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MISSION 3――あと2秒、届かなかった

《MISSION 3-1 FINAL GUIDANCE》


《すべての指定装備を装着してください》

《MISSION開始前に、解除用キーを玄関ドアの錠下にある指定位置へ掛けてください》

《その後、背面拘束ハーネスを施錠してください》

《MISSION開始後、制限時間内に指定位置のキーを取得し、背面ロックを解除してください》

《作動内容・停止・組合せ・周期はシステムが決定します》

《MISSION中、参加者による変更はできません》


挿絵(By みてみん)


莉央は画面を読み終え、床に並べた装具へ目を落とした。


前回使ったものが、ほとんど全部そろっている。


ひとつずつ身につけていく。


もう手順は知っていた。


最初のころなら、ひとつ装着するたびに手を止めていた。それが今夜は、ためらいながらも次の手順へ進めてしまう。


慣れた。


その事実を意識すると、少しだけ落ち着かなくなった。


準備を終え、解除用の鍵を玄関ドアの指定位置へ掛ける。


挿絵(By みてみん)


最後に両腕を背面拘束ハーネスへ収めた。


カチッ。


ロックの音がした。


それだけで、自分の身体が急に遠くなったような気がした。


前回は耐えた。


最後まで、自分を手放さずに耐え切った。


――私、耐えられた。


その記憶が、今夜の莉央には小さな自信になっていた。


《MISSION START》


《10:00》


莉央は玄関へ向かった。


鍵は、さっき自分で掛けた場所にある。


自由に腕を使えるなら、何でもない高さだ。


だが両腕は背中側に固定されている。


後ろ手を伸ばす。


指先は鍵の輪の少し下をかすめた。


ほんの数センチ足りない。


莉央は踵を上げた。


爪先立ちになり、身体を伸ばす。


指先が輪に触れた。


その瞬間、三つの振動が重なった。


「ん゛っ……!」


不意を突かれて腰が揺れ、膝まで震える。


すでに装着を終えた時点から完全には落ち着いていなかった身体に、一気に刺激が重なった。


爪先だけで支えていた姿勢は簡単に崩れ、指先が鍵から離れる。


莉央はたまらず踵を床へ下ろした。


すると、振動も止まった。


「……え」


莉央はそのまま数秒待った。


何も起きない。


偶然なのか。


もう一度、踵を上げる。


慎重に身体を伸ばし、後ろ手を上げる。


指先が鍵へ近づく。


あと少し。


そこで、また三つが震え始めた。


「んっ……!」


今度はすぐには下りなかった。


姿勢を保とうとして脚や骨盤まわりへ力を入れる。その状態では身体を緩めて刺激を逃がすことができない。


腰が細かく揺れる。


その揺れを抑えようとして、さらに力を入れる。


身体を伸ばし、刺激に押されて少し沈み、また伸びる。


その上下動につられて乳房も揺れ、乳首につけたクリップが遅れて引かれた。


莉央は数秒耐えた。


けれど腰の揺れが大きくなり、指先がまた鍵から外れた。


踵を下ろす。


振動が止まる。


そこで分かった。


鍵へ届きそうになると振動する。


踵を下ろせば止まる。


取ろうとする瞬間だけ、身体をまともに扱えなくされる。


挿絵(By みてみん)


前回とは違う。


ただ耐えていればいいのではない。


刺激を受けながら爪先立ちを保ち、揺れる身体を抑え、そのうえで見えない後ろ手の指先だけを正確に動かさなければならない。


莉央は玄関ドアへ背中を預けた。


呼吸を整えながら、ふと自分の姿を想像した。


身体にはいくつもの装具。


両腕は背中で固定されている。


その状態で、自宅の玄関で爪先立ちになり、自分で掛けた鍵を後ろ手で取ろうとしている。


――何してるんだろう、私。


その瞬間、三人の顔が浮かんだ。


A課長なら、たぶん最初は眉を寄せる。


「桐生さん……何をやってるんだ、それ」


どう説明する。


自分で鍵を掛けました。


自分で腕を使えなくしました。


それから、その鍵を取ろうとしています。


説明すればするほど、意味が分からなくなる。


Bなら、たぶん少し笑う。


「え、それ自分で仕掛けたの?」


そう。


「何その遊び」


その言い方を想像しただけで、莉央は妙に恥ずかしくなった。


Cならもっと素朴だ。


「先輩……それ、楽しいんですか?」


一番答えにくい。


楽しくないなら、なぜ続けている。


嫌なら、なぜ今日も自分で全部準備した。


「鍵、自分で掛けたんですよね」


――そう。


「それで、自分で取れないようにしたんですよね」


――そう。


「……なんで?」


莉央は目を閉じた。


だめ。


先週と同じだ。


三人が自分をどう見るか、その目がどう変わるかを考え始めると、それ自体に引き込まれる。


――この人、何してるんだろう。


その視線だけが、頭の片隅に残った。


莉央は目を開けた。


今は鍵。


それだけ。


三度目。


今度は分かっている。


届きそうになれば来る。


楽になりたければ、踵を下ろせばいい。


でも下ろせば、また最初からだ。


莉央はゆっくり爪先立ちになった。


身体を伸ばし、後ろ手を上げる。


指先が輪へ近づく。


予想した通り、三つの振動が重なった。


「ん゛……っ!」


腰が大きく揺れた。


それでも今度は踵を下ろさない。


脚と骨盤まわりへ力を集め、震える身体を高い位置に保つ。


姿勢を安定させようとするほど刺激を逃がせなくなり、腰は細かく揺れ続ける。身体の上下につられて乳房も動き、クリップがそのたびに引かれる。


鍵を取るほんの数秒だけでいい。


腰も膝も、身体全部を静かにしたかった。


だが言うことをきかない。


指先が輪に掛かった。


少しずつ深く入れる。


輪を持ち上げる。


突起に引っかかった。


身体が大きく揺れ、指が滑りかける。


それでも離さない。


もう一度。


輪を持ち上げる。


あと少し。


そのとき莉央は、もう数秒も続けば、身体が勝手にそこまで達してしまうと悟った。


――まずい。


挿絵(By みてみん)


