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第4話 父、迷う

『今日はイオンで眉毛カットに行ってくる』

妻がそう私に告げた。

『それなら皆んなで行って、イオンで晩御飯食べようよ』


夕食作りをキャンセルしたい私は妻に提案し、家族四人でイオンモールへ向かった。


眉毛カットの時間までにあらかた買い物を済ませた妻は、ベビーカーと荷物を私に預けた。


0歳の娘はベビーカーに座り、週末で混み合うモールを興味深そうに眺め、5歳の息子は、所々に設けられたキッズスペースに心を躍らせていた。


『お父さん、あそこで遊びたい』

『あっちの方が広いよ』

妻が向かった店に近いキッズスペースへ誘導した。


『行ってくる!』

目的の場所へ着くと、息子は意気揚々と遊びに行った。

大勢の子供たちに混じって遊ぶ息子を眺めながら、一人でもあんなに楽しめるのだなと感心した。

かくいう私は、四人兄弟の末ということもあり、あまり一人で遊んだ記憶がない。


息子の遊ぶキッズスペース近くのベンチに座り、ベビーカーを揺らしながら待っていると、娘が退屈したのか、急にぐずり出した。

変わり映えのしない景色に飽きたのだろう。

息子に声を掛けた。


『ハブ子が泣き出したから、お散歩しよう』

『やだ、もっと遊びたい』

予想通りの返事が返ってきた。

『お願い』

『嫌だ』

『じゃあ、お父さん周りを回ってるから、ここから動いちゃダメだよ』

『わかった』


ベビーカーを押しながら、息子が見える範囲をグルグルと移動した。

息子は時折こちらに視線を向け、私の居場所を確認していた。

流石はマイサン、聡い子である。


親馬鹿っぷりを発揮している間に、通路の人混みが増えた。私は通行人の邪魔にならないよう、一瞬だけ物陰に避けた。

この一瞬が明暗を分け、見事に息子を見失った。


慌ててキッズスペースへ戻るが遠目に見ても、息子の姿が確認できない。

いや、さっきまでいたやん。何でいない。

ドンドン近づいてくるキッズスペース。

しかし息子の姿はない。

ようやく見渡せる場所に辿り着いた私は、全身から冷や汗が湧き出た。

どこへ行った……


辺りを見渡し、息子が靴を脱いだ場所に行った。

靴がない。


時計を見ると妻のカット時間が終わる時間だ。

妻に電話をかけた。

……

……

……出ない

『どうしたん?』

眉毛が綺麗になった妻がそこにいた。


妻に状況を説明すると、妻は目を見開き、すかさず携帯を取り出した。

妻は日頃から、子供を連れ歩く時は必ずAirTagを持たせている。


妻エモンの秘密道具だ。


息子の聡さは私譲りだと思っていたが、この状況を見る限り危機管理能力は完全に妻譲りである。

『わっ!何これ!』

携帯を見る妻が驚きの声を上げた。

『なになに!どうしたん!』

『何か凄いスピードで離れていく』

『えぇっ!!』


妻の携帯を覗き込んだ。私はもう気が気でない。

何でこんな早いねん。


妻と二人で離れていく点を急ぎ足で追いかける。しかし一向に追い付かない。


『これ子供の足の速さなんか?』

そういって私の脳内は、Youtubeに時折流れる誘拐事件を再現した。

パニックである。


息子を追いかけ続けていると、妻が声を上げた。

『止まった!』

妻の画面上に映る点が止まり、私達はようやく追いついたのだ。

……

……

……いない

『待って待って!』

妻が声を上げる。

『なんか逆走してる!』

AirTagの点は私達を通り過ぎ、元来た道を進み出した。

下に降りてたのか。


私達は3階に、息子は2階に。

これだと見つかるはずもなく、私を見失った息子がわざわざ下の階に移動するとは想像できなかった。

私達は再び、来た道を引き返した。


AirTagの点を追いかけ、上りエスカレーターの前に到着すると、不安な顔をした息子が安堵の色を浮かべこちらへ向かってきた。


彼は額にびっしりと汗をかいていた。必死に私達を探していたのだろう。


後に息子は言った。

『お父さんが迷子になったから探したんやで』


私は思う。

息子よ、お父さんは人生に迷ってはいるけど、イオンモールではたまにしか迷わないぞ。

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