③ 学食のうどん
学食で、和真に捕まった。
「花村さんだ。ねえ、うどんのかき揚げって載せるべきだと思う?」
「知らない」
「俺は載せる派なんだけど、悠介が載せない派で、二年間この議論が終わってない」
高校から同じ大学に流れてきた顔ぶれは、数えるほどいる。和真はその一人で、議題の水準が一ミリも変わっていなかった。変わっていないことに、悪い気はしなかった。悪い気がしない自分に、少しだけ驚いた。
二つ離れた席で、悠介が黙ってかけうどんを食べていた。高校のカメコ部にいた子で、いまはのんの撮影を請けている。テーブルの上に、レンズのカタログが開いてある。
「来月の土曜、二枠ね」とのんは言った。「詳細は今夜送る」
「ん」
悠介は頷いて、うどんに戻った。仕事の話は三秒で終わる。三秒で終わる相手だから、二年続いている。
「てかさ、花村さん、最近有名すぎない?」
和真が箸を振った。
「バイト先の後輩がフォローしてるって。フォロワー、何万とかって」
「そんくらい」
「すごいなあ。俺、まだ十二人だよ。二年で二人増えた」
「増えたんだ」
「増えた。二人とも母さんの知り合い」
笑いが、思ったより普通に出た。営業の笑いではない出方をしたのが、自分で分かった。和真の前では、数字の話が数字の話にならない。フォロワー十二人の男の前で、何万は、ただの「多いね」だった。多いね、で済む場所は、いまののんの生活の中で、この学食のテーブルくらいしかなかった。
「そういえば月影先生、教師辞めたんだって。いま、うちの図書館にいるらしいよ」
「ふうん」
「ふうんて。地毛登録の恩人じゃん」
のんは返事の代わりに、うどんの残りをすすった。四年前の名前は、四年前の距離に置いておく。
「あ、そうだ。前の高校の文化祭ってさ——」
和真の話は、先生から文化祭に飛び、文化祭から購買のパンの値上げに飛んだ。のんはうどんを食べ終わるまで、飛び先に付き合った。午後の顔合わせの時間が近づいて、立ち上がると、和真は「おつー」と手を挙げた。
食器を返す列で、振り返ると、二人はまだ議論を続けていた。かき揚げを、載せるか、載せないか。二年もつ議題の平和さだけが、トレイの上から動かなかった。




