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 フェリシア姫とアルヴェインの結婚式当日。

 リリーは軍服の礼装に身を包んだアルヴェインを鏡越しに見つめた。

 黒い服はいつも通りだが、金の刺繍が入った上着はいつもより華やかに見える。

 黒く長い髪の毛は三つ編みにして肩に垂らしていてそれだけで雰囲気が違って見える。


「髪の毛、綺麗にまとまっていますね」


 トカゲ姿のリリーが言うとアルヴェインは不服そうな顔をした。


「普段はだらしが無い長髪男だと言いたいのか?」


「一本にまとめているのと、編み込みで三つ編みにしているのとでは雰囲気が違っているって言っただけですよ。決して普段は気持ちが悪いって言われていると言っていませんから」


 澄ました顔で言うトカゲをアルヴェインは睨みつけた。


「気持ちが悪いだと?」


「私は言っていませんし思ってもいませんよ。ただ、髪がもう少し短かったらもっと素敵なのになって言っているのは聞いたことがあります」


「俺だって好きで伸ばしているわけではない」


 ムッとした様子のアルヴェインにトカゲ姿のリリーは軽く頷く。


「そうですか」


(結局私は蘇らなかったし。本当にフェリシア姫の罪を暴けるのかしら。何も起こらなかったら両親と一緒に田舎に帰ろうか悩むわ)


 トカゲ姿で暮らしていけるだろうかとリリーが不安に思っていると、手袋をした手でアルヴェインに持ち上げられた。

 彼から触れてくることはほとんどないために驚いてリリーは小さく鳴いた。

 アルヴェインは小さく鳴いたトカゲを気持ち悪い目で見た後、肩に乗せる。


「えっ、私も行くんですか」


 まさか一緒に式場まで行くのかと驚くリリーにアルヴェインは頷く。


「本日の主役だろう?フェリシア姫が宝石泥棒だとみんなの前で暴く時の特等席だ」


 確かにアルヴェインの肩の上は特等席だろうが、結婚式に大きなトカゲを乗せている新郎なんて前代未聞だろう。

 一瞬心配したが、もうどうでもいいとリリーは頷いた。


「そうですね」


 肩の上で落ち着いているトカゲを確認してアルヴェインは歩き出す。


「フェリシア姫を城から追い出すぞ」


 小さく言ったアルヴェインにリリーが頷きドアを開けて待機していたフェルナンが大きく頷いた。


 城の廊下を歩くアルヴェインに忙しく動いていた女中たちが頭を下げて通り過ぎていく。

 その様子を見ながらリリーはアルヴェインに囁いた。


「あの人達、確かフェリシア姫のお世話係でしたよね」


「フェリシア姫の扱いが酷すぎてすべての女中で当番をまわしているようだ。担当したものは給料を日割りで二倍まで上げているがそれでも月1回で勘弁してくれと言われた」


「なるほど。私はよく頑張っていたわ。そういえばアンナはどうしたのかしら。心配だわ」


 トカゲの姿になったことで頭がいっぱいだったが、リリーが死んだと泣いていたアンナを思い出す。

 アルヴェインは頷いて小さく答えてくれる。


「田舎に帰った」


「それがいいわね。宝石泥棒なんて言われるよりよっぽどいいわよ。私なんて、その上殺されたんだから」


 毒入りワインを飲まされた日を思い出して沸々と怒りが蘇ってくる。

 フェリシア姫とアルヴェインの結婚式など出たくないと思っていたが宝石泥棒の罪だけでも暴かれるのであれば見てみたい。

 リリーは鼻の穴を大きく膨らませて息を吐きだした。


 式場は城の中にある小さなチャペルだ。

 身内だけを集めた小さな式を予定したことを思い出してリリーはまた鼻息を荒くする。


 (フェリシア姫がそんな素朴な式で良く文句を言わないものだと思っていたけれど、初めからアルヴェイン様を殺す予定なら式なんてどうでもいいわよね)


 きっとアルヴェインを殺した後に、愛人と盛大な式のような事をやるのだろう。

 

 アルヴェインはいつもと変わらない様子でチャペルの入口へとたどり着いた。

 ドアの前には騎士団が待ち構えていてアルヴェインを見ると敬礼をする。


「準備は出来ているか?」


 アルヴェインが聞くと、ガタイの大きな男が茶化したように歯を見せて笑った。


「式の準備ですか?それとも違う準備ですかな?」


「どちらもだ」


「なるほど、どちらも順調です。予定通り、街を見回りしている部隊が到着しますよ」


 騎士団の男に頷くとアルヴェインは自らチャペルの重厚なドアを開けた。

 チャペルの中は細長い木製の椅子が並べられており、一番奥に祭壇がある。

 

 招待された客が座っておりアルヴェインが入ってくるとヒソヒソと話しているのが見えた。


「とても祝っているような様子はないですね」


 アルヴェインの肩に乗ってリリーは様子を見ながら言う。


「そうだろうな。女中から姫の酷い噂が伝わっているのだろう。姫がやってくる前までは式の参加者である貴族達も好意的に見ていたようだが」


 鼻で笑うアルヴェインにリリーは頷く。


「王都でも一部の人しか噂はしていませんでしたよ。私たちが優秀だから外に漏らすことはありませんでしたし、今思うと無駄な努力でした。もっと酷い姫様だって伝えればよかったわ」


 鼻の穴を大きくして言うリリーにアルヴェインはもっともだと頷く。


「そうすれば俺も断ることが出来ただろうな。……いや、嫁が居ないから無理か」


 独り言のように言ってアルヴェインの前にリリーが良く知っている人が進み出てきた。


「あの、お世話になっております。リリーの親族の者ですが……。何かの手違いでこちらに案内をされてしまったようで。どなたに言ってもここで待つように言われているのですが……」

 

「お父様!お父様だわ!」


 リリーが声を上げるとアルヴェインは頷いた。


「間違いではありません。本日こちらで私とフェリシア姫の婚姻式があるのです。ぜひ、リリー嬢の代りに出席して行かれてはいかがかと思いまして」


「はぁ。しかし、とてもお祝いをする場所に居るのは辛いのですが」


 涙を目に溜めて困惑している年老いた父親を見てトカゲのリリーも泣きそうになる。


「解るわよ!私、お父様に姫様の事いい姫様だって伝えていたもの。本当はこき使われれたのよ!殺されたの!うわぁーん。お父様!私も一緒に帰るわ」


 ピィピィと鳴き声を上げるトカゲを見てリリーの父親は涙を引っ込めて不思議な顔をして見つめてくる。


「肩に大きなトカゲが乗っておりますが……」


「……可愛いペットだ」


 抑揚なく言うアルヴェインにリリーの父親はゆっくりと頷いた。


「変わったご趣味ですな。私は、どうも爬虫類が苦手でして……。式が終わりましたらすぐに娘を連れて帰りたいのですが」


 父親に気持ち悪い目で見られてリリーの涙も引っ込んだ。


「酷いわお父様。実家に帰りたいと思っていたけれど、無理ね」


 キーっと歯を見せるトカゲにリリーの父親はおののきながら一番後ろの席へと着席して行った。

 父親の隣にはリリーの母親の姿も見える。

 一瞬、涙が出そうになったリリーだが、母も大の爬虫類嫌いだと思い出して鼻の穴を大きくする。


「二人とも爬虫類が苦手だったのよね。酷い話だわ」


「今のリリーはトカゲにしてはデカすぎるんだ。気持ち悪い」


 相変わらずなアルヴェインの言葉にリリーはがっくりと落ち込む。


(結婚式当日でも何にも変わらないわね)



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