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聖陽学園コスプレ部のひにちじょう  作者: 沓沢 朱理
序章 にちじょう
9/55

⑨ 既読無視

パンフレットの評判が良かったので、打ち上げをすることになった。場所は部室、予算は部費から出ない菓子とジュース、監督は例によってるかである。


「乾杯の音頭、先生お願いします」


「なんで私が……はい、お疲れさまでした。乾杯」


「かんぱーい」


紙コップがぶつかって、まずあかりの会計報告があった。


「お菓子代、部費からは出てません。全部差し入れです」


「どうやったの」


「購買のおばちゃんと交渉しました。詳細は企業秘密です」


拍手が起きた。教師としては聞かなかったことにするべき報告な気がしたが、拍手の勢いに負けて、るかも二回だけ叩いた。


話題はすぐ学園祭に飛んだ。ステージ企画に出るか、出るなら何をやるか。あかりの進行表は、もう半分できていた。


「立ち位置どうします? 五人で横並びだと、照明的にセンター強いんですよね」


「センターはアタシがやるから」


のんは即答した。考える間がなかった。言いながら、胸元から出た細い鎖の先を、こつんと握った。何の飾りかまでは、るかの席からは見えなかった。


「まあ、フォロワー的にも正解」とあかりが進行表に書き込む。「じゃあ両サイドの振りを厚くして——」


異論は出ず、演目の候補が三つ挙がって、三つとも「衣装が間に合うか」で審議された。審議の基準が内容ではなく縫える量なのが、この部である。ミシンが一台しかない事実だけが、常に企画の上限だった。


話題は衣装の布の値段に流れ、三年の宮下さんが急に「あ」と声を上げてスマホを回した。宮下さんは何かというと家の姉の話をする人で、今日も姉の話だった。


「ねえこれ見て。姉ちゃんが最近ハマってるお店の人。芸能人みたいじゃない?」


回ってきた画面には、銀色の髪の男が写っていた。作り物みたいに整った顔で、写真の中から隙なく微笑んでいる。名前の欄に、桐生(きりゅう)昴(すばる)、とあった。よくある源氏名だと思って、るかはそれ以上、目を留めなかった。


「ホストってこと?」


「そう。指名、何ヶ月待ちとからしいよ」


「えー、加工でしょこれ」


「肌つるつるすぎ」


画面は一周して持ち主に返り、話題は次の菓子の袋と一緒に開いた。


話が一段落したところで、るかは思い出して手を叩いた。


「あ、そうだ。花村さん。地毛登録届の第一号、正式に受理されたそうです」


「はんこ、五個も押されてましたよ」


「制度っぽいでしょ」


「めんどくさかった」


「言い出したのはきみなんだが!?」


お開きの少し前、スマホを見ていたのんが、ふはっと笑った。


「なんか中学生からDM来てるんだけど。『のんさんみたいになりたいです』って」


「ファンじゃん。すご」


「フォロワー増えたもんねえ」


「返さないの?」


「中学生かあ」


のんは画面を伏せて、ポッキーの箱に手を伸ばした。返事を打つ気配は、そのままなかった。


「はい、六時。解散」とるかは手を叩いた。「ゴミは各自。机は元の位置」


紙コップが集められ、机が鳴り、部室は五分で元の形に戻った。開けっぱなしの窓から風が入って、机の上の紙ナプキンを一枚さらった。冷たい風だった。


「さむ」と誰かが言って、窓が閉まった。


生徒たちを廊下へ送り出し、るかは最後に電気を消して、部室の鍵を閉めた。

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