壁の向こうの審査会――顔は隠したのに、平気なふりまで見抜かれました
MISSION 4-3から、しばらく経った。
ある夜、莉央のスマートフォンに蓮からメッセージが入った。
《次のMISSION》
莉央は画面を開いた。
《指定されたイベントに参加してください》
《参加者として、最後まで審査を受けてください》
《以上を達成条件とします》
莉央は二行目をもう一度読んだ。
「……審査?」
イベントに参加することは分かる。
ただ、何を審査されるのかは書かれていなかった。
画面をスクロールする。
記載されているのは、会場とイベントの案内だけだった。
参加者は五人。
観客がいる。
そして、最後まで審査を受ければMISSION達成。
莉央はもう一度画面を見た。
「……今回は、録音いらないんだ」
いつもの録音指示がない。
しばらく画面を見たあと、莉央は返信した。
《了解》
土曜日。
莉央は指定された住所の前で、スマートフォンをもう一度確認した。
店は大通りから一本入った場所にあった。
派手な看板はなく、黒い壁に小さく店名だけが浮かんでいる。
指定された19時には、まだ少し早い。
莉央が扉を開けると、すぐに女性スタッフが近づいてきた。
「イベント参加の方ですか?」
「はい」
名前を確認されると、スタッフは手元の名簿に目を落とした。
「桐生さんですね。こちらへどうぞ」
莉央はそのまま、店の奥へ案内された。
案内された先は、店の奥にある小さな控室だった。
中にはすでに四人の女性がいた。
華やかなワンピースの女性。
細身で、カジュアルな服装の若い女性。
スポーティーな格好の女性。
そして、落ち着いた色の服を着た小柄な女性。
莉央は、淡い色のブラウスに膝丈のスカート。
仕事帰りにそのまま来たと言っても不自然ではない、きちんとした服装だった。
五人の中で、普通の会社員に見えるのは莉央だけだった。
四人とも、目元を隠す飾りのついたマスクをつけていた。
服装も雰囲気もばらばらなのに、顔だけが曖昧にされている。
スタッフは莉央の受付票と手元の名簿を見比べると、声を落として確認した。
それから、マスクと小さな番号札を差し出した。
「こちらをお願いします。3番です」
「3番……」
莉央は番号札を見た。
3。
それが、今日の自分の番号らしい。
スタッフは、五人が揃ったのを確認すると、控室の前に立った。
「本日のイベント中は、お名前ではなく番号でお呼びします」
莉央は手元の番号札を見る。
「参加者同士も、お名前は聞かないようお願いします」
何人かが小さく頷いた。
「進行中、女性の司会が姿勢を直したり、身体に触れて確認する場合があります。事前にご案内した範囲内です。観客が触れることはありません」
そこで莉央は、少しだけ肩の力を抜いた。
スタッフは五人を見回してから、控室の奥にある扉を開けた。
「それでは、準備をお願いします」
扉の向こうには、横に長い壁があった。
壁には同じ高さで五つの開口部が並び、それぞれの下に1から5までの番号が振られている。開口部の向こう側は黒い幕で塞がれていて、こちらから観客の姿は見えなかった。
「皆さんは、ご自分の番号の位置へお願いします」
五人がそれぞれの場所へ分かれていく。
莉央は中央の、3と書かれた位置で足を止めた。
スタッフが壁を示した。
「下着を外して、腰をこちらの開口部に合わせてください。準備が整うまでは、向こう側の幕は開きません」
莉央は、目の前の黒い幕を見た。
この向こうに、観客がいる。
けれど、今はまだ何も見えない。
周囲では、ほかの参加者たちが静かに準備を始めていた。
莉央もスカートに手をかけた。
腰のファスナーを少し下ろし、裾を持ち上げる。
そのままショーツへ指をかけたところで、隣から衣擦れの音がした。
