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「これなら死んでいた方がましだったわ」


 トカゲ姿のままのリリーは絶望的な気分になりながら城の天井を逆さになりながら歩く。

 言葉も通じない、誰にも認識してもらえず大きなトカゲになるぐらいなら死んでいた方が楽だった。

 リリーは大粒の涙を流しながら当てもなく歩き、ふと見降ろすとアルヴェインの執務室の前に来ていた。

 ダメ元でアルヴェインにも事情を話してみようとリリーはドアの隙間から部屋へと入る。


 部屋の中には机に座っているアルヴェインと執事のフェルナンがソファーに座っていた。

 ソファーの前の机には大量の書類が積み上がっておりフェルナンはゆっくりと確認をしている。


(何の書類かしら)


 天井を歩きながらリリーはアルヴェインの真上で止まる。


 空っぽのワインボトルをじっと眺めているアルヴェインにリリーは驚いて声を上げた。


「それ、私が殺されたときのワインでしょう!」


 リリーの大きな声にアルヴェインがビクリと辺りを見回す。


「どうしました?アルヴェイン様」


 あたりをキョロキョロしているアルヴェインをフェルナンが不思議そうに声を掛けた。


「今、女の声が聞こえなかったか?」


「何も聞こえませんでしたよ」


 フェルナンに言われてアルヴェインも頷いた。


「空耳か」


(まさか、私の声が聞こえているのかしら)


 リリーは願いを込めてアルヴェインに話しかけた。


「アルヴェイン様、聞こえますか!」


 アルヴェインは周りを見回して声を上げる。


「やはり聞こえる。女の声だぞ」


 不思議そうに周りを見るアルヴェインを冷めてためでフェルナンは見つめた。


「最近お忙しいから、幻聴が聞こえるようになりましたかな?」


「幻聴ではない!確かに女の声だ!……あの死んだリリーという侍女の声に似ていたな」


 呟いたアルヴェインにリリーはやっと声が聞こえる人に出会ったと手を上げて喜んだ。


「嬉しい!聞こえるんですね!アルヴェイン様!」


 両手を上げたひょうしにトカゲ姿のリリーはアルヴェインの机の上に落ちた。

 ドンと音を立て大きなトカゲ姿のリリーはアルヴェインの机の上に落ちる。


「うわっ、トカゲだ!」


 大きなトカゲが上から落ちてきてアルヴェインは驚いて椅子から立ち上がった。


「私です!リリーです」


 机に立てかけていた剣に手を伸ばしたアルヴェインにリリーは必死に訴えた。

 

「トカゲが話している!」


 顔を顰めて目を逸らしながらアルヴェンは剣を引き抜いた。

 その様子を見ていたフェルナンが手を上げて止めに入る。


「トカゲをこんなところで斬らないでください。トカゲや爬虫類は我が屋敷の守り神ですよ」


「ただの爬虫類だろう!気持ち悪い!」


 吐き捨てるように言うアルヴェインにリリーは必死にトカゲの姿で両手を上げる。


「うわーん。助けてください!誰にも私の声が聞こえないんです!起きたらトカゲになっていたんです!リリーです。リリーなんです」


 大粒の涙を流しながら両手を上げて大きなトカゲ姿のリリーは訴えた。

 アルヴェインは眉を潜めながらじっとトカゲを見つめる。


「幻聴にしては、ちゃんと話しているな」


「そうです!私はリリーなんです」


 必死に訴えたのがきいたのか、アルヴェイン眉を潜めながらもリリーに問いかける。


「ならばリリーである証明ができるのか」


「証明なんて……。フェリシア姫の侍女をやっていたリリーです。フェリシア姫に宝石を盗んだ犯人にされて手癖が悪いとまで言われて、そうしたらワインをがぶのみさせられて殺されたんです。私は宝石なんて盗みません!」


 涙を流すトカゲを気持ち悪そうにアルヴェルンは見つめる。


「リリーは自殺したとフェリシア姫は言っていたが」


「なんですってぇ!あの悪魔姫!ワインを飲まされて泡を吹いて倒れたんです!っていうか私はやっぱり死んだんですか?」


 トカゲのくせに人間らしく両手を合わせて涙を流している様子を見てアルヴェインは困惑の表情を浮かべる。


「……本当にリリーなのか?」

「信じてくれますか?」


 涙ながらに語るトカゲを見てアルヴェインは頷く。


「意思疎通が出来るトカゲは見た事が無いからな。それに、仕草が人間のようだ」


「ありがとうございます」


 祈るような仕草をするトカゲのリリーは一見すると可愛いがアルヴェインは顔を顰めている。


「鱗も気持ち悪いがそのトカゲにしてはデカい姿が気持ち悪さを増しているな」


「アルヴェイン様、トカゲとお話はつきましたか?それとも医者を呼びますか?」


 トカゲとアルヴェインのやり取りを見ていたフェルナンが無表情に言った。


「医者は多分大丈夫だ。死んだリリーがトカゲになって蘇ったらしい」


 額に手を置きながら疲れた様子のアルヴェインを見てフェルナンは頷く。


「さようですか。やはり医者を呼びましょうか」


「違うんです!本当にリリーなんです!私の声は聞こえないんですか、フェルナンさん!」


 フェルナンの方を向いてリリーは必死に訴えた。

 トカゲをじっと見つめてフェルナンは無表情に白いひげを触りながら頷く。


「確かにただのトカゲには見えませんね。リリーさんだというのなら、文字を書いて見せてください」


「いいですよ!アルヴェイン様、私にペンを持たせてください」


「……」


 鼻の穴を大きくして片手を差し出すトカゲにアルヴェインはインクを吸わせた万年筆を渡す。

 ずっしりとした重さにヨタヨタしながらも両手で万年筆を握って広げられた紙の上に歩いて行った。


(結構万年筆も重いわね)


 悪戦苦闘をしながらもリリーは自分の名前と、フェリシア姫に殺されたという文字を書いた。


「どうですか、信じてくれましたか」


 額の汗をぬぐう仕草を見せるトカゲを見てフェルナンは頷く。


「信じますよ。何を話しているか分かりませんが、確かにリリーさんですな。トカゲが文字を書くなんて普通は出来ませんから」


 フェルナンの言葉にアルヴェインも嫌々頷いた。


「賢いトカゲの方が気持ち悪い。リリーの幽霊が取り憑いていると考えた方が気分が楽になる」


 トカゲを見ながらも気味悪そうに顔を顰めてアルヴェインは呟いた。



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