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 アルヴェインの切り落とされた髪の毛が青白く光り輝き、棺の中のリリーの体を照らしている。

 その光景に招待客は思わず立ち上がって様子をうかがっている。


 「何ですかこれは」


 驚きながらリリーは自分の体の上に乗っていたが、急に視界が反転して真っ暗になった。

 グラグラする頭で目を開くと、アルヴェインの黒い瞳と目が合った。


「気分は?」


 短く聞かれリリーは眉を顰める。


「頭がぐらぐらします」


 多少の吐き気と口の中の渇きを感じながらかすれた声で言う。

 そんなリリーを見て招待客たちは大きな悲鳴を上げた。


「生き返った!」

「死んでいなかったんじゃないか?」

「いや、確かに死んでいた!」


 口々に言う招待客の悲鳴を聞いてリリーはまさかと思いゆっくりと自分の両手を見る。

 爪が生えたトカゲの手ではなく、人間の指であることを確認して自らの顔を触る。

 ウロコではない肌の感覚にリリーは声を上げた。


「生き返ったの?」


「そうだ。成功したようだ」


 珍しく微笑んでいるアルヴェインにリリーは頷いた。


「ありがとうございます!」


「どうも。さて、せっかく蘇ったのだ。リリーはフェリシア姫に殺されたのかな?」


 アルヴェインに問われてリリーはハッとして頷いた。


「そうです。フェリシア姫が盗んだ宝石を私が盗んだことにされて、挙句に殺されました。ワインを無理やり飲まされて!泡を吹いてそのまま死にました!」


 はっきりというリリーにフェリシア姫は顔を引きつらせながらも首を振る。


「アンタが勝手に死んだんでしょう。私のせいにしないでくださるかしら」


「いい加減にしてくださいよ!フェリシア姫は昔っから男遊びが酷かったですね!今はその中のお気に入りの男と宝石屋をやっているんです。その男の子供をフェリシア姫は身ごもっているんですよ!」


 怒りながらリリーはゆっくりと立ち上がり招待客に聞こえるように声を張り上げた。

 死んだ女性が蘇った状況を目の当たりにした招待客たちは、フェリシア姫の悪事にただコクコクと頷くばかりだ。


 反論するようにフェリシア姫も冷たい声を出した。


「いい加減なことを言わないでよ。リリーのくせに生意気よ!証拠はあるんでしょうね?どうせそんなのないでしょ?まぁ、蘇ったのならまた私の侍女にしてあげてもいいわよ。ちょうど私の身の周りを整えてくれる人が居なくなって困っていたの」


 薄っすらと笑うフェリシア姫にリリーは震えながら指を刺す。


「絶対にアンタの侍女なんてなりません。足の裏まで毎日磨かされて、愚図だ、馬鹿だと言われて耐えてきたけれど、宝石泥棒にされた挙句殺されたんですからね!」


 フェリシア姫は上品に笑った。


「うふふふっ。面白い冗談ね」


「冗談であったならどれほど良かったことか」


 アルヴェインは静かに言うと騎士団が書類を差し出してくる。


「たった今、フェリシア姫が勝手に経営をしている宝石店の店員二人を逮捕しました。我が家の宝石を他国に売った容疑です。そして、他国から毒の売買をしていた証拠もつかみました。もちろん、フェリシア姫の名前も入っていましたよ」


 アルヴェインは何枚かの書類を見せながらフェリシア姫に告げる。


「フェリシア姫が身ごもっているかどうかはお医者様に見てもらいましょう。もし身ごもっていたら、私の子ではありません。なぜなら私たちはそんな仲になったことは一度も無いからです。これは私が証明しましょう」


 フェリシア姫は唇を噛んでアルヴェインの言葉を聞いている。

 

「きっと手に入れた毒が本当に効くのか試したかったのでしょうね。結婚後に私を殺すために」


「愛するアルヴェイン様を殺す訳がありませんわ」


 笑みを浮かべてうっとりとアルヴェインを見つめるフェリシア姫の態度にさすがの招待客たちも違和感を感じて眉を潜めている。

 その様子を見てフェリシア姫は取り繕ったように無垢な顔で周りを見回した。


 普段ならば可愛い姫様と周りから言われるだろうが、招待客たちは化け物をみるような目で見つめている。

 分が悪いと思ったのかフェリシア姫はアルヴェインを軽く睨みつけた。


「フェリシア姫が愛人の男性に宛てた手紙が宝石店に保管されていました。愛人と暮らしたいや、子供の父親の事もちゃんと書いてありましたし。いつ俺を殺すかまで丁寧に書いていましたね。まだまだありますが、それは取り調べでご説明しましょう」


 アルヴェインが言うとフェリシア姫は舌打ちをする。


「あのバカ。手紙は全部燃やせと言ったのに」


 ブツブツと呟いているフェリシア姫をリリーは鼻で笑う。


「フェリシア姫様は毎回愛人からの手紙は燃やしていましたね」


「リリーのくせに生意気よ!あんたが蘇ったから可笑しなことになったのよ!」


 リリーに馬鹿にされたことに腹を立てたフェリシア姫は取り繕うことも忘れて大声を上げた。

 そのままリリーに掴みかかろうとするのを騎士団が止める。


「フェリシア姫様、暴力はいけません。王都からも事件を調べるために偉い人がやってきていますから正直に話してくださいね」


 幼い子に言うように言われてフェリシア姫は大きな騎士を睨みつけた。


「私は国王の娘よ!覚えていなさい!あんた達全員処刑台にいかせてやるから!」


 悪態をつくフェリシア姫が騎士団によって連れていかれる。

 その様子を見ていたリリーはホッと息を吐いた。


「良かった。これで私の罪は逃れましたか?」


 棺の中で立っているリリーの背を支えながらアルヴェインは頷く。


「フェリシア姫が自ら手紙で宝石を盗んだことを書いていたし、宝石を売った場所まで調査をしている。確かに我が家の宝石だった、証拠は集まっているから大丈夫だ」


「教えてくれても良かったのに」


「成功するとは限らなかった」


 リリーは棺から出ようと足を動かすが上手くいかない。

 フラフラするリリーの体を支えながらアルヴェインは眉を潜めた。


「長い間動いていなかったのだ。筋力も落ちているだろう」


 「なるほど。確かにうまく歩けません、立っているのがやっとです。それにお腹がすきました」


 リリーが告げるとアルヴェインは呆れたように首を振った。


「トカゲでも人間でも飯を要求するのか」



「リリー!生きていたのね!」


 アルヴェインに支えられているリリーの元へ両親たちが駆け寄ってくる。

 涙を流しながら喜んでいる両親に抱かれながらリリーは頷いた。


「死んだけれど生き返ったの!」


「良かったわ!リリーが辛い思いをして働いていたなんて思わなかったわ」


 喜んで抱き着いてくる母親にリリーも頷いた。

 母親の目は泣き尽して腫れている。

 どれだけ泣いたのだろうかとリリーの胸が痛んだ。


「お母さまを心配させたくなかったのよ」


「そうね。もう大丈夫よ、家に帰りましょう。みんな待っているわ」


 母親の言葉にリリーは頷く。


「そうね。実家に帰るわ」


 感動をして抱き合っているリリーの後ろに立っていたアルヴェインが首を振った。


「残念だが、リリー嬢をお返しすることはできない」


「え?」



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