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アルヴェインはリリーの両親をチラリと見て薄く笑った。
「まぁ、面白い見世物が始まるから参加者は多い方がいいだろう」
「あの書類だけで大丈夫なんですか?」
心配そうなリリーをアルヴェインは鼻で笑った。
「問題ない」
神父がやって来たのを見てアルヴェインは祭壇の前へとゆっくりと歩いて行く。
騎士団の一人がそっと近づいてきてアルヴェインに囁いた。
「準備は出来ております」
騎士団の一人はアルヴェインが頷いたのを見て去って行った。
そしてすぐに女中がやってくる。
「フェリシア姫のご用意も出来ております」
不機嫌な顔を隠そうともせず女中はイライラした様子で告げた。
「そうか。こちらも準備が出来ている」
アルヴェインが静かに言うと女中は頭を下げて去っていく。
「フェリシア姫にかなり苦労していそうね。特に今日は主役だから注文が多そうね」
リリーが言うとアルヴェインは頷いた。
「王家からは重鎮の貴族夫婦しか出席していないが、それでもおめかしがしたいようだな。女中から文句が上がっている。数日前から無理難題を押し付けられているそうだ」
「なるほど。結局父親である王様も来なかったのね」
フェリシア姫に手を焼いていたのを思い出してリリーは頷く。
可愛い娘でもこれ以上関わりたくないという事か。
「フェリシア姫の侍女であるリリーが亡くなったことで思う事があったのだろう」
「あの姫ならやりかねいって?アルヴェイン様、いつ姫様に言うんですか」
リリーが聞くとアルヴェインは視線を入口へと向けた。
ドアが開き、真っ白なドレスに身を包んだフェリシア姫が入場してきた。
陶器のように透きとおった肌、薄いピンク色の唇、媚びるような大きな瞳を潤ませてアルヴェインを見つめながら歩いてくる。
長いドレスのスカートの裾を侍女が不機嫌な顔をして持って歩いていた。
「顔を見るのも腹が立つわ!アルヴェイン様をあんな目でよく見れるわね!私、恋しておりますみたいな!」
ケッと舌を出しているリリーにアルヴェインは苦笑する。
「まぁ、今だけだ」
アルヴェインは薄っすらと口の端を上げてフェリシア姫を迎えた。
「やっと本日を迎えることが出来ました。いい夫婦になりましょう」
ニッコリと微笑む可愛らしい姫にアルヴェインは無言だ。
代りにリリーが答えた。
「なぁにがいい夫婦よ!どうせすぐにアルヴェイン様を殺して愛人と暮らすつもりでしょう!」
煩く怒鳴るトカゲの口をアルヴェインが片手で塞ぐ。
「少し黙っていてくれないか」
「むむむっ」
まだ文句を言ってやりたいがアルヴェインに口を塞がれたら仕方がない。
落ち着きを取り戻したトカゲを一瞬だけ睨みつけてフェリシア姫は花のように微笑んだ。
「まぁ、こんな日までトカゲのペットを連れて来られるなんて。可愛がられているのね。嫉妬するわ」
「良く言うわ!」
リリーはフェリシア姫に舌を出す。
一瞬トカゲを冷たい目で見た後フェリシア姫はドレスのスカートを広げた。
「とても素晴らしいご衣裳を用意していただき感謝いたします」
「……さて、婚姻のサインの前に見てもらいたい書類がございます」
アルヴェインはそう言うと参加者を見渡した。
「なんですか?」
あどけない笑みを浮かべながら小首をかしげるフェリシア姫にアルヴェインはリリーが盗って来た書類二枚を見せる。
「これは、フェリシア姫が勝手に経営をしている街の宝石店の中で見つかった書類です。フェリシア姫単刀直入にお伺いしますが、我が家から盗んだ宝石を売りましたね」
アルフェインの言葉に参加者たちはザワザワとしだした。
フェリシア姫は顔色を変えず可愛らしく小首をかしげる。
