第13話 天使は夜更けに銀輪を漕ぐ
『〜〜〜〜〜』
はじまった。
闇を引き裂く咆哮が部屋一面を包んだ。
夜泣きである。
『よーしよし。お父さんはここですよー』
娘を引き寄せ、お腹の辺りをポンポンと一定のリズムで叩く。
叩く?何だか物騒だ。
言い直そう。
娘を引き寄せ、お腹の辺りを一定のリズムでポンポンする。
夜泣き。
子育て家庭における深夜の定番イベントである。
妻は子供を寝かしつけ、自分も仮眠を取ると夜な夜な後回しにしていた作業を始める。
しかし、子供の母察知能力は伊達ではない。
すぐに気付き夜泣きが始まる。
私は変わらず一定のリズムでポンポンを続ける。
娘は泣き止まない。
ポンポンをする。
しかし泣き止まない。
粘り強くポンポンする。
だが泣き止まない。
若干イライラしながら、ポンポンする。
やっぱり泣き止まない。
何故妻はこの惨状を前に無視を続けられるのか?あなたが横でポンポンすればものの5分で寝付くではないか。
しかし私はその苦言を思いはするが、口に出したことは一度もない。
お互い共働きだからだ。
娘を寝かしつけられないのは、自分の力不足であって妻のせいではない。
言ってはいけない。
言えば終末のラッパが鳴り響く。
ひたすらポンポンを繰り返す。
リズムが悪いのかと、不規則リズムでポンポンもやってみる。
これは逆効果だった……
一向に泣き止まない娘を前に、私は途方に暮れる。
スースーと寝息を立てる息子。
息子よ、お前凄いな。
妻の訪れる気配はない。
泣きながら寝返りを打っていた為か、娘から掛け布団が外れた。
まだ春先だ、夜は肌寒い。
風邪を引いては大変だと、布団を掛け直す。
この親心溢れる父の所作を拒絶するかのように、娘は泣きながら布団を蹴った。
蹴る。
蹴る。
さらに蹴る。
まるで自転車を漕ぐように、両足が忙しなく回っている。
しかし、娘よ。君が風邪を引いては困るのだ。
再び布団を被せる。
娘はサイクリングする。
布団を被せる。
サイクリングする。
もはやポンポンどころではない。
この終わりの見えない攻防に、私は徐々に苛立ちを隠せなくなっていた。
さっきまで天使に見えていた娘が、今はひっくり返った昆虫にしか見えない。
『バブちゃんどうしたの。お母さんいるよ』
妻がきた。
やっときた。
救世主だ!
メシア!
妻が娘を颯爽と掻っ攫い、添い寝をはじめると、今までの夜泣きが嘘のように鎮まった。
何だこれ。
私の努力は何だったのか。
拍子抜けした私は、寝息を立てる息子を引き寄せ、布団を被せた。
突如、息子の足が忙しなく回転した。
布団が宙を舞う。
天使は夜更けに銀輪を漕ぐ……
書き終えてから、ポンポンではないなトントンだなと思いましたが、ポンポンの方が響きが可愛いので修正してません。
よろしくお願いします!




