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⑫ 居抜き
二月の頭、倉庫の解約の件で最後に店に電話をすると、事務の女が出た。
「桐生は、しばらく休んでます。お母様の件で」
三日後、風の噂の形で、続きが届いた。亡くなったらしい、と。通夜も告別式も、店の誰も呼ばれなかったらしい、と。病院に残った分は、店の経理で処理したらしい、と。
らしい、の三つが、のんの知り得た全部だった。
同じ月、報道が始まった。
美容クリニックの自由診療をめぐる摘発の記事が、経済面の下の方に小さく載った。載った名前は、帳簿にあった名前だった。続いて、Club Abyssの名前が、別の週刊誌の風俗欄に出た。売掛、未成年、火消しの失敗。店の看板は、月末に消えた。居抜きの募集が、翌週には出ていた。
桐生の名前は、どの記事にもなかった。
三月の頭、用があって店のあった通りを歩いた。看板の外された跡が、壁に四角く残っていた。日に焼けなかった分だけ、そこだけ壁の色が新しかった。貼り紙の居抜き募集には、もう「商談中」の帯が斜めにかかっていた。次に入る店が何であれ、内装の大半は使い回せる造りのはずだった。造りは、残る。
摘発は、のんの写しから始まったのではなかった。それだけは記者経由で分かった。別の筋の、別の都合の、別の作業だった。