「おっしゃっている意味が解りませんわ。宝石を盗んだのは死んだ女中ですわ、もしその宝石が売られているのならリリーだと思いますけれど」
死んだ後も罪を擦り付けるのかとリリーは怒りで言葉が出てこない。
「リリーはあなたの侍女を長年務めておりましたね。宝石が売られたのはリリーが死んだあとです。貴方が盗むように命令をしたのではないですか?」
静かに問うアルヴェインにフェリシア姫は微笑んだ。
「まさか。私もリリーがあんな酷い事をするとは思いませんでした。たまに私の持ち物が無くなることはありましたの。きっとリリーが盗んでいたんですのね」
「ほう、証拠はあるのですか?」
アルヴェインが問うとフェリシア姫は肩をすくめる。
「ありませんわ。リリーに直接聞いたことがありませんでしたし、最後にこのお屋敷から宝石を盗んだ時は謝罪のつもりで自害しましたから」
「フェリシア姫が殺したのではないですか?毒を入れたワインで……」
「まさか。リリーが毒を持っていたのです。きっといつか死のうと思っていたのでしょうね」
慈愛のこもった表情をするフェリシア姫は彼女の性格を知らない人ならば騙されてしまうだろう。
悪いのはリリーでフェリシア姫は何も知らなかったと。
アルヴェインは鼻で笑うと、部屋の隅に控えていた騎士団に合図を送る。
「リリーが死んだのを確認しましたか?もしかしたら、生きているかもしれませんよ」
アルヴェインの言葉にフェリシア姫は怪訝な顔をした。
「死んでいるでしょう?私の目の前で事切れましたわ」
「なるほど、ではリリーに直接聞いてみましょう」
アルヴェインが言うと騎士団が黒塗りの棺を数人で担いで運んできた。
フェリシア姫とアルヴェインの間に棺をゆっくりと降ろす。
「どうして持って来たんですか」
さすがのリリーも自分の体とは言え場違い感を感じて悲鳴を上げるがアルヴェインは面白そう口の端を上げた。
「演出は大切だからだ」
アルヴェインは静かに言うと膝まづいてゆっくりと棺の蓋を開ける。
顔色の悪いリリーの体が横たわっており、さすがのフェリシア姫も数歩棺から離れた。
招待客も悲鳴を上げているが、一番大きな悲鳴を上げたはリリーの父親だ。
「リリー。可哀想に」
ボロボロと泣き出している父を見てトカゲのリリーも涙を流す。
「本当私って可哀想。どうしてこんな遺体を公衆の面前にさらすんですか」
リリーの言葉を無視してアルヴェインは膝まづいたままフェリシア姫を見上げた。
「リリー嬢が生き返ってもらい、事実を証言してもらいましょう」
「何をおっしゃっているのかしら」
困惑するフェリシア姫が逃げ出さないように騎士団がさりげなく立って壁になっている。
招待客もザワザワしだしている中でアルヴェインは自信ありげに微笑むと剣を抜いた。
「蘇るかどうかは賭けですが、試してみる価値はありますよ」
アルヴェインはそう言うと、三つ編みにしている自ら長い髪の毛を握った。
抜いた剣を髪の毛に当てると一気に切り落とし棺の中のリリーの体の上にバラまいた。
「ひぃぃ、アルヴェイン様の髪の毛が私の神聖な棺に入ったじゃないですかぁ」
文句を言いながらトカゲ姿のリリーはアルヴェインの肩の上から棺の中へと飛び降りた。
「失礼だな。俺の髪の毛を気持ち悪いなどと……」
文句を言いながらもアルヴェインはトカゲを睨みつけてからリリーの右手を手に取った。
手首に出ている痣を招待客に見せるように掲げる。
「我がオルフェルス家の紋章です。紋章が出ているという事は、我が家の為に生き返るという事」
「どういうことです?」
客性に居るリリーの父親とリリーの声が重なる。
「まだ死ぬには早いという事だ」
アルヴェインはそう言うとリリー手首に浮き出た痣に唇を落とした。
招待客と騎士団が見守る中、アルヴェインがリリーの手首から唇を離す。
一瞬後、アルヴェインがバラまいた髪の毛が青白く光り輝いた。




