第9話 薬用石鹸の殺菌力
お風呂は家族のコミュニケーションツールの一つである。
正直なところ、一人でゆっくり入りたい。
だが、子供は一人では入れない。
そして成長すれば、今度は一緒に入る機会そのものがなくなってしまう。
ならば入らねばなるまい。
今しかない時間なのだから。
その思い出もまた、プライスレスである。
ピンコーン、ピンコーン。
交代の合図だ。
我が家のお風呂システムは、先ず妻と子供達が入り、妻が上がるタイミングで私と入れ替わる。
『お父さんがきたー』
『たー』
お風呂場に行くと、子供達が洗面器いっぱいに泡を蓄えている。
息子は私の掛け湯から泡を守るように、洗面器に覆い被さっている。
宝物を守るドラゴンのようだ。
邪魔である。
『はい、泡遊びはお終い。お父さん体洗うからお風呂入って』
そう言って息子を湯船に入れ、バブ子は泡を洗い流し、妻に引き渡した。
おもちゃを浮かべて遊ぶ息子を横目に、体を洗う。
世の中には多種多様なシャンプーやボディソープがあるが、私の洗浄用品は薬用石鹸だ。
頭髪のない私にはこれ一つで十分なのだ。
石鹸を頭に擦り付け、ゴシゴシと洗う。そしてそのまま直石鹸で体を洗う。
因みに頭を剃るようになってから、体毛もなるべくだが剃っている。
頭だけツルツルなのは、どうにも収まりが悪い。
全体の統一感というものが大切なのだ。
誰に見せるわけではないが、私なりのエチケットだ。
『お父さん、身体洗うならあれ使って』
息子がボディタオルを指差す。
『どうして?』
『お父さんのおちんちんを洗った石鹸を使いたくないから』
息子は、私の「息子」に対して、あまりにも手厳しい陳情を申し立てたのであった。
『大丈夫、薬用石鹸だし』
私はそう言って、ゴシゴシと石鹸を踊らせた。殺菌力への絶対的な信頼である。しかし、息子は引き下がらなかった。
『おかーさん!おかーさん!』
『なに?』
息子に呼ばれ、妻が顔を出した。
『お父さんが!』
事情を聞かされた妻は、あまり気にする感じではなかったが、息子の手前でもあり母親として注意を促してきた。
『直洗は嫌かな』
『えぇ……今更?』
私は二人の判決を苦々しく受け止め、そのまま直洗を続けた。
そもそも、私以外はボディソープを使っているし、頭もシャンプーではないか。
後日、息子が義母と電話で楽しそうにお喋りをしていた。
『お父さん、石鹸で直接おちんちん洗うんだよ』
『えぇ……本当に?』
『嫌だよね〜』
漏れ聞こえる話の内容に背筋が凍る。
あやつ余計な話を……
息子はお話が大好きだ。
色んな話を見聞きし、それを教えてくれる。
保育園の先生方も、『息子ちゃんの言うことだし』と何故か太鼓判を貰う。
我が息子よ、お父さんは心配だ。
まさかとは思うが、保育園の先生とかに言ってないよね……




