25
疲労で倒れてしまったリリーは翌日両親と共にアルヴェインの執務室に居た。
死んでしまったと思っていた娘が生き返ったことを何より喜んでいる母親に撫でられながらリリーはソワソワとアルヴェインが来るのを待つ。
トカゲ姿では机の上が定位置だったためソファーに座っているのは落ち着かない。
「本当に死んだかと思ったのよ。生きていてよかったわ」
同じ事しか言わない母親にリリーもうんざりしながら頷いた。
「私も死んだと思っていたのよ。すべてアルヴェイン様のおかげだわ」
トカゲになったことを言うとややこしくなるだろうと思い死んだあとの事を思い出して辛い気分になる。
(なんだかんだ言ってもトカゲも悪くない気がしてきたわ。アルヴェイン様と過ごすことが出来たし)
一生トカゲ姿だったらそんなことを想わなかったであろうリリーはアルヴェインと過ごした日々を思い出す。
感傷に浸っているリリーを現実に戻すかのように父親が口を開いた。
「リリーはどうして家に帰れないんだ?何か理由があるのか?」
「解らないわ」
リリーが首を振る。
一体何だろうかと首をかしげていると、ドアが開きアルヴェインが入って来た。
「お待たせして申し訳ない。いろいろ処理が忙しくて」
リリーを蘇らせるために切った髪の毛は綺麗に切りそろえられているが前髪は少し長めに残してあるのでアルヴェインの印象はさほど変わらない。
(短いのも素敵だけれど、長い方が好みだったわ)
同僚のアンナは長い髪が嫌だと言っていたがリリーは長い方が闇の王のような怪しい雰囲気で好きだった。
アルヴェインはリリーたちが座っているソファーの前に腰を下ろした。
すかさずフェルナンがお茶を出す。
「あの、アルヴェイン様。私、実家に帰れないんですか?」
トカゲの姿だった時の名残が消えず、人間に戻ったことも忘れたように慣れ慣れしく聞くリリーに両親はぎょっとする。
アルヴェインは軽く笑って頷いた。
「帰ってもいいが、また死ぬかもしれん」
「はぁ?」
リリーと両親の声が重なる。
意味が解らないというような顔をしているリリーにアルヴェインは古ぼけた冊子を手渡した。
埃っぽい本はかなり古い物らしくインクが滲んでいるが何とか読める。
かなり細かく書かれている文字を読む気にならずリリーは顔を上げた。
「これなんですか?」
「我が家に伝わる生き返りの儀式を細かく書いたものだ。リリーはワインを飲んだだろう」
「はい」
「あのワインは我が家に伝わる秘伝のワインで、飲んだものは仮死状態になる。そして、手や顔に紋章が出てれば仮死状態が成功ということだ」
「はぁ」
確かにリリーの体に痣のようなオルフェルス家の紋章は出ていた。
思い出しながらリリーは頷く。
「仮死状態になった者を蘇らせる方法は昨日見た通り、当主の髪の毛が必要になる」
「確かにアルヴェイン様の髪の毛が青白く光ったら私は体に戻っていましたね」
不思議な光景だったとリリーは頷く。
「仮死状態といっても一度は死んでいることになる。リリーの体は一度死んで蘇った。オルフェルス家の力で。ということは、この家から出ると魔法が解けるというわけだ」
「魔法が解ける?つまりそれは死ぬという事ですか?」
眉を潜めているリリーにアルヴェインは頷いた。
「そのように文献には書いてある。なんせ本当に蘇ったものが居ないからわからないが、生きていたいと思うのならこの領土から出ないことをお勧めする」
アルヴェインは静かに言うと後ろに控えていたフェルナンが咳払いをした。
「アルヴェイン様、はっきりと言った方がよろしいですよ。文献には蘇らせた人物、要するにアルヴェイン様の傍を離れると死体に戻ると書いてあります」
「はぁ?私はアルヴェイン様と一緒に居ないといけないんですか?」
思わず大きな声を出すリリーにアルヴェインは不機嫌な顔をする。
「俺の傍は不服という事か」
「違います!アルヴェイン様は素敵だから一緒に居てもいいんですが、そんな不便なこと無理に決まっていますよ!私、どうやって生活をしていけばいいんですか」
「ずっと傍に居るわけではない、離れると死ぬかもしれないという事だ。ある程度は許容範囲だろう」
アルヴェインの言葉にフェルナンが頷いた。
「オルフェルス家の領土ぐらいなら問題なさそうです。ただ、リリーさんのご実家までは保証できません。そもそも、アルヴェイン様が蘇らせたという事は……」
「フェルナンそれ以上言うな!」
フェルナンの言葉をアルヴェインが止める。
リリーは眉をひそめて腕を組んだ。
「実家に帰ってゆっくりしたかったんですけど、無理ってことですね。という事は、私ここで雇ってもらえるんですかね?宝石泥棒みたいな扱いになっていますけれど」
女中達に歓迎されるとは思えずリリーが聞くとアルヴェインは複雑な顔をしている。
「それはおいおい考えて行こう」
「いや、それは困りますよ」
「とにかく、リリーが実家に帰ることは無理という事だ。どうしても帰りたいのであれば一次帰省は許可しよう。ただし、俺もついて行くことになるが」
「それは、悪いんでいいですよ。ねぇ、お父様」
リリーが振り向くと父親と母親は頷いた。
「リリーが死んでしまうなんてもうこりごりです。こちらで幸せに暮らしていければそれで十分です」
「そうね」
しんみりしている父親と母親にアルヴェインは頷いた。




