⑥ 退会届
三好が会議を休むのは、二回目だった。
一回目は課題、二回目は連絡なし。連絡なしは、三好には珍しかった。説明会で入ってきた頃から、この子の連絡はいつも三行で、用件と理由と謝辞の順に並んでいた。議事録の清書を任せるようになったのは、その三行を見てからだ。
炎上が始まってから、会議の出席は四人になっていた。四人の会議は、六人の会議より静かで、静かな分だけ、発言の間に椅子の軋む音が入った。
週明けの昼、学食の前で三好と会った。
正確には、会いかけた。三好は鳳を見て、トレイを持ったまま半歩迷い、それから知らない人の顔で通り過ぎた。半歩の迷いの分だけ、知らない人になりきれていなかった。鳳は呼び止めなかった。呼び止めて、何を言わせるつもりだ、と自分に訊いたら、答えがなかった。
三日後、部屋のドアの下に、封筒が差してあった。
退会届。様式は、団体の書式のままだった。書式を守って辞めていくところが、三好だった。便箋が一枚、添えてあった。就職活動が本格化するため、とあった。その下に、一行だけ、書き足されていた。
《鳳さんの言っていることは、正しいと思います。》
正しい、の三文字を、鳳は長いこと見ていた。
正しいと思う人が、辞める。間違っていると思われて叩かれるより、その方がずっと、深いところに刺さった。正しさは、ついてくる理由にならない。ついていくには、正しさの他に、安全が要る。三好には就活があり、就活には検索される名前があり、名前は団体の名簿に載っている。載っている名前を、外す。それだけのことを、彼女は書式どおりにやった。
鳳はノートを開いて、日付と、「退会 一名」と書いた。
名前は、書かなかった。様式の相手の欄を空けたまま、次の行動の欄に「受理」と書いた。空欄と受理の二語が、その日の記録の全部だった。感情の欄がない様式でよかったと、初めて思った。
封筒は、鞄の内側に入れた。
七月祭まで、あと四日。