見るつもりはなかったのに、莉央は一瞬だけ横を向いた。
2番の女性も、ちょうど下着を下ろしているところだった。
上半身は普通に服を着たまま。
それなのに、五人とも壁の前で同じ準備をしている。
莉央は視線を戻し、自分のショーツをひざの下まで下ろした。
下半身だけが急に無防備になった。
ブラウスもスカートもそのままなのに、その下だけ何も身につけていない。
莉央はスカートの裾を持ち上げたまま、3番の位置へ近づいた。
開口部には、壁に背を向けて腰を合わせるようになっている。
莉央も向きを変え、背中を壁へ向けた。
「もう少し下がってください」
スタッフの声に従い、莉央はひざを軽く曲げたまま後ろへ下がる。
「はい、その高さです」
腰を預けると、身体がそこで安定した。
思っていたほど無理な姿勢ではない。
脚に力を入れて支え続ける必要もなく、そのまま楽にしていられた。
臀部だけが、開口部の向こう側へきれいに出ている。
莉央が見下ろすと、ブラウスもスカートもいつものままだった。
壁のこちらにいる自分は、下着がひざの下にあることを除けば、ほとんど普段と変わらない。
けれど壁の向こうには、自分のお尻だけが出ている。
今はまだ、その向こうを黒い幕が隠していた。
思ったより、恥ずかしくない。
壁の向こうから、低い話し声が聞こえた。
一人や二人ではない。
何人もの声が重なっている。
さっきまで意識していなかった観客の存在が、急に近くなった。
莉央は無意識に背筋を伸ばした。
そのとき、向こう側のざわめきが少しずつ静かになった。
やがて、女性の声が聞こえてきた。
「皆さん、お待たせしました」
明るく、よく通る声だった。
「今夜は五人の女性に参加していただいています」
莉央は顔を上げた。
姿は見えない。
けれど声は、壁一枚を隔てたすぐ向こうから聞こえてくる。
「それでは、始めましょうか」
紗希の声に続いて、壁の向こうで布が滑る音がした。
次の瞬間、客席の空気が変わった。
話し声が途切れ、代わりに小さなどよめきが広がる。
莉央には、向こう側で何が見えているのか分からない。
ただ、自分の臀部だけが今、二十数人の前に出ていることだけは分かった。
「左から、1番、2番、3番、4番、5番です」
紗希が順に紹介していく。
「今日は、この五人――いや、5つのおしりを皆さんに審査していただきます」
客席から、笑い声が起こった。
「審査は全部で三部門です」
紗希の声が続く。
「各部門ごとに投票していただいて、最後に総合順位を決めます」
少し間を置いてから、
「そして総合1位には、賞金100万円」
今度は、さっきより大きなどよめきが返ってきた。
莉央も思わず顔を上げた。
100万円。
MISSIONには、そんなことは書かれていなかった。
紗希の声が続く。
「では、最初の審査にいきましょう」
客席が静かになる。
「第1部門は、お尻の穴です」
莉央の表情がわずかに固まった。
紗希は楽しそうに続けた。
「まずは、形からじっくり見ていきましょうか」
「1番。形はかなり整ってますね」
「2番は、かなりコンパクトです」
紗希はそれぞれのお尻を軽く撫でながら、短くコメントしていく。
「4番は……」
紗希の手が、お尻の丸みに沿ってゆっくり滑る。
少し開いて、お尻の穴の周りを見た。
「あら。お尻の穴の周りのヒダヒダ、少し形が崩れちゃってますね」
指先で周囲をなぞって、
「痔の名残かしら」
「では、5番」
紗希の手が、お尻の丸みに沿ってゆっくり滑った。
左右を軽く開いて、お尻の穴を覗き込む。
「あら。ちょっと内側がはみ出ちゃってる……」
少し間を置いて、
「お尻好きかもですね」
客席から笑い声が起こった。
「では、3番」
紗希の声が少しだけ変わった。