一度そこを越えてしまえば、その後も同じ刺激を受けながら爪先立ちを保ち、見えない後ろ手で鍵を扱う余裕なんて残らない。


莉央は残っている集中力を指先へ集めた。


輪が突起を越えた。


鍵が手の中へ落ちる。


ほとんど逃げるように踵を床へ下ろした。


三つの振動が止まる。


莉央はドアへ背中を預けたまま大きく息を吐いた。


ぎりぎりだった。


それでも。


鍵は取れた。


――できた。


一番難しいところは越えた。


そのときは、本気でそう思っていた。


《残り時間 03:18》


三分ちょっと。


まだ解除が残っている。


事前確認では、背面の鍵穴へ少し手探りで合わせるだけだった。


――大丈夫。


鍵さえ取れれば、あとはできる。


莉央がドアから身体を離した直後、止まっていた三つの振動が再び始まった。


今度は、明らかにさっきより強かった。


「ん゛――っ!」


腰が大きく揺れ、膝にも力が入らなくなる。


鍵だけは落とさない。


莉央は指へ力を込めた。


前回は耐えた。


今回も耐えられる。


そう思おうとした。


けれど身体は、もう前回と同じ状態ではなかった。


三度の爪先立ちで限界近くまで追い込まれ、ようやく止まったと思った直後に、さらに強い刺激が重なっている。


「だめ……これ、いっちゃう……」


腰を止めようとしても止まらない。


莉央は下半身へ力を入れた。


その瞬間だった。


力を入れたつもりなのに、逆に身体の奥から何かがほどけた。


「あ……」


温かさが一気に広がった。


ハーネスの内側から腿へ伝っていく感覚で、莉央は自分が失禁していることを理解した。


止めようとする。


でも止まらない。


脚も、腰も、呼吸も、もう思った通りにはならない。


そして今度は、当然自分で止められると思っていたものまで。


意思で制御していたものが、ひとつずつ自分の手から離れていく。


それでも三つの振動は止まらなかった。


莉央は鍵を握ったまま耐えようとした。


「だめ……いっちゃう……」


身体がもう一度大きく震えた瞬間、莉央の意識が途切れた。


次に気づいた時、莉央は床に座り込んでいた。


脚を伝ったものが床に広がり、その濡れた中へ、そのまま座り込んでいる。


息が荒い。


脚にもまだうまく力が入らない。


挿絵(By みてみん)


ぼんやりした視線の先に画面が見えた。


《残り時間 02:01》


「……二分?」


その数字で、一気に意識が戻った。


まだ終わっていない。


解除しなければ。


莉央は手の中を確かめた。


ない。


鍵がない。


視線を落とすと、すぐ近くの床に転がっていた。


まず、あれを取る。


莉央は身体を倒し、仰向けになった。


両腕が背中側に固定された状態では、すぐ横にある鍵へ手を伸ばすだけでも簡単ではない。


肩をずらし、背中を滑らせ、身体ごと少しずつ鍵へ寄せていく。


床の状態など、もう気にしている余裕はなかった。


指先が鍵に触れる。


一度滑る。


もう一度。


今度はしっかり掴んだ。


莉央は鍵を握ったまま画面を見る。


《残り時間 01:03》


あと一分。


すぐに身体を返す。


仰向けから横向きへ。


そこからうつ伏せ。


腕を使えないため、普段なら何でもない寝返りにも時間がかかる。


肩を床へ押しつけ、腰をひねる。


脚にもまだ十分な力が戻っていない。


それでも動く。


ようやくうつ伏せになり、膝を立てた。


背面の鍵穴へ、鍵を持った手を少しでも近づけるためだ。


画面が見えた。


《残り時間 00:21》


二十秒。


もうやり直す時間はない。


莉央は後ろ手に握った鍵を背面のロックへ寄せた。


鍵穴は見えない。


指先だけで探る。


金属の縁。


その下。


少し右。


鍵先が硬い縁に当たった。


その瞬間、三つの振動がまた一斉に始まった。


「ん゛っ……!」


腰が大きく揺れ、立てた膝までがくがくと震える。


今度は姿勢を変えても止まらない。


膝を崩せば、鍵穴から手が遠ざかる。


莉央は震える身体を必死に支えながら、指先だけを動かした。


鍵先がずれる。


探り直す。


金属の縁。


その横。


くぼみ。


ここ。


鍵を合わせる。


一度外れる。


もう一度。


《00:05》


今度は少し入った。


浅い。


手首の角度を変える。


《00:03》


あと少し。


鍵は合っている。


回せる。


《00:02》


その瞬間、三つの振動が一気に強くなった。


「ん゛――……っ!」


莉央の身体が大きく強張る。


腰が跳ね、立てていた膝が激しく震えた。


さっき一度限界を越えた身体には、もう耐える余地がほとんど残っていない。


鍵を回さなければ。


分かっている。


それでも指先へ力が入らない。


「だめ……また……」


《00:01》


「……いっちゃう……」


その瞬間、莉央の意識から鍵も時間も消えた。


《00:00》


《TIME OUT》


《MISSION FAILED》


挿絵(By みてみん)

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