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箱庭都市でのアノマリー事件簿  作者: ねんねこ
1話:無人のスーパー
7/8

07.無人スーパーの探索(5)

 走り続けて、ようやく出入口が見えて来た。問題は開いているか確認している最中に、恐らく着ぐるみに追い付かれるという事だ。


「僕が足止めしている間に、外へ出られそうなら出てくれ。このアノマリーは誰かが外に出た時点で終了し、崩壊する!」

「どちらか片方でも外に出られたら逃げ切れるという訳ですね。了解しました」


 ヴィンスがオーダー特製武器である細長い筒から、刃物を引き抜いた。メインの長刀ではなく、横のホルスターに収まっていたナイフより少し刃渡りの長い武器だ。通路が狭いので長刀は使用しないらしい。

 それ以上は見ている余裕がなく、小鳥は床を蹴って従業員用出入口へ突進した。

 客が出入りするセンサーの付いた自動ドアではなく、ノブを捻って押し開けるタイプのドアだ。

 錆び付いて固いドアノブを下ろし、ドアを押す。

 鍵がかかっている様子はなく、拍子抜けする程にあっさりとドアは開いた。開いた先の光景は真っ暗な闇だ。飛び込むのを躊躇するような光景ではあるが、それはそれで面白い。

 これが出口で本当に合っているのかを経験者であるヴィンスに確認する事もなく、底の見えない闇へと身を投じた。


 ***


 ざわつく人々の声が耳朶を打つ。

 気が狂いそうな程の忙しない足音、行き交う人々は床に座り込む小鳥とヴィンスを一瞥するも、声を掛ける様子もなく過ぎ去っていく。


「……アノマリーから出られたようですね」


 気が付けば例のスーパーの2階、玩具売り場の前だった。

 座り込んでいれば買い物客の邪魔になるのでいそいそと立ち上がる。着ぐるみと交戦していたヴィンスはややボロボロだった。床を転がされでもしたのだろうか。


「ハァ、重労働だったな。お嬢さん、怪我は?」

「私は無傷です。が、あなたは随分とその……埃をかぶっていますね」

「ゴホゴホッ! あの着ぐるみ、意外と格闘が出来てね。いてて、脇腹に思いっきり蹴りが入って本当に痛い……しくしく」


 相変わらず厳つい泣き真似を披露しているヴィンスだったが、思ったより元気そうで何よりである。


「はあ……。助けていただいてありがとうございました」

「ふふん、礼は及ばないさ。仕事だからね。ところで――現在の時刻だが、もう20時だ。結構時間が経っているな」


 ――困ったな、用事をすっぽかしたような時間帯だ。

 それとなくスマホを見る。先方から連絡でも入っているかもしれないと思ったが、特に誰からの連絡もなかった。実家からもだ。


「小鳥嬢。もう時間も遅いし、僕がお家まで送ろうか?」


 こういった提案はオーダー側から行われる事はない。

 例えばこちらが送迎をお願いすれば、1回くらいならば付き合ってくれるだろう。だが秩序維持機構であるオーダーが一人の人間にわざわざ職員の時間を割いて与えるような提案は通常しない。


「――何か……他に目的でもあります? 職員さん」

「鋭いなあ、君」


 エヘッ、と擬音が付きそうなムカつく表情を披露したヴィンスは両手を合わせて小さく頭を下げた。


「いやすまない、実はこれから桜街にある鳥守神社に用がある。もう既にかなり時間を超過しているにも関わらず、あの辺りを歩き慣れていないが為に神社までスムーズに辿り着ける自信がない! 勿論、行った事ないから《ゲート》も使えないんだよね」

「それで?」

「君はどう見ても極東人、つまり桜街に帰るってことだろ。こんな事、学生にお願いするのもあれだがお兄さんを神社まで連れて行ってくれないか……お礼に君をご自宅まで送り届けよう」


 ――成程。私が会う予定だった業者……オーダーの職員はこの人だったのか。

 《ゲート》を使わず桜街へ行く方法。前にも説明した通りで、奇跡的に小鳥とヴィンスのルート取りは同じだったと言う訳だ。

 オーダー本部も上層に鎮座しており、ハイエスト魔法学園との距離も近い。最短ルートを突き詰めれば同じ道に至るのは当然か。そして揃って空間アノマリーに収容されていれば世話ない話だ。

 彼はなかなかリアクションが面白い。目的地は一緒なので送り届けてから種明かししてやろう。人をちょっと驚かせるのは好きだ。


「小鳥嬢? ねえねえ、頼むよ~。鳥守神社を待たせるなんて、僕の首が物理的に跳んじゃうって!」

「いいですよ、鳥守神社までご一緒しましょう」

「助かる! いやー、やはり人助けは回り回って僕の力になるんだよなあ」

「しかし、歩いて行くにはいささか疲れました」


 今日はこれ以上、カロリーの高い行動は起こしたくない。彼には用件だけ話して後日解決してもらうとしよう。


「疲れた? いやあ、流石に僕に学生を担いで移動するだけの体力はない――」

「《ゲート》」


 鳥守神社までの直通ゲートを開く。彼と違って神社は実家と同義だ。行った事が無いなんて訳がないので。


「ええ!? 魔力25ポイントだよ、いいのかい? 僕の為に」

「いいから早く通ってください」

「助かる~」


 ヴィンスはご機嫌だ。確かに魔力25ポイントは馬鹿にならない。

 これだけの魔力を使用すれば回復するのに1日はかかるだろう。今日の用事が済んだらしっかり食事を摂り、早めに眠るとしよう。規則的な生活が魔力を支えるのである。


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