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「はぁ、落ち着かないわ」
リリーは何度目かになるか分からないほどのため息をついた。
執務室の机の上でうつぶせになって寝ていたリリーをアルヴェインはチラリと見つめる。
「お前が結婚するわけでもあるまい」
「そうですけど……」
明日はアルヴェインとフェリシア姫の結婚式だ。
フェリシア姫の国王は来ないとのことで代理人が数人到着して城の中は少しざわついている。
女中達は忙しく動き回り、警備の関係で騎士団も城の中を忙しく歩き回っている。
リリーがすることは特に無いが、明日フェリシア姫の悪事を暴けるのかと不安になってくる。
「明日はどうするんですか?」
アルヴェインはチラリと机の上でくつろいでいるリリーを見て軽く頷く。
「リリーが集めてきた書類を見せて悪事を吐かせる。リリーが明日までに蘇ればその口で無実を証明すれば完璧だな」
「いまだに私はトカゲのままで、とても蘇る気配すらしません。どうやって蘇るんですか?」
「さぁ」
アルヴェインは軽く肩をすくめてまた書類を確認し始めた。
仕事モードになってしまったアルヴェインにリリーはため息をつく。
(とても明日結婚する人と思えないわね)
リリーが見ている限りアルヴェインは何か行動を起こしているように見えない。
自信があるように見えるが、リリーが集めたあの二枚だけの書類で本当に大丈夫なのだろうかと心配になってくる。
(私も蘇ると思えないし。蘇ったところで私が無実を証明しても誰も信用しないかもしれないわね)
ため息をついて、リリーは仕事をしているアルヴェインを眺めた。
誰よりも近くで大好きなアルヴェインを見つめられるのがリリーの幸せだ。
(最近はそんなに嫌がらないのよね。トカゲにも慣れてくれて嬉しいわ)
あれ以来キスはさせてくれないが、肩に乗る事や近くでくつろいでいることを嫌がらなくなった。
(でもトカゲ姿だったら意味無いのよ。本当に人間に戻れるのかしら。それとも成仏するのかしら)
何度目かのため息をついているとアルヴェインは思い出したようにリリーを見つめた。
「今日の夜遅くに到着するそうだ」
「何がですか?」
意味が解らずリリーは聞き返す。
アルヴェインは無表情に告げた。
「リリーのご両親だ。亡くなったことを伝えて遺体を引き取りに来られる」
「どうして今日なんですかこんなバタバタしている時じゃなくても……。あと一週間後とかでもいいじゃないですか」
自分の遺体がどうなっていてこれからどうなるかなど気にしていなかったリリーは焦りながら言う。
「ちょっとした手違いだ。明日、リリーが蘇らなければそのまま遺体を引き取ってもらう」
「……そうですか」
(きっと蘇らなければ私は成仏するのね)
落ち込んだリリーを見つめてアルヴェインは無表情に口を開く。
「もしトカゲのままだったらこのまま飼ってやってもかまわんぞ」
「それは、ありがとうございます」
リリーはそう言ってみたものの、このままトカゲ姿で一生を終える可能性もあるのかとますます気分が落ち込んでくる。
暗い表情をしているトカゲ姿のリリーはアルヴェインを見上げた。
「あの、トカゲって何年ぐらい生きるのですかね。アルヴェイン様より長生きしたら本当に人生終わりですよ。誰も話す人もいない世界で生きるのは辛いです」
絶望的なトカゲを見てアルヴェインは口の端を上げた。
「さぁな。もし明日、フェリシア姫を断罪することに失敗したら俺もここでのうのうと暮らしていないかもしれないぞ」
「あぁ、その可能性もありましたか。アルヴェイン様は良く平然としていますね」
「今更ジタバタしても仕方ないだろう」
落ち着き払っているアルヴェインを見てリリーはまたため息をついた。
(確かにその通りだけれど、本当に大丈夫かしら。お母さまやお父様は心配しているだろうな)
数年実家に帰っていない事を後悔しながらリリーはウトウトと眠りにつく。
トカゲ姿になってから一日のほとんど寝て過ごすことが多くなってた。
アルヴェインの傍で寝る幸せを噛みしめながらリリーは夢を見る。
”リリー、実家に帰りましょう。もう、ずっと家に居ていいのよ”
母親が優しく語りかけてくれる。
(そうね私も家にずっと居たいわ)
木々に囲まれた田舎町。
青い屋根の素朴なお屋敷、生まれてからずっと過ごした懐かしい景色。
(早く帰りたいわ)




