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聖陽学園コスプレ部のひにちじょう  作者: 沓沢 朱理
序章 にちじょう
4/55

④ 歓声の向き

五月の体育祭は、朝から日差しが本気だった。


るかの持ち場は用具係と救護テントの掛け持ちである。新任に二つ役が回ってくる理屈は分からないが、断る技術はもっと分からなかった。


「先生、応援合戦の音源、許可通りました?」


「通した。教頭先生に三回頭を下げた」


「さすがです。これ、部の宣伝にもなるし、体育祭も盛り上がるし、一石二鳥なんで」


計画表を抱えたあかりが、にっと笑って走っていく。衣装も自作、進行表も自作、教師への根回しの台本まで自作である。


開会式のあと、るかは部のテントを覗いた。自作のチア衣装は、近くで見ると縫い目が波打っていた。波打った縫い目を、誰も恥ずかしがっていなかった。むしろ誰の縫い目が一番ひどいかで盛り上がっていて、投票の結果、優勝は戸田みさきの右袖に決まった。ほどいてやった甲斐のない、堂々の一位だった。優勝の景品はラムネ一本だった。


(台本まで書かれた覚えはなかったんだが、こないだの職員会議、妙に喋れたんだよな)


昼前の応援合戦、コスプレ部有志のチアは午前の部の三番目だった。


音が鳴って、自作のチア衣装の五人がグラウンドの真ん中に散った。真ん中に金色の頭。踊りは、正直、全員が上手いわけではない。それでも歓声は勝手に大きくなった。


途中、のんが、ふ、と立ち位置を半歩ずらした。


振り付けにない移動に見えた。ずらした先は本部テント脇——カメラやスマホを構えた列の、いちばん密度の濃い正面だった。次の歓声が、ひとまわり大きくなった。


(勘のいい子だ)


るかに言えるのは、それだけだった。用具係は感想を持つ暇より先に、次のプログラムの玉入れの籠を運ぶ必要があった。


昼休み、救護テントに麦茶をもらいに来た伊藤和真が、スマホを握って騒いでいた。


「ねえ先生、花村さんのフォロワー、四千超えてるんだけど」


「よん……多いの? それ」


「朝は九百だったの! チアのポストがめちゃくちゃリポストされてて、今も増えてる。ほら、見てるあいだに二人増えた」


「きみはなんでそれを実況してるの」


「面白いから」


当のこの人はテントの隅で、氷水のコップを頬に当てて涼んでいた。スマホの画面をすっと撮り直し、角度を変えてもう一枚撮り直し、それから満足そうにしまった。


「先生、麦茶おかわりください」


「救護テントは喫茶店じゃないが?」


「でも、いま注いでますよね」


「注いでない」


注いでいた。


午前の教員リレーには、新任枠で出場させられた。第二走者。バトンを受けた時点で三位、渡した時点で三位。順位を守っただけなのに、生徒たちからは今日一番の歓声をもらった。教師の全力疾走は、内容と関係なく面白いらしい。


閉会式の頃には紙コップの在庫が消え、るかの首の後ろは綺麗に日焼けしていた。


「先生、来年はステージ二回にしましょう。伸びしろしかないんで」


片付けの帰り道、あかりが計画表の裏に何か書き足しながら言った。


(伸びるのは私の仕事量では?)


異議は、飲み込んだ麦茶と一緒に喉の奥へ消えた。

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