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「泣いたら喉が渇きました。水を頂けますか」
疲れた様子の大きなトカゲを見てアルヴェインは仕方なくコップに入れた水を差しだした。
人間用のコップは大きいが立ち上がれば飲めないこともない。
リリーは後ろ足で立ち上がりコップのふちに手を掛けて頭を入れた。
長い舌でペロペロと水を飲む。
(舌までトカゲになっているわ。私の体どうなっちゃっているの)
絶望的な状況に、水を飲みながら涙が出てくる。
「水を飲む姿も気持ち悪いな。トカゲが飲んだコップなんて使えないから後で処分しておいてくれ」
アルヴェインの言葉にリリーは両手を上げて抗議する。
「酷いですよ!アルヴェイン様、私だって好きでこんな体になったわけじゃないです」
「わかっているが、トカゲや蛇などの爬虫類は一番嫌いなんだ。俺に近づかないでくれるか」
「無理です。今話が出来るのはアルヴェイン様しか居ないんです!アンナの所にも行ったけれど箒で叩き殺されそうになるし、女中さん達も銀のお盆で殺されそうになるし、最悪の事態なんです」
力説するリリーにアルヴェインは愛想笑いをして頷く。
「なるほど。女中たちの気持ちは理解できる。リリーの今の姿はトカゲにしては大きく気持ちが悪い」
「そんな酷い事を言わないでください。私、全身を見ていないんです。鏡で見せてください」
リリーの願いにアルヴェインはフェルナンに持ってこさせた手鏡を机の上に立てかけた。
鏡に映ったトカゲの姿をまじまじと見る。
ザラザラの金の鱗に腹は蛇のように白くなっている。
自分の顔を見てやっぱりトカゲになったのだと真実を突きつけられて大きなため息をついた。
「私はもう、人間に戻れないんですかね」
鏡を見て落ち込んでいるリリーにアルヴェインは首をかしげる。
「幽霊になってトカゲに取り憑いているんじゃないのか?どうせなら可愛い猫に取り憑けばいいものを」
アルヴェインに言われていリリーは首を振った。
「取り憑いたという感じではなさそうです。気づいたらトカゲになっていたので生まれ変わりみたいな、そんな感じです。自分の意志でトカゲになったわけでもないし、出ていくこともできません。私は本当に死んだんですか?これは悪夢ですか?」
「悪夢の方がはるかにましだな。リリーは宝石を盗んでフェリシア姫に迷惑をかけたと言って罪を償うために自殺したそうだ。リリーの死体を確認したが確かに死んでいた」
「私が自ら死を選ぶなんてありえないです。フェリシア姫が宝石を盗んだくせに。王都から呼び寄せた愛人と宝石店で会っていたんですよ」
リリーが告げるとアルヴェインは驚いた様子もなく頷いている。
「愛人が複数いるという情報はあったが、まさか我が城から宝石を盗んで売りさばくとは考えられなかったな。さすがに盗人は我が家に置いておけない」
「愛人が居るって知っていたんですか?」
冷めた目を向けてくるトカゲにアルヴェインは距離を取りながら頷く。
「片田舎に閉じ込めておけば姫も大人しくなると言っていたが、王の期待は外れたな。あの女がどう過ごそうが気にならないが、我が家から物を盗むのはさすがにダメだ。下手したらよそでも盗みをされてみろ、我が一族の信頼は地に落ちるぞ」
「ですよね!早くあの悪魔を追放してください」
リリーは訴えるがアルヴェインは肩をすくめた。
「そうしたいが、証拠が無い。あの女は上手く立ち回っていてすぐに使用人のせいにするということが今回判明したな」
「私は無実です!」
にじり寄ってくるトカゲにアルヴェインはまた下がりながら頷く。
「トカゲになってまで無実を訴えたかったんだな。もう大丈夫だ、いつか証拠を掴んでフェリシア姫を追放すると約束しよう。だから成仏してくれ」
引きつった笑みを浮かべるアルヴェインにリリーは首を振った。
「どうやったら成仏できるんですか。無理です。どうにかして体に戻るか、トカゲから出してもらいたいです!」
