⑨ 流れてこない
その日も、日中の仕事は普通に回した。予約表の突き合わせ。入金の確認。新しく入った子の体調確認に、絵文字つきの返事が来た。手帳には、いつもの記号で、いつものように書いた。
深夜、あたしはりあのアカウントを、最初から遡った。
表のアカウントは、最後のポストまで明るかった。撮影楽しかった、の定型。新しい衣装の自慢。学食の日替わりの写真。《大事に着ます》。最後の一件は、消える三日前の日付で、《またお知らせします!》で終わっていた。お知らせは、来ていない。
いいねの数だけが、時系列で見ると正直だった。秋の頭までは三桁で、山を作って、そこから先は坂だった。文面の明るさは一定なのに、数字だけが先に去っていく。読みながら、あたしは画面を二回、上に戻した。見落としたのではない。見落としたと思いたかっただけだった。
最後のポストの日付を、手帳で引いた。その日のあたしの欄には、単価改定の丸が三つと、「請求書再発行」とあった。忙しい日だった。忙しさに、落ち度はなかった。落ち度のない日々を並べていくと、この秋になる。
スクロールしながら、気づいた。
この明るいポストたちを、自分のタイムラインで見た記憶が、途中からない。フォローは、し続けていた。外していない。設定も、触っていない。なのに、りあの投稿は、消える日よりずっと前から、あたしの画面には流れてこなくなっていた。
数字が落ちた子は、いなくなる前に、見えなくなる。
順番が、そうなっていた。誰かが決めた順番ではなかった。ただ、そうなっていた。誰も決めていないことが、いちばん取り消しにくいということを、あたしはこの秋に何度も確かめている。
もう一つの、裏のアカウントのことは、業務で知っていた。あたしはそれを、月次の報告で「ケア対象」のフラグとして処理していた。ケア対象、メンテ推奨。フラグは二種類で、りあは秋から、二つ目のフラグがついていた。
同じ投稿を、あたしは初めて、フラグを外して読んだ。
内容を、誰かに説明することはできない。説明できる種類の文章ではなかった。ただ、見る人が見れば分かる種類の投稿だった。見る人が見れば、分かったのだ。あたしは見ていた。見て、フラグをつけて、報告書の行にして、送信していた。月に一度、決まった書式で、決まった宛先に。
読んでいたのに、読んでいなかった。
読まれた先で、投稿はケア方針の材料になった。彼女の言葉を最後まで読んでいたのは、彼女に値札をつけていた側だけだった。
スマホを置いて、天井を見た。天井には、何もなかった。隣の部屋で、弟が寝返りを打つ音がした。
今さらだった。今さらであることと、やらないことは、別の話だった。あたしはもう一度スマホを取って、りあの裏のアカウントをフォローした。それから通知の設定をオンにした。ベルのマークは、押すと色が変わるだけで、音はしなかった。




