⑦ 歩幅
鳳の居場所は、あかりが調べてくれた。頼みに行った日、のんは初めて、あかりに頭を下げた。あかりは何も言わずに三日待たせて、それから、店の名前と出勤の曜日だけを送ってきた。
店の外で待った。一月の夜は、息が白かった。
出てきた鳳は、髪が明るくなっていた。歩き方で分かった。歩幅が、昔の半分だった。あの、廊下の突き当たりまでまっすぐ届く歩き方を、のんは覚えている。衝突した相手の歩き方は、忘れない。
「鳳センパイ」
鳳は、立ち止まった。のんを見て、三秒、誰だか分からない顔をした。分かってからの顔は、もっと静かだった。
「……ああ。花村さん」
声が、細かった。演説の声を知っている耳には、別人の声だった。
「少し、話せる?」
「今日は、これから用事があるから」
「五分でいい」
「桐生さんが、待ってるから」
その名前の出方に、抑揚がなかった。予定の説明だった。誰かの名前ではなく、時刻表の駅名みたいに出てきた。
「……センパイ、あのさ」
「順位をつけるのは、よくないことだと思ってた」
鳳は、のんの言葉の上に、静かにかぶせた。かぶせたことに、本人は気づいていないようだった。
「でも、順位は、あるんだよね。実際。私、今週、二位で」
「センパイ」
「桐生さんが、伸びてるって言ってくれて」
会話が、届く前に落ちる。鳳の言葉は全部、のんの手前の地面に、静かに並んでいった。並べ方だけが、昔のまま几帳面だった。
「……ごめん。もう、行かないと」
鳳は、頭を下げた。下げ方は丁寧で、丁寧さの向く先が、もうこちらではなかった。明るくなった髪が、街灯の下で揺れて、角を曲がって消えた。
のんは、白い息を一つ吐いた。
強い人を知っている。壇の上から客席の一番遠くまで、目線だけで届かせる人を知っている。あの人を解体した作業の、最初のネジを外したのが誰だったかも、知っている。
店の看板の灯りが、通りの先で点いたり消えたりしていた。切れかけの蛍光管が、切れないまま光り続けている。誰も交換しない。
ポケットの中で、拳が固まった。爪が、掌に食い込んだ。




