⑩ 止めた針
日曜の予約は、三件とも普通に終わった。
月曜、大学。語学の小テスト。火曜、顔合わせ一件、通した。水曜、雨で屋外の下見が流れて、部屋で衣装の検品をした。検品は、いつもより時間がかかった。針を持つ手を、途中で三回、止めていたからだ。止めた理由は数えなかった。数えると、増える。
例の客の枠は、空けたままにしてある。空けた枠は予約表の上で白く、白いままの四角を、のんは毎朝一度だけ見た。見て、閉じた。
木曜、着る側の子から相談が来た。別の斡旋の話が来ているが、条件を見てほしいという。条件は悪くなかった。悪くない条件の裏を三十分調べて、仲介者の評判の悪さを見つけて、やめとき、と返した。
《のんさんに聞いてよかったです。ほんと、のんさんって親切》
親切。画面の中の三文字を、のんはしばらく見た。親切でやっているのではない。よその管理の粗さは、まわりまわってこっちの相場を下げる。それだけの話だ。それだけの話に、礼を言われる。礼は受け取っておいた。受け取っておくのも、仕事のうちだった。
金曜の夜、シャワーの後で、手首を見た。何もない。何もないことを確認する回数が、今週は多かった。確認は、一秒で終わる。終わった一秒の分だけ、何かが減った。減っているものの名前を、のんは探さなかった。名前をつけると、在庫になる。
土曜の朝、七時に起きた。機材の充電を確認して、予約表を紙に書き出した。書き出した紙の、白い四角は今週もそのままで、その隣の枠から、順番に埋まっていた。埋まっている方から、順番にやった。




