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第3話 シンガポールの聖獣

『熱は何度?』

『40度あるわ。解熱剤入れる』

妻はそういうと、冷蔵庫に保管している解熱剤を取りに行った。


息子が熱を出してから二日。

一向に下がらない熱を解熱剤で凌ぐ日が続いている。

幸い、熱が三十八度台になれば、ゼリーやバナナを食べることができた。


保育園でも、発熱でお休みしている園児が多く、息子も例に漏れず熱をだした。

前日までは元気に走り回っていたのだが、こればっかりは中々読めない。


熱を出したのが、土曜日の夜。運悪く今週は祝日があり、病院に連れて行けるのが火曜日だった。


『ポカリ飲みたい』

『はいはい』


マグマグに入れたポカリを飲み、再び眠りについた息子を妻と二人で見つめ、お互いに眉を八の字にした。


『しんどそうやね』

『保育園でお休みが増えてるってお知らせがあったから、嫌な予感はしてたのよね』


そうなのだ、集団保育という運営上、そこに預けられる子供達は常に病原菌の異文化交流会を行い、最近よく耳にする多様性を享受しているのだ。


一人が持ち込んだ風邪は瞬く間に共有され、数日後には各家庭へと配分される。


予防接種が必要な感染症やただの風邪もあれば、鼻風邪から起こる中耳炎などこの時期の子どもの病気はコンビニの新商品並みに続々と追加される。


子供の健康を祈る様に見守りながら、高速で減っていく有給休暇残にハラハラしているのが小さな子を抱える親の実態だ。


『ゼリー食べる』


解熱剤が効いてきたのか、深夜突然目を覚ました息子が食欲を訴えた。


少しでも何かを食べてくれることに安堵した私と妻は、吸い口が付いているドリンクゼリーを渡した。


息子はそれを半分くらい飲み終えるとまた布団に潜り込んだ。


寝息を立てる息子を見つめ、私たちも眠りについた。

明日には熱が下がりますように。


息子は私の横で寝ることが多い。こういう病気の時も良くはないのだろうが一緒に寝ている。しかし、私はこの後に起こる惨劇をまだ知らないでいた。


『……吐きそう』


息子が呟いた。

私と妻はすぐに飛び起きる。


『洗面器取ってくる!』

妻が言う。

『もう出る……』

『トイレまで我慢して!』

妻が子供を持ち上げた。

出遅れた私は二人のやり取りの邪魔にならないよう、うつ伏せで待機した。

妻が子供を抱え、私を跨ごうとした時、息子が嘔吐した。


その瞬間、頭上から吐瀉物が降り注いだ。もし、頭の上にマーライオンを飼っていたら、こんな眺めなのだろうか。

いや、知らない。

知りたくもない。

私は悲鳴をあげた。


その後のことはあまり覚えていないが、シャワーを浴びている間に妻が片付けをしてくれていた。


息子は火曜日には熱が下がり、念のため病院にいくと、胃腸炎と診断された。


妻から診断結果を聞いた翌日、胃腸炎で寝込む私がいた。


感染源には心当たりがある。

我が家に住まうシンガポールの聖獣だ。

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