第11話 最大の欠点
『切れる、切れるぞ。うわっはっは』
包丁が届いた。
注文してからおよそ半年。
念願の包丁が届いたのだ、注文当初は一年待ちだったが、思いの外早く届き、その切れ味に私は感動していた。
本格鍛造の完全受注生産。
何という業物。
最大の欠点は"切れすぎる点"とは、よく言ったものである。
サクサク切れる包丁で食材を切っていく。
妻と息子が帰ってくるまでに下拵えが終わりそうだ。
快適。実に快適だ!
切れ味。そう、味なのだ。何かの動画でみたが、切れ味は"味"なのだ。切れない包丁より切れる包丁の方が料理は美味しくなるのだ。ふははははー。
『うわっはっは、うわっはっは。うわっ……あっ』
手が滑った。
包丁が宙を舞う。
私の手にしていた斬鉄剣が、足元目掛けて落ちていく。
数多の食材を切ったであろう名刀は、足を掠め、フローリングの床に突き刺さった。
その出立ちは、引き抜かれることを望まぬような英雄譚に出てくる聖剣さながらである。
…
…
包丁だけど。
真っ先に包丁の無事を確認し、床から聖剣を引き抜いた。
届いて早々に、切先が折れでもしていたら。立ち直れそうにない。
やれやれと聖剣をまな板に置き、なんだか湿っぽさを感じ足をみる。
私の右足は真っ赤だった。
『うわっ…あれ?あんまり痛くない』
慌ててキッチンペーパーを傷口に当てた。
『たーだいまー』
『ただいまー』
二人が帰ってきた。
なんとタイミングが悪い。
『お父さん!足から血が出てる!』
『どうしたんそれ!』
二人が声を上げる。
私は床に刺さった聖剣の話をした。
『怖っ!足大丈夫なん?』
『痛くないよ。ただ血が止まらん。悪いんやけど、床拭いてもらって良いかな』
止血中で動けない私の代わりに妻は床を拭いた。
幸い血はほどなく止まり、傷口にハイドロ絆創膏を貼る。
『結構切れてたね』
『掠った程度やから、そこまで深くないと思ってなかったけど、さすが斬鉄剣やな』
『エクスカリバーじゃないんだ』
『見た目が和風やしねー』
英雄譚やら聖剣やらと言い散らかした私が言う。
『凄い切れるよあの包丁』
『私は怖いから、今までの切れない包丁で良いや』
『鋼やからちゃんと拭かないと錆びるし、それが良いかもね』
妻が斬鉄剣を使わないことに少し安堵した。
あの包丁は私専用なのだ。
誰にも、誰にも触れさせはせんぞ……
『寄らば斬る』
そう言いたげに、斬鉄剣は銀色の刀身を怪しく光らせていた。
後日、久しぶりに包丁を買ったサイトをみたら、八年待ちになっていました。
流石に待てないかな……




