⑧ 自分の回り方
引っ越し前の図書館の職員バックヤードで、るかは段ボールに私物を詰めていた。
「手伝いに来たんじゃないんだけど」と言いながら、のんは本の束を縛った。
段ボールの一つに、輪ゴムで留めたプリントの束が入っていた。附属の頃の授業プリントらしかった。名簿の複写が一番上にあって、四年前の一年C組の名前が並んでいた。るかはそれを捨てる箱ではなく、持っていく箱に入れた。入れる手つきに、迷いがなかった。
縛りながら、のんは話した。桐生のこと。帳簿のこと。強い子だから、の電話のこと。話す順番は、めちゃくちゃだった。るかは手を動かしたまま、順番を直さずに聞いた。
「……アタシさ、中二のときから、これに全部賭けてきたんだよね」
のんは、首元の鎖を引き出した。青い石の、横倒しの星。
「変身。見た目を変える。読まれる前に、読む側になる。それで、勝ってきた。実際、勝てたし」
「うん」
「勝てたんだよ。ずっと。……勝てたのに、なんで」
手が、止まった。
「なんで、あの人の言う通りに動いてたんだろうね、アタシ」
るかは、段ボールのガムテープを、ぴ、と切った。
「その星の話、誰かから聞いたの?」
「……美容師さん。中二のとき。横倒しのまま、自分の回り方で回ってる星だ、って」
「いい話だね」
「革命の星、って。意味は生まれつきじゃなくて、見つけたときに決まる、って」
自分の口で言い直した瞬間に、何かが、ずれた。
握っていた鎖の角が、掌の同じ場所に当たっていた。六年、同じ握り方をしてきた手だった。その手の力が、ふ、と抜けた。抜けても、石は落ちなかった。
見つけたときに、決まる。
決めたのは、中二の夏の、電車の中の子どもだった。ひっくり返して、上に立つ側の言葉。そう決めた。決めた意味の通りに、六年動いた。読む側に回った。使う側に回った。上に立ったつもりの場所は、育成枠だった。見た目で戦って、見た目の値段を、最初から最後まで他人の帳簿につけられていた。
上に立つ、の上には、いつも席があった。席を用意していたのは、いつも同じ側だった。
「……ねえ、先生」
「先生じゃないってば」
「横倒しの星ってさ。ひっくり返った星じゃ、ないんだよね」
るかは、手を止めて、のんを見た。
「倒れたまま、回ってるんだよね。誰も起こしてくれないのに。自分の回り方で」
「——そうだね」
るかは、それしか言わなかった。それ以上を言わない大人が、この四年間、この人のどこに住んでいたのか、のんは初めて分かった気がした。
帰り際、のんはもう一度だけ鎖に触れた。握らずに、指の腹で、石の輪郭をなぞった。初めてやる手つきだった。
段ボールは、六箱になった。のんは一番重い箱を持って、階段を先に降りた。




