③ 呼び出し番号
十月の半ば、一度だけ、りあのクリニックに付き添った。
付き添いといっても、待合に座っていただけだ。りあが「一人だとちょっと」と言ったのは初めてで、初めてだったから、行った。
雑居ビルの三階。エレベーターを降りると、ドアには診療科目の看板がなく、白いプレートにアルファベットの略称だけがある。中は明るくて、きれいで、生活の匂いがしなかった。観葉植物は本物。雑誌は最新号。壁の時計は、静音。整えられた部屋は、整えた意図の分だけ、どこにも似ていない部屋になる。
受付には、見覚えのある子が座っていた。量販店のシャツの、医大生のバイトの子。あたしの顔を覚えていて、会釈が営業の角度で揃っていた。
「保険証は使わないので、番号でお呼びしますね」
りあは慣れた手つきで問診のタブレットを受け取り、慣れた速さで打ち込んだ。打ち終わると、番号札を渡された。十七番。
待合では、誰も名前で呼ばれない。
十五番の方、どうぞ。十六番の方、お会計です。番号は等間隔に呼ばれて、呼ばれた側は静かに立つ。プライバシーへの配慮です、と受付の子が言った。配慮なのだろう。配慮の形をした運用は、待合から名前を消して、部屋を静かにしていた。静かな部屋で、隣のりあはスマホを見ていた。表のアカウントの、返信の欄を、上から順に。
「十七番の方、どうぞ」
りあは立って、振り返って、小さく笑った。
「すぐ終わるんで」
すぐ終わった。十五分で出てきて、会計は三分で、白い紙袋を受け取った。紙袋には、店の名前も薬の名前も印刷されていなかった。
帰りのエレベーターで、りあは言った。
「ここの受付の人、感じいいですよね。番号なのに、顔覚えててくれるんですよ」
「……そうだね」
番号で呼び、顔を覚える。二つは両立する。両立させているのがあの子のバイトで、あの子は多分、時給の内訳を考えたことがない。一階に着いて、ドアが開いて、外は普通の夕方だった。りあは駅までの道で、次の衣装の話をした。楽しそうだった。楽しそうな話を、あたしは相槌で運んだ。運びながら、無地の紙袋が、りあの鞄の中で音を立てないのを聞いていた。




