⑪ 諦めの悪いのが二人
一月の末、のんは手書きの番号に、一度だけ電話をかけた。
三コールで出た。名乗る前に「はい」とだけ言う出方で、名乗ると、少し間があった。
「……ああ。どうした」
「訊きたいことが一つ。移送された子の行き先って、調べる筋、あるの」
「警察は動かない。動かない理由は前に言った通りだ。……ただ」
紙をめくる音がした。個人の回線の向こうで、個人の手帳がめくられていた。
「下流の店の求人と、寮の物件は、表に出る。出る情報を根気よく突き合わせてる人間が、民間に何人かいる。連絡先、いるか」
「いる」
「あんたが使うのか」
「捜してるのは、アタシじゃない。もっと諦めの悪いのがいる」
「そうか」と記者は言った。「諦めの悪いのが二人いれば、一人よりだいぶマシだ」
電話は二分で終わった。教わった連絡先は、その日のうちにあかりへ送った。返信は夜に来て、《明日行ってみる》とだけあった。行動の速さだけが、この冬、あかりと自分の共通言語だった。
週末、るかの新居に呼ばれた。
呼ばれた理由は引っ越し蕎麦で、実態は荷解きの人手だった。1Kの部屋に、段ボールが十一箱。十箱目までは、二時間で片付いた。
十一箱目に、るかは手を掛けて、掛けたまま少し止まった。
教材の箱だった。附属の頃の。輪ゴムで留めたプリントの束、書き込みだらけの指導書、名簿の複写。捨てなかったもの一式が、四年間、箱のまま連れ回されてきた。
るかは箱を開けて、中身を本棚のいちばん下の段に、順番に並べた。並べ終わると、本棚の下段だけ、部屋の中で密度が違った。
「……開けたんだ、それ」
「開けたね」
るかは、それ以上の説明をしなかった。台所に立って、湯を沸かし始めた。蕎麦は二人分で、鍋は引っ越しの朝に一番に開けた箱から出てきたのだという。鍋から先に開ける人の部屋で、教材の箱は最後に開いた。訊かなかった。訊かなくても、蕎麦は温かかった。