「あら」
一拍置いて、
「とってもきれい」
莉央は思わず息を止めた。
「こんなにきれいなお尻の穴、なかなかないですよ」
客席から、さっきまでとは違う低いどよめきが返ってきた。
「カメラ、もう少し寄ってください」
その言葉を聞いた瞬間、莉央の胸がざわついた。
その言葉で、莉央は自分のお尻が大型スクリーンに大きく映されていることを意識する。
紗希の両手が臀部に触れた。
丸みを確かめるようにゆっくり撫で、そのまま左右へ開いていく。
「皆さん、よく見てくださいね」
指先がお尻の穴の周りへ触れた。
放射状のヒダを確かめるように、ゆっくりとなぞる。
莉央の腰がわずかに強張った。
「ヒダもきれい。形も整ってるし、周りもすっきりしてます」
また指先が触れる。
指先が動くたび、その動きごと見られていることが、莉央の身体にじわじわ効いてくる。
壁のこちら側では、ブラウスとスカートを着たままの自分が立っている。
なのに向こう側では、自分のお尻だけがスクリーンいっぱいに映され、紗希の指で形を示されている。
紗希が客席へ向き直った。
「では、投票お願いします」
少しして、結果が出た。
「お尻の穴、1位は――3番」
客席から拍手が起こった。
莉央は一瞬、目を見開いた。
最初の部門で、いきなり1位。
「では、次です」
紗希の声が続いた。
「第2部門は、大陰唇」
「ここは長さと左右のバランス、それから真ん中にきれいに収まってるか。あと色ですね。黒ずみが少ない方が、やっぱりきれいに見えます」
紗希は順番に見ていく。
「1番は、少し長いですね」
「2番は、短いですね。少し開いちゃってます」
「4番は、左右差がありますね」
「5番は……ちょっと黒いかな」
そして、
「3番」
紗希の手が莉央の臀部に触れ、左右を軽く開いた。
「あら。3番、きれいですね」
左右の大陰唇を下へ軽く引き、長さを確かめる。
その動きが、スクリーンに大きく映し出される。
莉央の腰が、ほんの少しだけこわばった。
自分のあそこの一部をつままれ、長さまで確かめられている。
しかも、その様子を二十数人が見ている。
自分では見えない。
けれど、いま紗希の指につままれているところまで、大きく映されている。
「長さもちょうどいい。左右も揃ってる。色も明るいですね」
投票が終わる。
「第2部門、1位は――3番」
再び拍手が起こった。
これで、莉央は2部門続けて1位だった。
紗希はそのまま次へ進む。
「では、最後の部門です」
少し間を置いて、
「クリトリス」
客席のざわめきが、わずかに低くなる。
「これは二段階で見ます」
「まずは、このままの状態」
紗希は順番に見ていく。
「ここは、被さり方と形ですね。きれいに収まってるか、左右のバランスがどうか」
1番、4番、5番へ短くコメントしていく。
そして2番。
「あら。2番、きれいですね」
紗希の声が少し上がった。
「かなり収まりがいいです」
客席から、感心したような声が返る。
紗希はそのまま3番へ移った。
「3番は……」
少し間を置く。
「こちらもきれいですね」
指先で周囲を軽く確かめる。
「形も整ってるし、左右のバランスもいいです」
紗希の声が自分のところで止まるたび、莉央の胸の奥がわずかに熱くなる。
投票が終わる。
「被覆状態、1位は――2番」
拍手が起こった。
「2位、3番」
莉央は少しだけ目を見開いた。
ここで初めて、2番に抜かれた。
紗希が結果を見ながら笑った。
「でも3番、まだ総合ではトップですね」
客席から拍手が起こる。
「ここまで、ちょっと勝ちすぎかな」
少し間を置いて、
「このままだと面白くないので、3番だけ少しハンデをつけましょうか」
客席から笑い声が返った。
莉央は眉を寄せた。
ハンデ?
