⑤ 赤点研究会
期末の一週間前、部室は自主的に勉強部屋になる。ならなければ、部活動停止の基準に引っかかる部員がいるからである。
「赤点研究会、はじめまーす」
和真が仕切った。研究会の名の由来は、赤点を研究し尽くした男だからだという。威張ることではない。
机を島にして、教科ごとに散る。あかりは教え方が上手かった。要点を三つに絞って、三つ目を必ず「テストに出るやつ」と言う。出るかどうかは知らないらしい。知らないが、そう言われた側は覚える。のんは意外にも要領が良く、自分の分を一時間で終わらせて、あとは頬杖で古文単語を眺めていた。眺めているだけに見えて、翌週の小テストは満点だったから、あの眺め方で入るのだろう。
るかは数学の島に呼ばれた。
「先生、これ、なんで移項すると符号変わるんですか」
戸田みさきの質問は、根本からだった。裁縫は苦手でも、分からないことを分からないと言える子だった。根本からの質問は、いい質問である。るかは紙の端に天秤の絵を描いた。両側から同じものを取る話をして、取る動作を三回やってみせたところで、質問した子の顔が、ふっと変わった。
「あー……そういうこと?」
「そういうこと」
分かる瞬間の顔は、いつ見てもいい。教科は専門外でも、あの顔が見られるなら安い仕事だと思う。——という感想を、るかは誰にも言わずに、次の質問を受けた。
「先生、次、こっち」
「はいはい」
顔を上げると、ノートを抱えた次の子が待っていて、その後ろにもう一人並んでいた。列である。新任の机の前にできたものの中で、書類の山ではない列は、それが最初だった。
「順番ね。焦らない」
七時の下校放送で解散になった。帰り際、和真が全員のノートを集めて、何かの儀式のように机に積んだ。
「これで研究会の単位取得とします」
「単位制だったの、これ」
積まれたノートの一番上に、のんの古文単語帳が載っていた。表紙の隅に、小さく星の落書きがあった。るかは特に何も思わず、電気を消した。




