクリステアは何も言わず、その姿を静かに見送った。
裁判は一週間後に開かれた。
法廷へ足を踏み入れた瞬間、クリステアは思わず息をのんだ。高い天井も、裁判長の席も、証拠台も、すべてがあの日と変わらない。ただ一つ違うのは、被告席に立っているのが自分ではなくダレンだということだけだった。
検察官は、一斉捜査によって明らかになった事件の全容を淡々と読み上げていく。フェルマン商会が借金を利用して貴族や商人を取り込み、王国の機密情報を隣国へ流していたこと。ダレンもその一人として伯爵家の情報を渡し、さらにクリステアを国家反逆者に仕立て上げ、伯爵位を奪おうとしていたこと。証拠は十分すぎるほど揃っており、ダレンは利用された、脅されていたと繰り返すばかりで、有効な反論は一つもできなかった。
やがて裁判長が判決を読み上げる。
「被告ダレン・グレイを、国家反逆罪およびクリステア伯爵に対する謀略の罪により、死刑に処する」
木槌の音が法廷へ響く。その音を聞いた瞬間、クリステアはようやく長く張りつめていた心がほどけていくのを感じた。同じ法廷で、同じ裁判長から告げられる死刑判決。それでも今度は、自分ではなくダレンへ向けられた言葉だった。
近衛騎士に促されて歩き出したダレンは、クリステアの前で足を止めた。
「クリステア」
その声に、以前の余裕はもうない。
「どうしてだ」
クリステアは静かにダレンを見つめ返した。
「お前は、私を愛していたはずだ」
「ええ」
クリステアは一度だけ頷いた。
「愛していました」
ダレンの表情がわずかに揺れる。
「だから信じていました。でも、その信頼を裏切ったのは、あなたです」
しばらく沈黙が続いた。
「他にも道はあったはずです。それでも、あなたはこの道を選びました」
ダレンは何も答えなかった。クリステアは小さく一礼する。
「さようなら、ダレン」
そのままダレンは近衛騎士に連れられて法廷を後にし、クリステアもまた振り返ることはなかった。