紗希の足音が壁のこちら側へ回ってくる。
やがて、マスク越しに紗希と目が合った。
「3番、少しだけお付き合いくださいね」
何をされるのか分からないまま、莉央は紗希を見返した。
紗希は莉央のすぐ前まで来ると、少しだけ顔を寄せた。
「可愛いお顔」
そう言って、唇を重ねた。
最初は、軽いキスだった。
けれど、離れると思ったところで、紗希の唇がもう一度深く重なる。
莉央が息を吸った瞬間、莉央の舌が強く吸われる。
「……っ」
思わず肩が揺れる。
紗希は急がない。
唇を重ねたまま、舌をゆっくり絡ませる。
莉央の呼吸が少しずつ乱れていった。
自分のお尻だけを見られたまま、こちら側では紗希とこんなキスをしている。
そう意識した途端、胸の奥から熱が広がった。
紗希の手がブラウス越しに胸へ触れる。
指先が、ごく軽く動く。
莉央の身体が小さく反応した。
けれど紗希は、そこで唇を離した。
「はい。これでハンデ終了です」
何事もなかったように笑う。
紗希は壁の向こう側へ戻った。
「では、最後。今度はクリトリスを露出させた状態で見ていきます」
客席が少しざわつく。
「被さってるときと、剥いたあとで印象が変わる人、結構いますからね」
紗希は1番から順に見ていく。
「1番は、少し大きめ」
「2番は……きれいですね。さっきの収まりの良さ、そのままです」
4番、5番にも短くコメントしていく。
そして、
「3番」
紗希の指が、莉央のクリトリスに触れた。
ゆっくりと被覆をずらしていく。
莉央の呼吸が、また少し浅くなった。
触れられるたび、壁の向こうから見られている感覚まで、身体の奥へ深く入り込んでくる。
気持ちいい。
壁の向こうから自分のお尻を見られながら、一番敏感なところを刺激されている。
見られていると思うほど、身体の奥の熱がさらに強くなっていった。
カメラは3番をアップで捉えたままだった。
大型スクリーンには、紗希の指先とクリトリスが大きく映し出されている。
しばらくして、客席のあちこちから小さな声が漏れ始めた。
「……あれ?」
「ちょっと変わってない?」
ざわめきが、少しずつ広がっていく。
莉央自身、身体が熱を帯びているのは分かっていた。
ただ、それがスクリーン越しにはっきり分かるほど、身体に出ているとは思っていなかった。
紗希の声が止まった。
「……3番、ちょっと待ってくださいね」
紗希が、もう一度3番を見た。
「やっぱり、さっきより大きくなってますね」
客席のざわめきが強くなる。
カメラがさらに寄った。
大型スクリーンには、露出したクリトリスが大きく映っている。
「皆さん、分かります?」
紗希が少し笑う。
「ここまで勃起するのも珍しいですよ。2倍……いや、3倍くらい大きくなってますね」
客席から声が上がった。
莉央の頬が熱くなった。
自分が気持ちよくなっていることを、二十数人に見抜かれている。
しかも、その変化までスクリーンいっぱいに映されている。
「では、この状態で投票お願いします」
しばらくして、結果が出た。
紗希が画面を見る。
「あら」
少し間があった。
「3番、ずいぶん落ちましたね」
客席から笑い声が起こった。
さっきまで2部門続けて1位だった莉央が、最後の審査では大きく順位を落としている。
莉央は唇を結んだ。
負けたことより、その理由を見抜かれたことの方が悔しかった。
それ以上に、自分が高揚したせいで評価を落としたことを、観客全員に知られているのが恥ずかしかった。
「そしてクリトリス、1位は――2番」
大きな拍手が起こった。
そのまま紗希が最終集計を確認する。
「では、総合結果です」
客席が静かになる。
「優勝は――2番」
大きな拍手が起こった。
「賞金100万円です」
2番の女性が、壁のこちら側でふっと息を吐き、口元をほころばせた。
莉央は思わず横を見る。
2番は、はっきり笑っていた。
「以上で、本日の審査は終了です」
紗希の声に、客席から拍手が起こった。
それからしばらくして、店を出ると、夜の空気が少し冷たかった。
莉央がスマートフォンを取り出すと、すぐに画面が震えた。
蓮からだった。
《MISSION CLEAR》




