⑧ 物差し
十一時を過ぎてから、帳簿を開いた。今週の分を締める。
4/6 個撮90 15,000 場代3,000 4/9 紹介2名 4,000 4/13 個撮120 24,000(指名4,000込み) 4/16 場代のみ 3,000
電卓は使わなかった。使うまでもない桁だった。
締めてから、市場調査に移った。客の側の掲示板は週に一度、決めた曜日にだけ読む。仕入れと同じ扱いだった。
スレッドには、学校名と、衣装の系統と、数字が並ぶ。「衣装9 愛想8 また行く」。採点の行に、書かれている側の名前はない。店の名と系統と数字で、話は通じている。
掲示板には過去ログが残っている。SNSが来るより前の分まで、一度だけ遡ったことがある。書式は古かった。並んでいる項目は、同じだった。顔、体、年齢、愛想、衣装。物差しは、一本も入れ替わっていなかった。
書いている側を、怪物だと思ったことはない。会えば、たいてい声の小さな人たちだった。
スクロールの速度は変えなかった。笑いもしなかった。相場の変動と、伸びている衣装の系統と、飽きられかけている系統。手帳に三行、書き写した。
受信箱に、常連からの依頼が一件入っていた。文面は今夜も丁寧だった。時候の挨拶、前回の礼、衣装の指定——古いゲームの、のんが生まれる前に設計された少女。参考画像が三枚、角度まで揃えて添えてある。衣装の考証への注文は細部まで行き届いていて、着る人間への注文は一行もなかった。
当日、彼はのんをあの少女の名前で呼ぶだろう。九十分、完璧に演じる。九十分のあいだ誰も自分を見ていないことを、のんは正確に知っていた。
見積もりの返信を打った。それから帳簿に一行、書き足した。
4/19 個撮90(予約) 24,000




