⑤ 在庫
商売を止めた最初の週は、時間が余った。
余った時間の使い方を、のんは知らなかった。知らないまま、月曜にトランクルームへ行った。借りている一番小さい区画に、衣装が三十七着と、機材の箱が六つ入っている。在庫は自分で持つと言った以上、数は把握しておく必要があった。
蛍光灯の下で、一着ずつハンガーを送りながら数えた。
半分は、もう着ないサイズの子のものだった。辞めた子。移った子。連絡先が変わって、それきりの子。衣装だけが残っている。返す宛てのない衣装は、在庫と呼ぶのか、忘れ物と呼ぶのか。帳簿の上では在庫だった。帳簿の上では、なんでも呼び方が決まっている。
三十七着のうち、四着に、覚えのある匂いが残っていた。防虫剤の奥の、ファンデーションと汗の混ざった、人間の匂い。誰の衣装かは、匂いでは分からなかった。前は、分かった気がしていた。気がしていただけかもしれない。どちらだったのか、確かめる方法はもうない。
機材の箱の一つから、初期の頃のレフ板が出てきた。銀色の面に、折り癖がついている。安物で、買い替えてからも捨てずにいた。捨てなかった理由は、覚えていない。
夕方、トランクルームを出て、コンビニであんまんを買った。イートインの隅で食べていると、窓の外を、衣装ケースを引いた女の子が二人、通っていった。どこかの現場の帰りらしかった。笑いながら、スマホを見せ合いながら、信号を渡っていく。
のんはあんまんを最後まで食べた。
食べ終わってから、手の中の包み紙を、小さく畳んだ。