「そう言われても俺にはできない」
アルヴェインが告げるとフェルナンは何かを思い出したように人差し指を立てた。
「アルヴェイン様、リリーさんはあのワインを飲んだのではないですか。それならば、生き返るかもしれませんぞ」
「それって何ですか?」
期待を込めて聞くリリーにアルヴェインは小さく呟いた。
「余計なことを言うな。フェルナン」
「ですが、このままですとトカゲ姿のリリーさんがアルヴェインさまにずっとくっついて離れないでしょうし、何とかなるかもしれませんぞ?」
「何かいい方法があるんでしたら教えてください。とにかくトカゲから逃れたいです」
リリーが懇願するとアルヴェインは諦めたようにため息をついた。
「代々我が家に伝わる伝説がある。確認なんだが、このワインの中身を飲んだのか?」
からのワインボトルを見せられてリリーは頷いた。
ワインラベルは確かにあの時無理やり飲まされたものだ。
「間違いないです。古ぼけたオルフェクス家の家紋が付いていましたから」
「なるほど。我が家に伝わる伝説がある、あくまで伝説だ!」
念を押すように言うアルヴェインにトカゲ姿のリリーは頷いた。
「少しでもトカゲから逃れられるのなら何でもいいから聞きたいです」
「このワインは我が家に伝わるもので仮死状態にする作用が入っている。4年に一本作るワインだ、作り方は秘伝なので聞くなよ」
「はぁ。仮死状態って言う事は私、死んでいないって言う事ですかね」
期待を込めて言うリリーにアルヴェインは渋い顔をする。
「いや、死亡している可能性が高い。ワインを飲んで泡を吹いて倒れたということなので、毒を盛られた可能性もある」
「毒……ですか」
キョトンとしているトカゲにアルヴェインは頷いた。
「秘伝のワインを飲んだら泡は吹かない、眠るように仮死状態になるらしい。毒も混ざっていたのなら死亡しているだろう。だから生き返るのは無理だと思う」
「無理かも……じゃないですよ。なんとかなりませんかね」
「毒が入っておらず、ワインの効果で仮死状態だったとしよう。仮死状態のまま蘇った人は居ないようだ」
「何ですかそのあやふやな情報は。そもそも仮死状態とはなんですか」
冷たい目を向けてくるリリーにアルヴェインは肩をすくめた。
「死なないといけない状況になったり、本当に死んでも仕方ない状況の時だ」
「そんな時あります?」
リリーが叫ぶとアルヴェインは頷く。
「確かにそんなことをはあまり無いな。無いからこそ、効果が解らないんだ。ちなみにこの噂を聞いた隣国の王子はワインを飲んで二度と蘇らなかった。20年前の話だ」
「最悪じゃないですか!その王子もトカゲになったんですか?」
「聞いたことが無いが……」
困惑するアルヴェインにフェルナンも納得したように頷いた。
「そうですなぁ。あの王子は女遊びが酷くて、そのせいで1回死んで全てリセットして蘇ろうとしていたんですよね。蘇らせることが出来なかったのは……」
「フェルナン、余計なことは言うな」
アルヴェインはフェルナンの言葉を途中で遮った。
「ともかく、仮死状態にしてもしかしたら蘇ることが出来るかもしれない。条件がある、死ななければならない状況になった原因が解決することだな」
「その原因が解決したって、仮死状態からわかるんですか?」
不満そうなトカゲにアルヴェインは肩をすくめた。
「そんなことは知らん。とにかく、言い伝えではそうなっている」
「じぁ、王子の女問題が解決しないと蘇らないという事ですか?」
「そうだろうな」
何か言いたそうなフェルナンを遮ってアルヴェインは頷いた。
「まぁ、こうなったらとりあえずリリーは死んでいると仮定して動こう。死んでいるが、フェリシア姫を追放すれば未練も無くなり成仏するかもしれない」
アルヴェインにどうだというように見られてリリーは不満ながらも頷いた。
「死んだことも納得できませんが、その仮定でいいです。もう、トカゲから出て成仏できればそれでいいです」




